| ナ・ホンジン 나홍진 / Na Hong-jin | |
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![]() 『HOPE』で参加した2026年カンヌ国際映画祭でのナ・ホンジン(出典:ウィキメディア・コモンズ、Gabriel Hutchinson撮影、CC BY-SA 4.0) | |
![]() 2025年9月、第30回釜山国際映画祭の頃のナ・ホンジン(出典:ウィキメディア・コモンズ、Outhere505撮影、CC BY-SA 4.0) | |
| 本名 | 羅泓軫(나홍진) |
| 誕生日 | 1974年7月20日 |
| 年齢 | 52歳 |
| 出身地 | 韓国・ソウル |
| 国籍 | 韓国 |
| 学歴 | 漢陽大学校ERICAキャンパス 工芸学科、韓国芸術総合学校 映像院 |
| 職業 | 映画監督、脚本家、映画プロデューサー |
| 肩書 | 2025年 第30回釜山国際映画祭 コンペティション部門審査委員長 |
| 活動期間 | 2003年 - |
| 代表的な実績 | 『チェイサー』『哀しき獣』『哭声/コクソン』『HOPE』、製作・原案『女神の継承』 |
| 受賞 | 大鐘賞 作品賞・監督賞(『チェイサー』)、青龍映画賞 監督賞(『哭声/コクソン』)、百想芸術大賞 映画部門作品賞(『哭声/コクソン』)、大鐘賞 短編映画監督賞(『汗』)ほか |
| その他 | 2026年『HOPE』で第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に初選出 |
概要[編集]
ナ・ホンジン(나홍진、Na Hong-jin、1974年7月20日 - )とは、韓国の映画監督・脚本家である。『チェイサー』『哀しき獣』『哭声/コクソン』の3本で韓国スリラー・ホラーの基準を塗り替え、10年ぶりの新作『HOPE』(2026年)でカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出された、韓国映画屈指の「寡作の鬼才」である。
詳細[編集]
漫画家志望、広告業界、そして30歳の映画学校[編集]
1974年、ソウル生まれ。英東高等学校を卒業後、漢陽大学校ERICAキャンパスの工芸学科で学んだ。大学時代は漫画家を目指していたものの、ストーリーを作ることの難しさを感じて断念したと本人は語っている。卒業後は広告業界で働いたが、映像づくりの面白さに目覚めて映画への思いを捨てきれず、30歳前後で韓国芸術総合学校の映像院に進学した。入試の成績は振るわなかったが、面接で「本当に映画がしたいです」と切実に訴えて合格をつかんだ、というエピソードが韓国では有名である。
短編3本で頭角を現す[編集]
映画学校時代から短編を撮り始め、2003年の『5 Minutes』を皮切りに、2005年の『完璧な鯛料理(완벽한 도미요리)』、2007年の『汗(한/汗)』を発表した。『完璧な鯛料理』は完璧な料理を追い求める料理人の悲劇を描いたブラックコメディで、短編ながら35ミリフィルムで撮影し、約4,500万ウォンを費やしたとされる。この作品で韓国のミジャンセン短編映画祭「絶対悪夢」部門の最優秀作品賞を受賞。続く『汗』では大鐘賞の短編映画監督賞と富川国際ファンタスティック映画祭の審査員賞を獲得し、「とんでもない新人がいる」と業界の注目を集めた。
長編デビュー作がいきなり500万人ヒット[編集]
2008年、長編デビュー作『チェイサー』を発表。元刑事のデリヘル経営者が、消えた女性たちを追ううちに連続殺人鬼にたどり着くという物語で、韓国で約512万人を動員し、同年の韓国映画で3位の大ヒットとなった。第61回カンヌ国際映画祭でも上映され、新人監督がいきなり国際舞台に立つことになる。以降、『哀しき獣』(2010年)、『哭声/コクソン』(2016年)、『HOPE』(2026年)と、長編はわずか4本。キャリア20年以上でこの本数という寡作ぶりも、ナ・ホンジンという監督を語るうえで欠かせない要素になっている。
「完璧主義」の代名詞[編集]
ナ・ホンジンの名前とセットで語られるのが、常軌を逸した完璧主義である。1つのシーンを数日かけて撮る、同じカットを何十回も撮り直す、編集に1年近くかける――といった逸話は作品ごとに更新されてきた。『哀しき獣』の現場のスタッフ募集告知に「非常に厳しい環境です。最後までやり遂げる意志のある人のみ応募ください」と書かれていたという話まで伝わっている。本人も「1本撮り終えると、次の映画には近寄りたくもなくなる」と語っており、作品と作品の間隔が長いのは、毎回すべてを出し切ってしまうからだともいえる。
長編作品[編集]
『チェイサー』(2008年)[編集]
主演はキム・ユンソクとハ・ジョンウ(いずれも当時)。キム・ユンソクが演じるのは、元刑事で今はデリヘルの元締めをしているジュンホ。自分の店の女性が次々に姿を消し、売り飛ばされたと思い込んで追跡を始めたところ、相手は女性たちを殺害していた連続殺人鬼ヨンミン(ハ・ジョンウ)だった……という筋立てである。物語は韓国で実際に起きた連続殺人事件から着想を得たとされ、ソウルの望遠洞などで撮影された。
この作品の衝撃は「犯人が誰か」ではなく、犯人が序盤であっさり捕まるのに、警察組織のずさんさのせいで事態がどんどん悪化していく構造にある。制度の無力さと、主人公の剥き出しの怒りがぶつかり合うスピード感は、韓国スリラーの新しい基準になったと評価された。大鐘賞では作品賞と監督賞を受賞し、韓国映画評論家協会賞、百想芸術大賞などでも主要部門を総なめにした。ワーナー・ブラザースが100万ドルでリメイク権を買ったことも話題になり、インドでは非公式リメイクとされる『Murder 2』(2011年)まで作られている。日本では2009年に公開された。
『哀しき獣』(2010年)[編集]
原題は『黄海(황해)』。中国・延辺朝鮮族自治州でタクシー運転手をしている朝鮮族の男グナム(ハ・ジョンウ)が、借金返済のために韓国での殺人を請け負い、海を渡ったことから陰謀の渦に巻き込まれていく。『チェイサー』のハ・ジョンウとキム・ユンソクが再共演し、今度はキム・ユンソクが凶暴な裏社会の男ミョンガを演じるという「立場逆転」のキャスティングも話題を呼んだ。
ハリウッドのメジャースタジオ(20世紀フォックス系のフォックス・インターナショナル・プロダクションズ)が出資に関わった初めての韓国映画とされ、製作費は約900万ドル。2010年12月22日に公開されて初登場1位を記録したが、最終的な動員は約214万人にとどまり、前作の期待値からすれば苦戦した。公開日が決まっていたため編集期間が1か月半ほどしか取れず、本人は不眠症に苦しんだという。後にブルーレイ用に約3か月をかけて監督編集版を作り直しており、「3年間ぐっすり眠れなかった」と振り返っている。
それでも作品の評価は高く、2011年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に選出。ハ・ジョンウは百想芸術大賞とアジア・フィルム・アワードの主演男優賞を受賞し、監督自身もシッチェス・カタロニア国際映画祭で監督賞を受けた。日本では『哀しき獣』の邦題で2012年に公開されている。
『哭声/コクソン』(2016年)[編集]
全羅南道の谷城(コクソン)を舞台に、謎のよそ者の日本人(國村隼)と連続怪死事件をめぐって村が狂気に呑まれていくオカルト・ホラー。頼りない警察官ジョングをクァク・ドウォン、祈祷師イルグァンをファン・ジョンミン、白い服の謎の女ムミョンをチョン・ウヒが演じた。韓国では約687万人を動員してナ・ホンジン最大のヒット作となり、第69回カンヌ国際映画祭の非コンペティション部門でも上映された。
前2作が「加害者」を追うスピード重視の犯罪映画だったのに対し、本作では「被害者はなぜその事件に巻き込まれたのか」という問いから出発し、シャーマニズムとキリスト教のモチーフを大胆に取り込んだ。撮影期間は約6か月・全121回次、編集には約11か月をかけたとされる。第37回青龍映画賞では監督賞を受賞し、國村隼が外国人俳優として初めて同賞の助演男優賞を受賞したことも大きなニュースになった。作品の詳細は哭声/コクソンの記事を参照。
『HOPE』(2026年)[編集]
『哭声/コクソン』から10年ぶりとなる長編第4作で、韓国語の原題は『호프』。非武装地帯(DMZ)近くの架空の小さな港町「ホープ・ハーバー」に、正体不明の存在が現れる――という、監督初のSFアクション大作である。山火事で通信が断たれた村を守る警察署長ボムソクをファン・ジョンミン、地元の猟師ソンギをチョ・インソン、新人警官ソンエをチョン・ホヨン(イカゲーム)が演じ、さらにマイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、テイラー・ラッセル、キャメロン・ブリットンといった海外キャストが「異星から来た者たち」として参加した。
製作費は約4,600万ドルと報じられ、韓国映画史上最大規模とされる。第79回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で2026年5月17日にワールドプレミア上映され、韓国映画のコンペ入りはパク・チャヌクの『別れる決心』(2022年)以来となった。上映後には6分間のスタンディングオベーションが起きたと報じられている。韓国では同年7月15日に公開され、初週末に約150万人を動員。北米では9月にNeonの配給で公開され、韓国映画として米国歴代上位の興行成績を記録した。日本ではギャガの配給で2027年に公開予定とされている。
『HOPE』ができるまで[編集]
食堂で浮かんだ「ひとつのイメージ」[編集]
『HOPE』の出発点は、2017年から2018年ごろ、監督が食堂で食事をしていたときにふと頭に浮かんだ「ひとつのイメージ」だったという。初稿は2018年に完成したが、そこから撮影・特殊効果・機材など準備すべき要素があまりに多く、パンデミック期間中も準備を続けることになった。撮影は2023年に韓国の海南郡などとルーマニアのレテザト山地で行われ、撮影監督は『哭声/コクソン』に続いてホン・ギョンピョ、音楽は『ゲット・アウト』などで知られるマイケル・エイブルズが担当した。韓国の報道によれば撮影は2024年3月に終わり、そこから約2年をポストプロダクションに費やしている。
「無謀ではなく、最も安全な選択」[編集]
巨額の予算と海外キャストを投入した国際的なジャンル映画という企画について、監督は韓国紙のインタビューで「無謀に見えるかもしれないが、むしろそれがより安全な道だと考えた」と語っている。『哭声/コクソン』の後にアメリカを行き来するなかで、市場の大きな変化を肌で感じ、「国内市場だけを考える時代は終わった」と判断したのだという。エイリアンのデザインはタブロイド紙に載るような昔ながらの宇宙人像から出発し、海外のデザインチームと組んで約100案から1案を選ぶような作業を繰り返したとされる。
ほぼ全編「昼間」のSF[編集]
本作の大きな特徴は、クリーチャーものでありながら、ほぼ全編が昼間に撮影されていることである。暗闇でごまかしがきかないぶん技術的なハードルは高く、監督は以前なら「雨が降ったら撮れない」と強迫観念に駆られていたが、今回は「ただやってしまえばいい」と気づいたと振り返っている。カンヌ上映版は160分、韓国公開版は156分とされ、韓国公開にあたっては一部キャラクターの場面を復元・強化するなどの微調整を加えた。
体重7キロ減のカンヌ[編集]
カンヌ映画祭に向けた仕上げの期間には睡眠不足が続き、体重が7キロ落ちたと韓国のインタビューで明かしている。撮影中も並行して編集作業を続けていたという。一方で作品には自信を見せ、「何度見ても没頭してしまう」と語った。ホラーやスリラーの印象が強い監督だが、本作にはコメディ要素も多く、インタビューでは「笑えたら笑ってください、お願いします」と観客に呼びかけている。続編については「三部作になるかもしれないし、さらに広がるかもしれない」と含みを持たせているが、正式な発表はない。
作風[編集]
「答えを出さない」結末[編集]
ナ・ホンジン作品の多くは、観客にすっきりした答えを渡さないまま幕を閉じる。とくに『哭声/コクソン』では、誰が悪で誰が救い手だったのかが最後まで明示されず、韓国では「傑作」と「不親切すぎる」で評価が真っ二つに割れた。監督は「どう解釈するかは観客次第」という姿勢を貫いており、『HOPE』でもラストをめぐって賛否が分かれた。結末の多くが悲劇的なトーンで終わることも、ファンの間ではおなじみである。
走る、追う、逃げる[編集]
デビュー作のタイトルからして『チェイサー(追撃者)』だが、その後の作品にも必ずといっていいほど執拗な追跡シーンが登場する。夜の路地を延々と走り回る『チェイサー』、カーチェイスと肉弾戦が続く『哀しき獣』、山中を逃げ惑う『哭声/コクソン』と、「追う者と追われる者」の構図は監督のトレードマークになっている。編集の細かさでも知られ、『哀しき獣』は約3,000カットに及ぶとも言われる。
暗さとブラックユーモア[編集]
画面のトーンは基本的に暗く、生理的な不快感すれすれの暴力描写も多い。一方で、短編『完璧な鯛料理』がブラックコメディだったように、どの作品にも妙に可笑しい場面が紛れ込んでいる。『哭声/コクソン』でも前半は頼りない警官ジョングのコミカルな描写が続き、そこから一気に地獄へ突き落とす落差が恐怖を倍増させていた。『HOPE』でコメディの比重が増したのは、もともと監督が持っていた資質が前面に出た結果ともいえる。
俳優を「化けさせる」監督[編集]
ナ・ホンジン作品に出演した俳優は、その後に大きく飛躍するケースが目立つ。『チェイサー』のキム・ユンソクとハ・ジョンウ、『哭声/コクソン』で映画初主演を果たしたクァク・ドウォン、謎の女を演じたチョン・ウヒなどがその例である。『哭声/コクソン』と『HOPE』の両方に出演したファン・ジョンミンは「自分も完璧主義者なので相性が良かった」と語り、チョン・ウヒは監督の性格について「意外なほど敏感で繊細」と評している。監督自身は「俳優を起用したら、その人の解釈を最優先にする」と語っている。
プロデューサーとしての活動[編集]
『女神の継承』(2021年)[編集]
タイのホラー映画『女神の継承』(原題:Rang Song、英題:The Medium)では、原案・製作を担当した。監督はタイのバンジョン・ピサンタナクーン。タイ東北部イサーン地方の祈祷師一族をモキュメンタリー形式で追う作品で、もともとは『哭声/コクソン』でファン・ジョンミンが演じた祈祷師イルグァンを主人公にしたスピンオフ的な構想から出発したとされる。ただし企画は独自の方向へ発展し、監督自身は「『女神の継承』は『哭声/コクソン』とは関係ない」と明言している。
2021年7月に富川国際ファンタスティック映画祭でプレミア上映されて最優秀作品賞を受賞し、スペインのサン・セバスティアン・ホラー・ファンタジー映画週間などでも賞を獲得した。日本でも2022年に公開され、「怖すぎる」と口コミで話題を呼んだ。自分で撮らなくても「ナ・ホンジン印」のホラーは成立する、ということを証明した1本である。
釜山国際映画祭の審査委員長[編集]
2025年9月に開かれた第30回釜山国際映画祭では、コンペティション部門の審査委員長を務めた。この年の同映画祭はコンペティション部門を新設しており、その初代審査委員長という大役を任されたことになる。『HOPE』の公開を翌年に控えた時期で、監督が公の場に姿を見せる貴重な機会にもなった。
炎上とバズ[編集]
「答えがない」論争[編集]
『哭声/コクソン』の公開時には、結末の解釈をめぐって韓国のネット上で考察合戦が過熱し、「傑作」派と「不親切」派が真っ向から対立した。10年後の『HOPE』でも同じようにラストの賛否が真っ二つに割れ、「この監督は昔からそうだった」と言わんばかりに『哭声/コクソン』がディズニープラス(韓国)のランキング上位に再浮上する現象まで起きた。
「韓国最大の予算」をめぐる注目[編集]
約4,600万ドルという韓国映画史上最大級の製作費は、公開前から「回収できるのか」と注目の的になった。韓国での初週末は約150万人と好発進し、海外では約200の国・地域に先行販売されたと報じられている。結果として評価・興行とも「期待の大きさに比べると賛否両論」という受け止め方が多く、ナ・ホンジンの作品らしく公開後も議論が続いている。
余談[編集]
- 他の監督たちからも一目置かれる存在で、パク・チャヌク、ポン・ジュノ、イ・チャンドンらとともに、海外映画祭で評価される韓国の作家監督の一人に数えられる。
- 『哭声/コクソン』の撮影中は、体調を崩して病院に通いながら撮影を続けたと出演者が証言している。編集期間中には「撮っていないシーンを夢の中で編集する」悪夢まで見たという。
- 『哭声/コクソン』のファン・ジョンミン起用は、移動中に散々な目に遭った監督が宿で何気なくテレビをつけたら、彼の出演作『新しき世界』が流れていたのがきっかけだったとされる。
- 『HOPE』に出演したマイケル・ファスベンダーとアリシア・ヴィキャンデルは実生活でも夫婦であり、夫婦そろってのナ・ホンジン作品参加も話題になった。
- 『HOPE』はニューヨーク・アジアン映画祭で、アクション映画を対象としたダニエル・A・クラフト賞を受賞している。
- 韓国の作家性の強いジャンル映画としては、ほかにポン・ジュノの『殺人の追憶』『パラサイト 半地下の家族』、パク・チャヌクの『オールド・ボーイ』などがあり、ソン・ガンホらとともに韓国映画の国際的評価を押し上げてきた系譜に連なる。
- 『HOPE』で猟師ソンギを演じたチョ・インソンは、ドラマ『ムービング』などで知られる。ナ・ホンジン作品への出演は本作が初めてである。

