新しき世界
신세계
New World
Lee_Jung-jae_2021.jpg
主人公イ・ジャソンを演じたイ・ジョンジェ(2021年3月。出典:ウィキメディア・コモンズ、撮影:사진기자머길、CC BY 3.0)
Hwang_Jung-min_in_July_2026_(cropped).jpg
チョン・チョン役で青龍映画賞主演男優賞を受賞したファン・ジョンミン(2026年7月。出典:ウィキメディア・コモンズ、作者:Republic of Korea(文化体育観光部)、CC BY-SA 4.0)
監督 パク・フンジョン
製作 ハン・ジェドク
キム・ヒョヌ
脚本 パク・フンジョン
出演 イ・ジョンジェ
チェ・ミンシク
ファン・ジョンミン
パク・ソンウン
ソン・ジヒョ
撮影 チョン・ジョンフン
ユ・オク
音楽 チョ・ヨンウク
ジャンル 犯罪、ノワール
撮影期間 2012年6月16日 - 9月14日
制作会社 サナイピクチャーズ
ペパーミント&カンパニー
配給 NEW(ネクスト・エンターテインメント・ワールド、韓国)
彩プロ(日本)
劇場公開 2013年2月21日(韓国)
2014年2月1日(日本)
上映時間 134分
製作費 約70億ウォン
興行収入 韓国観客動員 約468万人
全世界 約3,170万ドル
言語 韓国語、中国語
レイティング 韓国:青少年観覧不可
日本:PG12



概要[編集]

新しき世界(신세계、New World)とは、2013年に公開された韓国の犯罪ノワール映画(韓国映画)である。監督・脚本はパク・フンジョン。韓国最大の犯罪組織に8年間潜入している警察官イ・ジャソン(イ・ジョンジェ)、彼を操る警察幹部カン課長(チェ・ミンシク)、ジャソンを「ブラザー」と呼んで可愛がる組織の大幹部チョン・チョン(ファン・ジョンミン)の3人を軸に、組織の跡目争いと潜入捜査の行方を描く。

詳細[編集]

潜入8年目の男が主人公[編集]

物語の舞台は、表向きは企業グループの顔を持つ韓国最大の犯罪組織「ゴールドムーン」。主人公イ・ジャソンは警察から送り込まれた潜入捜査官で、すでに8年にわたって組織に身を置き、いまや大幹部チョン・チョンの右腕にまで出世している。警察側の上司カン・ヒョンチョル課長は「これが最後の任務だ」と約束しながら、ジャソンの解放を何度も先延ばしにする。本人はもう足を洗いたいのに、辞めると言えば身元をバラすと脅される。警察にも組織にも本当の居場所がない男の、息の詰まるような日々が描かれていく。

会長の死から始まる跡目争い[編集]

物語を動かすのはゴールドムーンの会長ソク・ドンチュルの急死だ。後継者の座を狙うのは、華僑系の勢力「北大門派」を率いるチョン・チョンと、ジェボム派を後ろ盾にするイ・ジュングの2人。カン課長はこの対立を利用し、両者を潰し合わせたうえで、扱いやすい副会長チャン・スギをトップに据えて組織ごと手中に収めようと画策する。この「新しき世界」作戦の駒として、ジャソンはさらに深く組織の中枢へと押し込まれていく。タイトルは、この作戦名に由来している。

韓国ノワールの代名詞に[編集]

2013年2月21日に韓国で公開されると、青少年観覧不可のレイティングながら約468万人を動員するヒットになった。公開後も繰り返し鑑賞するファンが多く、名台詞はネットミームとして10年以上使われ続けている。日本では2014年2月1日に彩プロの配給で公開され、海外の映画祭でも賞を獲得。『オールド・ボーイ』や『チェイサー』、『アジョシ』などと並んで「韓国ノワールといえばこれ」と挙げられる一本になった。2020年5月21日には韓国で再上映も行われている。

主な登場人物とキャスト[編集]

イ・ジャソン(演:イ・ジョンジェ)[編集]

ゴールドムーンの理事にして、実は警察の潜入捜査官。全羅南道・麗水出身の華僑系という設定で、同じ華僑出身のチョン・チョンとは兄弟分のような関係にある。警察官としての使命と、自分を本気で信頼してくれる兄貴分への情の間で引き裂かれ、妊娠中の妻ジュギョン(パク・ソヨン)との平穏な暮らしを望みながらも、抜け出せない状況に追い込まれていく。ほとんど感情を表に出さない抑えた芝居が、終盤の選択に凄みを与えている。イ・ジョンジェにとってはキャリアの代表作のひとつで、のちの『イカゲーム』で世界的スターになってからも、この作品を挙げるファンは多い。

カン・ヒョンチョル課長(演:チェ・ミンシク)[編集]

警察庁の捜査企画課長で、ジャソンを組織に送り込んだ張本人。組織壊滅のためなら部下の人生も平気で駒として扱う冷徹な策士で、ジャソンを脅して任務を続けさせる一方、組織の幹部も弱みを握って揺さぶる。チェ・ミンシクは『オールド・ボーイ』の復讐者とはまったく違う「静かな悪役」を演じ、警察側の人間こそが最も非情だという本作のねじれた構図を体現した。

チョン・チョン(演:ファン・ジョンミン)[編集]

ゴールドムーンのナンバー2で、北大門派を率いる華僑出身の大幹部。中国語に堪能で、中国側との取引を一手に握る。軽口ばかり叩いて部下をからかう姿は組織のボスというより「近所の陽気な兄ちゃん」だが、敵に回した相手には一切容赦しない。ジャソンを「ブラザー」と呼んで深く信頼しており、この2人の関係こそが作品の心臓部だ。ファン・ジョンミンは撮影中に多くのアドリブを入れ、監督もそれを採用したとされる。元の脚本ではもっと怒りっぽい人物だったが、ファン・ジョンミンの解釈でジャソンへの愛情がより濃く表現されたといわれる。この役で第34回青龍映画賞の主演男優賞を受賞した。

イ・ジュング(演:パク・ソンウン)[編集]

チョン・チョンと跡目を争うもうひとりの実力者。冷たい目つきと低い声で周囲を威圧する強面で、チョン・チョンとは正反対のタイプの悪役。パク・ソンウンはこの役で一気に知名度を上げ、百想芸術大賞や青龍映画賞の助演男優賞にノミネートされた。2023年3月にMBCのトーク番組『ラジオスター』に出演した際には、本作が自分にとって3度目の大きなチャンスで、それ以前に2本の話題作のオーディションに縁がなかったことが結果的にこの役につながったと振り返っている。

その他の出演者[編集]

ジャソンと警察をつなぐ連絡役シヌをソン・ジヒョが演じた。バラエティ『ランニングマン』でおなじみの彼女が、ノワールの緊張感あふれる役どころで出演している。副会長チャン・スギはチェ・イルファ、警察のコ局長はチュ・ジンモ、チョン・チョンの側近ソクムはキム・ユンソンが演じた。さらに会長ソク・ドンチュル役のイ・ギョンヨン、マ・ドンソク、リュ・スンボムが特別出演しており、いま見返すとかなり豪華な顔ぶれである。

スタッフと製作[編集]

監督パク・フンジョン[編集]

パク・フンジョンはもともと脚本家として知られた人物で、キム・ジウン監督の『悪魔を見た』(2010年、主演イ・ビョンホン・チェ・ミンシク)や、リュ・スンワン監督の『生き残るための3つの取引』(2010年)の脚本を手がけた。2011年の『血闘』で監督デビューし、本作が監督第2作にあたる。本作の成功後は『隻眼の虎』(2015年、主演チェ・ミンシク)、『V.I.P. 修羅の獣たち』(2017年)、キム・ダミを世に送り出した『The Witch/魔女』(2018年)、ヴェネツィア国際映画祭で上映された『楽園の夜』(2020年)、『貴公子』(2023年)などを発表し、韓国ジャンル映画の売れっ子監督となった。

撮影と音楽は『オールド・ボーイ』組[編集]

撮影監督はチョン・ジョンフン(ユ・オクと共同)、音楽はチョ・ヨンウク。この2人はいずれもパク・チャヌク監督の『オールド・ボーイ』を支えたスタッフで、チョン・ジョンフンはのちにハリウッドへ渡り『イノセント・ガーデン』や『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』の撮影を担当している。重厚で冷たい色調の画面と、物語を締め上げるような音楽は本作の評価を大きく押し上げ、チョ・ヨンウクは第50回大鐘賞で音楽賞を受賞した。編集はムン・セギョン。

製作体制[編集]

製作はサナイピクチャーズとペパーミント&カンパニー、韓国での配給はNEW(ネクスト・エンターテインメント・ワールド)が担当した。製作費は約70億ウォンとされ、撮影は2012年6月16日から9月14日まで行われた。北米ではWell Go USAが配給し、北米での興行収入は約46万ドルだった。全世界の興行収入は約3,170万ドルにのぼる。

あらすじ(ネタバレあり)[編集]

跡目争いの激化[編集]

会長の急死で、ゴールドムーンはチョン・チョン派とイ・ジュング派に割れる。カン課長は裏でチョン・チョンを揺さぶり、イ・ジュングを裏切るよう仕向ける。イ・ジュングが逮捕されると、今度はカン課長がその裏切りをイ・ジュング側に漏らし、両派の対立は決定的になる。怒ったイ・ジュングはチョン・チョンの暗殺を命じ、さらにジャソンの家も襲撃され、妻ジュギョンは流産してしまう。

消された警察官の記録[編集]

ジャソンは何度も任務からの解放を求めるが、カン課長はジャソンの警察官としての記録を破棄し、潜入を続けるしかない状況に追い込む。一方、襲撃で瀕死の重傷を負ったチョン・チョンは、病床でジャソンに語りかける。その言葉からは、チョン・チョンがジャソンの正体に気づいていた可能性がにじむ。

ジャソンの選択[編集]

チョン・チョンの死後、ジャソンは彼の勢力とチャン・スギ派をまとめ上げ、チャン・スギ、カン課長、コ局長、イ・ジュングを次々と排除する。そしてついにゴールドムーンの新会長の座に就き、潜入捜査官だった過去を知る者はいなくなる。ラストは若き日のジャソンとチョン・チョンが敵対勢力を叩きのめす回想で締めくくられ、劇中ほとんど笑わなかったジャソンがそこで初めて笑みを見せる。この幕切れの解釈をめぐって、公開から10年以上たった今も議論が続いている。

名台詞とネットミーム[編集]

「ドゥルワ」[編集]

最も有名なのが、エレベーターの中で敵に囲まれたチョン・チョンが叫ぶ「드루와、드루와(ドゥルワ=入ってこい)」。刃物で刺されながらも狭い空間で次々と敵を相手取る壮絶なシーンで、方言まじりの独特の発音もあって韓国のネットで大量にパロディされた。「かかってこい」という意味で、日常会話やゲーム配信のノリでも使われるほど定着している。

「死ぬにはちょうどいい天気だな」[編集]

イ・ジュングが曇り空を見上げてつぶやく「거 죽기 딱 좋은 날씨네」も名台詞の常連。物騒な内容だが、「チキンとビールにちょうどいい天気だな」のように一部を差し替えたパロディが定番化している。同じくイ・ジュングの「살려는 드릴게(命だけは助けてやる)」も、組織幹部を脅す場面の台詞としてよく引用される。

「ちょっと冗談が過ぎるんじゃないか」[編集]

主人公ジャソンの台詞では、車をぶつけられた場面での「거 중구형、이거 장난이 너무 심한 거 아니오(ジュング兄貴、ちょっと冗談が過ぎるんじゃないですか)」が有名で、こちらもネットで多用される。カン課長の「이러면 완전히 나가리인데(これじゃ完全にパーだ)」も、日本語由来の俗語「ナガリ」を使った台詞として知られる。

評価と受賞[編集]

批評家の評価[編集]

海外の批評は総じて好意的だった。ニューヨーク・タイムズは同ジャンルの多くの作品より血なまぐささが少なく思慮深いと評し、ロサンゼルス・タイムズは込み入った組織の内紛を忍耐強く優雅に描いたと称賛した。Film Business Asiaは『卑劣な街』(2006年)以来、最も演技が充実し引き込まれる韓国ギャング映画だと位置づけ、韓国を代表する3人の俳優が絶頂期の演技を見せていると評した。一方で、ジャンルに新味がない、ゴッドファーザーへの目配せはあるが韓国犯罪映画の過剰さから抜け出せていない、といった辛口の評もあった。

主な受賞[編集]

  • 第34回青龍映画賞 主演男優賞(ファン・ジョンミン)。作品賞・監督賞・助演男優賞(パク・ソンウン)・撮影賞などにもノミネート。
  • 第22回釜日映画賞 主演男優賞(ファン・ジョンミン)
  • 第50回大鐘賞 音楽賞(チョ・ヨンウク)
  • 第46回シッチェス・カタロニア国際映画祭 フォーカス・アジア賞
  • 第55回ボーヌ国際スリラー映画祭 審査員賞
  • 第49回百想芸術大賞では主演男優賞・助演男優賞・新人監督賞・脚本賞の4部門にノミネート。

続編・リメイクをめぐる動き[編集]

幻の三部作構想[編集]

本作はもともと三部作として構想されており、第2作は本編の7年前を描く前日譚、第3作は後日談という計画だった。しかしパク・フンジョン監督は2016年1月2日、自身のブログで前日譚の製作をやめると発表。物語自体は残っているので小説か脚本の形で公開するかもしれない、もし機会があれば前日譚より後日談のほうが現実的だろう、という趣旨を書き添えた。

再浮上と「出ない」発言[編集]

2020年11月16日、監督の映画会社クムウォル(金月)が、NEW系列の制作会社スタジオ&ニューと資本提携を結び、その場で監督は「『新しき世界2』は前日譚として作る。どの時代を描くかはまだ決めていない」と語ってファンを沸かせた。ところが2023年3月、イ・ジュング役のパク・ソンウンが『ラジオスター』で「続編は出ない」と発言。4人の主演級俳優のスケジュールを合わせるのが難しく、イ・ジョンジェは『イカゲーム』で忙しくなってしまった、と笑いを交えて語った。その後も監督が「いつかは出る」という趣旨の発言をしたと報じられるなど、続編の行方は今もはっきりしていない。

ハリウッドリメイクとインド映画[編集]

リメイク権はソニー・ピクチャーズが獲得しており、ロイ・リーらのバーティゴ・エンターテインメントが製作、ウィル・フェッターズが脚本を担当すると報じられた。権利獲得ではドリームワークス、パラマウント、ワーナー・ブラザースと競合したとされる。また、2018年のマニ・ラトナム監督のタミル語映画『Chekka Chivantha Vaanam』は、筋立てや人物設定が本作とよく似ていることから、インド版のような作品だと報じられた。

炎上とバズ[編集]

本作最大のバズは、公開から何年たっても衰えない名台詞ミームだ。特に「ドゥルワ」のエレベーターシーンは韓国のネット掲示板や動画サイトで繰り返しパロディされ、韓国ノワールを語るうえでの共通言語になっている。また、ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェは2020年の『ただ悪より救いたまえ』で7年ぶりに共演し、「新しき世界コンビの再会」として話題を集めた。続編をめぐっては、監督の発言とパク・ソンウンの「出ない」発言が報じられるたびにファンの期待と落胆が交錯している。

余談[編集]

  • ナ・ホンジン監督は、宿のテレビで偶然この映画を見てファン・ジョンミンを『哭声/コクソン』に起用したとされる。一本の映画が別の名作を生んだ例である。
  • 撮影監督チョン・ジョンフンと音楽チョ・ヨンウクは『オールド・ボーイ』の主要スタッフ。チェ・ミンシクにとっては同じスタッフとの再会作でもあった。
  • 監督は前作の脚本作『悪魔を見た』でもチェ・ミンシクと組んでおり、さらに後の監督作『隻眼の虎』でもチェ・ミンシクを主演に迎えている。
  • 劇中には中国語の台詞も多く、言語は韓国語と中国語の2言語。チョン・チョンが中国語を操る場面はキャラクターの背景を物語る重要な要素になっている。
  • 一方で、ジャンルの定番から抜け出せていないとする辛口レビューもあり、ある米国の批評は物語を「サディスティックな創造主が操る精巧な策略」のようだと評している。

外部リンク[編集]

💬 みんなの声

この記事を読んだ人が、ひとことつぶやく場所です。