アジョシ
아저씨(The Man from Nowhere)

2010年7月27日、『アジョシ』製作報告会でのウォンビン(撮影:박재환/kinocine.com、出典:ウィキメディア・コモンズ、CC BY-SA 3.0)
監督 イ・ジョンボム
製作 イ・テホン
脚本 イ・ジョンボム
出演 ウォンビン
キム・セロン
キム・ヒウォン
キム・ソンオ
タナヨン・ウォントラクン
キム・テフン
ソン・ヨンチャン
撮影 イ・テユン
音楽 シム・ヒョンジョン
ジャンル アクション、サスペンス、犯罪
撮影期間 2010年1月14日 - 6月8日
制作会社 オーパス・ピクチャーズ
配給 韓国:CJエンタテインメント
日本:東映
劇場公開 韓国:2010年8月4日
北米:2010年10月1日(限定公開)
日本:2011年9月17日
配信 U-NEXT、Huluほか(時期により変動)
上映時間 119分
興行収入 約4,248万米ドル(韓国)
約53万米ドル(北米)
言語 韓国語
レイティング 韓国:青少年観覧不可
日本:R15+



概要[編集]

アジョシ(原題:아저씨、英題:The Man from Nowhere)とは、2010年に公開された韓国映画のアクション・サスペンスである。監督・脚本はイ・ジョンボム、主演はウォンビン、共演はキム・セロン。2010年の韓国映画興行1位となり、ウォンビンにとって現時点で最後の映画出演作として知られる。

詳細[編集]

『アジョシ』製作報告会(2010年7月27日)でのウォンビン(撮影:박재환/kinocine.com、ウィキメディア・コモンズ、CC BY-SA 3.0)

「となりのおじさん」が最強だった件[編集]

タイトルの「アジョシ(아저씨)」は、韓国語で「おじさん」。親戚のおじさんだけでなく、近所の大人の男性や見知らぬ中年男性にも広く使う、ごく日常的な呼びかけである。作中では、隣に住む少女ソミが、無口な質屋の主人チャ・テシクをこう呼ぶ。その「ただのおじさん」が、実は軍の情報部隊で暗殺任務までこなしていた元特殊要員だった……という落差が、この映画の背骨になっている。英題の「The Man from Nowhere(どこからともなく現れた男)」も、素性の見えない主人公像をそのまま言い表している。

興行1位、そして「青少年観覧不可」[編集]

2010年8月4日に韓国で公開されると、公開週末だけで約71万人を動員して初登場1位。そのまま5週連続で首位を守り、最終的な観客動員は約620万人超(資料により約622万〜628万人)、韓国内の興行収入は約4,248万米ドルに達し、2010年の韓国映画で最もヒットした作品になった。暴力描写の強さから韓国では「青少年観覧不可(18歳未満は観覧不可)」の等級を受けており、このレーティングの映画としては歴代でも上位に入る大ヒットだった。

ウォンビン「最後の主演作」[編集]

『秋の童話』で韓流スターになり、ポン・ジュノ監督の『母なる証明』で演技派としての評価を固めたウォンビンが、初めて本格的なアクションに挑んだのが本作。これで大鐘賞の主演男優賞などを総なめにしたが、その後ウォンビンは映画にもドラマにも出演しておらず、2026年時点でも本作が最後の映画出演作のままになっている。そのため本作は「ウォンビンを語るなら絶対に外せない一本」であると同時に、「なぜこれ以降出ないのか」という話題とセットで語られ続けている。

あらすじ[編集]

ソウルの古びた雑居ビルで、人目を避けるように質屋を営むチャ・テシク(ウォンビン)。彼に気さくに話しかけてくるのは、隣の部屋に住む小学生の少女チョン・ソミ(キム・セロン)だけだった。ソミの母ヒョジョン(キム・ヒョソ)はクラブのダンサーで、薬物に溺れており、娘の世話もままならない。学校でも居場所のないソミにとって、テシクは唯一「おじさん」と呼べる相手だった。

ある日、ヒョジョンは愛人にそそのかされ、勤め先の店から大量の麻薬(アヘン)を盗み出し、それをカメラバッグに隠してテシクの質屋に預けてしまう。麻薬組織のボス、オ・ミョンギュ(ソン・ヨンチャン)は、マンソク(キム・ヒウォン)とジョンソク(キム・ソンオ)の兄弟に回収を命じる。兄弟はヒョジョンとソミを拉致し、ソミを人質にしてテシクに麻薬の運び役をさせようとする。

取引の場でテシクは罠にはめられ、トランクから無残な姿になったヒョジョンの遺体が見つかったことで、殺人の容疑者として警察に追われる身になる。警察から逃れる際に見せた異常な戦闘能力をきっかけに、キム・チゴン刑事(キム・テフン)らは彼の過去にたどり着く。テシクはかつて軍の情報部隊に所属した特殊要員で、任務絡みの襲撃によって妊娠中の妻を目の前で失い、すべてを捨てて身を隠していたのだった。

組織が麻薬だけでなく臓器の密売にまで手を染め、子どもたちを使ってヘロインを精製させていることを知ったテシクは、ソミを取り戻すため、たった一人で組織を潰しにかかる。

結末(ネタバレ)[編集]

テシクは子どもたちが働かされていた麻薬工場を襲撃してジョンソクを倒し、子どもたちを解放する。続いてマンソクのアジトに乗り込むが、そこでマンソクは「ソミの眼球だ」と称する瓶を見せつける。怒りに駆られたテシクは、組織の用心棒ラム・ロワン(タナヨン・ウォントラクン)との壮絶なナイフ戦を制し、マンソクも含めて組織を壊滅させる。

すべてを終えたテシクが自ら命を絶とうとしたその時、ボロボロになりながらも無事なソミが姿を現す。ラム・ロワンが土壇場でソミを殺さずに見逃しており、瓶の中身は別人のものだった。

ラストでは、警察がテシクとソミを少しの間だけ一緒にいさせる。眠っているソミを横に、テシクはコンビニに立ち寄ってリュックサックと文房具を買ってやる。「一人で立つんだ、できるな?」と言い聞かせ、連行される前に、テシクは「一度だけ抱きしめさせてくれ」と涙ながらにソミを抱きしめる。、二人の別れで静かに幕を閉じるこのエンディングは、本作屈指の名場面として語られている。

キャスト[編集]

  • チャ・テシク - ウォンビン
    質屋の主人。元は軍情報部隊の特殊要員。妻を失って以来、世間から身を隠すように暮らしている。
  • チョン・ソミ - キム・セロン
    テシクの隣に住む少女。母親の事件に巻き込まれ、組織に連れ去られる。
  • マンソク - キム・ヒウォン
    犯罪組織を仕切る兄弟の兄。麻薬と臓器密売で稼ぐ。
  • ジョンソク - キム・ソンオ
    兄弟の弟。凶暴な実行役。
  • ラム・ロワン - タナヨン・ウォントラクン
    兄弟の用心棒を務める殺し屋。タイ出身の俳優で、本物の武術経験を生かした動きでテシクと最後に対決する。
  • キム・チゴン - キム・テフン
    テシクを追う刑事。
  • オ・ミョンギュ - ソン・ヨンチャン
    麻薬組織のボス。
  • ヒョジョン - キム・ヒョソ
    ソミの母。クラブのダンサー。

制作[編集]

主人公は最初「60代のおじいさん」だった[編集]

監督・脚本のイ・ジョンボムは、2006年の『熱血男児』(英題:Cruel Winter Blues)で長編デビューした監督で、本作が2本目の長編。韓国語版ウィキペディアなどによれば、初期のシナリオでは主人公は60代の引退した老諜報員という設定だったが、商業性を考えて40代の中年男性に書き換えられたという。主演には当初キム・ミョンミンの起用が検討されていたが、彼が別の作品を選んだことで、ウォンビンに話が回ってきたとされる。結果的に、当時30代前半だったウォンビンが「アジョシ」を演じることになり、「こんなアジョシがいるか」というツッコミ込みで話題をさらった。

撮影は2010年1月14日から6月8日まで行われた。製作はオーパス・ピクチャーズ、韓国での配給はCJエンタテインメント(現CJ ENM)が担当している。

キム・セロンのキャスティング[編集]

ソミ役のキム・セロンはオーディションで選ばれた。2000年生まれの彼女は、2009年の映画『冬の小鳥』でデビューし、同作がカンヌ国際映画祭に招待されたことで、映画祭に招かれた史上最年少の女優として注目されていた。撮影当時は9歳。孤独で大人びた少女ソミを演じ、大韓民国映画大賞と釜日映画賞で新人女優賞を受賞している。

ウォンビンの3か月トレーニング[編集]

ウォンビンはクランクイン前に武術監督のもとで約3か月のトレーニングを積み、多くのアクションを自らこなした。ワイヤーアクションは本作が初めてで、韓国メディアのインタビューでは「初めてのワイヤーアクションは死ぬかと思った。でもナイフのシーンは特に危険で、目や顔を簡単に切ってしまいかねないから、相手との呼吸がすべて」と振り返っている。イ・ジョンボム監督も「彼はもともと内に持っていた切迫感やエネルギーに突き動かされていた。運動神経がよく、意志が強く情熱的で、難しいシーンをやり遂げてくれた」と称えた。

アクション[編集]

「本物の特殊要員が使いそうな」格闘術[編集]

本作のアクションが今も語り草になっている最大の理由は、派手な見せ場よりも「速く、短く、確実に相手を無力化する」実戦的な動きにある。イ・ジョンボム監督は海外メディアのインタビューで、『ボーン・アルティメイタム』のアクションに強い感銘を受けて似たスタイルを取り入れたこと、主人公の職業に合わせて「実際に特殊要員が使うような」格闘術を選んだことを明かしている。影響を受けた監督としては、ジョン・ウー、ジョニー・トー、マイケル・マン、そして黒澤明の名を挙げた。

クライマックスのナイフ戦[編集]

最大の見せ場は、ラム・ロワンとの一騎打ちである。銃を捨て、ナイフ一本同士で間合いを奪い合うこのシーンは、ラム・ロワン役のタナヨン・ウォントラクンの本格的な武術の動きと、ウォンビンの3か月の特訓がぶつかり合う名場面として知られる。韓国のナムウィキでも、このナイフファイトは「映画の白眉」の一つに挙げられている。カメラを相手役に取り付けて撮るなど、臨場感を出す工夫も凝らされた。

鏡の前で髪を刈る男[編集]

もう一つ有名なのが、テシクが決戦を前に、鏡の前でバリカンを使い自分の髪を刈り上げるシーン。セリフはほとんどなく、ただ黙々と髪を落としていくだけだが、「穏やかな質屋のおじさん」が「元特殊要員」に戻る瞬間として、映画ファンのあいだで繰り返し語られている。

名ゼリフ[編集]

テシクがチンピラに言い放つ「明日だけを生きる奴は、今日だけを生きる奴に殺される」(내일만 사는 놈은 오늘만 사는 놈한테 죽는다)は、韓国で広く知られる決めゼリフになった。ラストの「一度だけ抱きしめさせてくれ」(한번만 안아보자)も、作品の感情的なクライマックスとして名高い。

興行と評価[編集]

韓国での興行[編集]

公開初週末(8月6〜8日)に約71万人を動員して1位スタートを切り、5週連続で首位をキープ。最終的に2010年の韓国映画で最もヒットした作品となった。暴力描写が強い「青少年観覧不可」の作品でありながら、これだけの動員を記録したことは当時大きな話題になった。

批評[編集]

批評面でも評価は高く、Rotten Tomatoesでは掲載された批評家8人のレビューがすべて肯定的(支持率100%)。米Variety誌は、ウォンビンをアクションヒーローへと変貌させた血まみれのスリラーと評し、リュック・ベッソン監督の『レオン』を引き合いに出した。英Screen Daily誌は、繊細そうな佇まいと優雅なアクションを兼ね備えたウォンビンのスター性を高く評価する一方、悪役の描き方やセリフには辛口の指摘もしている。

受賞[編集]

  • 第47回大鐘賞(2010年):主演男優賞(ウォンビン)、編集賞、映像技術賞、人気賞
  • 第8回大韓民国映画大賞(2010年):主演男優賞(ウォンビン)、新人女優賞(キム・セロン)、撮影賞、編集賞、照明賞、視覚効果賞、音楽賞
  • 第31回青龍映画賞(2010年):最多観客賞、技術賞、人気スター賞(ウォンビン)
  • 百想芸術大賞:映画部門作品賞
  • 釜日映画賞:音楽賞、新人女優賞(キム・セロン)ほか
  • ボーヌ国際スリラー映画祭(2011年、フランス):グランプリ

日本での公開[編集]

日本では東映の配給で、2011年9月17日に全国公開された。上映時間は119分、映倫区分はR15+。公開を前にした2011年8月29日には、ウォンビンとキム・セロンがプロモーションのため来日し、羽田空港には約250人のファンが詰めかけて一時騒然となった。到着したウォンビンは「今日また日本に戻ってこられて、ファンに会えてうれしく思います」とあいさつしている。

リメイクと影響[編集]

インド版『Rocky Handsome』[編集]

2016年3月25日には、インドでヒンディー語リメイク『Rocky Handsome』が公開された。監督はニシカント・カーマト、主演はジョン・エイブラハム。

ハリウッド版リメイク企画[編集]

ハリウッドでのリメイクは何度も動いている。2012年3月にはディメンション・フィルムズがリメイク権を獲得。2020年には企画がニュー・ライン・シネマに移り、『ジョン・ウィック』シリーズの監督チャド・スタエルスキがプロデュース、同シリーズの脚本家デレク・コルスタッドが脚本を手がけると報じられた。ただし2026年時点で完成・公開には至っていない。

韓国アクションへの影響[編集]

英語版ウィキペディアなどでは、本作はパク・チャヌクの「復讐三部作」と並んで『ジョン・ウィック』(2014年)に影響を与えた作品の一つに挙げられている。「普段は静かな男が、大切な存在を奪われて元の顔に戻る」という型と、実戦的な近接格闘のスタイルは、国内外のアクション映画のレビューで今も引き合いに出される。

ウォンビンとキム・セロン[編集]

キム・セロン(2012年12月撮影。撮影:rokiei、ウィキメディア・コモンズ、CC BY 2.0 KR)

ウォンビン:これが最後の一本に[編集]

本作でウォンビンは大鐘賞と大韓民国映画大賞の主演男優賞をダブル受賞し、青龍映画賞でも人気スター賞を獲得。「顔のいい韓流スター」から「アクションもできる主演俳優」へとイメージを塗り替えた。ところが、その後は新作映画にもドラマにも出演していない。CMには出続けているため、ファンのあいだでは「次回作はいつ?」という話題が15年以上続いており、本作は「最新作であり最後の作品」という珍しい立ち位置にある。

キム・セロン:天才子役の出世作[編集]

キム・セロンは2000年7月31日生まれ。本作でウォンビンと並ぶもう一人の主役として注目を集め、新人女優賞を複数受賞した。撮影当時は9歳。その後は映画『私の少女』(2014年、原題:도희야)でいじめを受ける少女を演じて再び高い評価を受け、2016年の時代劇ドラマ『Secret Healer』(原題:마녀보감)で初めて大人の主演を務め、2023年にはNetflixの韓国ドラマ『ブラッドハウンド』にも出演している。

キム・セロンは2025年2月16日に24歳で亡くなった。訃報を受けて、長く公の場に姿を見せていなかったウォンビンが弔問に訪れたことが報じられ、『アジョシ』の二人の共演をあらためて思い起こしたファンも多かった。

どこで見れる?[編集]

2026年時点の配信状況(JustWatchの掲載情報ベース)では、日本ではU-NEXTとHuluが見放題(定額制)の対象に入っており、Amazonプライム・ビデオやFODではレンタル・購入で視聴できる。ただし配信ラインナップは時期によって頻繁に入れ替わるので、見る前に各サービスで最新の状況を確認するのが確実。日本ではR15+指定の作品なので、15歳未満は視聴できない点にも注意。

余談[編集]

  • ウォンビンとキム・セロンは、日本公開前の2011年8月29日にそろって来日。羽田空港には約250人のファンが集まり、中には「100回以上観た」というファンもいたと報じられた。
  • 監督のイ・ジョンボムは、2014年にチャン・ドンゴン主演の『泣く男』(原題:우는 남자)を発表している。こちらも「過去を背負った殺し屋」と女性を守る話で、韓国メディアには『アジョシ』と比較する記事も出た。
  • イ・ジョンボム監督は海外のインタビューで、ウォンビンとの再タッグについて、前日譚的な続編の話は出たものの「すぐに組む予定はない」と答えている。
  • キム・セロンは韓国のバラエティ番組で、ウォンビンについて「普段のイメージ通りとても物静かで口数は少ないけれど、実はいたずら好き」と明かしている。
  • 劇場公開時の韓国版ポスターのコピーは「건드리지 말았어야 했다(手を出すべきではなかった)」。

外部リンク[編集]

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