ハン・ゴンジュ 17歳の涙

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ハン・ゴンジュ 17歳の涙
한공주/Han Gong-ju
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主演のチョン・ウヒ(2019年2月撮影。出典:Wikimedia Commons「Chun Woo-Hee-9427.jpg」・撮影:Harald Krichel・CC BY-SA 4.0)
監督 イ・スジン
製作 イ・スジン
脚本 イ・スジン
原作 なし(オリジナル脚本)
出演 チョン・ウヒ
チョン・インソン
キム・ソヨン
チョ・デヒ
キム・ヒョンジュン
イ・ヨンナン
クォン・ボムテク
撮影 ホン・ジェシク
音楽 キム・テソン
ジャンル ヒューマンドラマ
配給 韓国:CGVムービーコラージュ
日本:「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」上映委員会
劇場公開 釜山国際映画祭:2013年10月4日
韓国:2014年4月17日
日本:2015年(未体験ゾーンの映画たち2015)
配信 Amazonプライム・ビデオ ほか(時期により変動)
上映時間 112分(日本公開版の表記は113分)
興行収入 韓国観客動員:約22万3,000人
言語 韓国語



概要[編集]

ハン・ゴンジュ 17歳の涙(原題:한공주、英題:Han Gong-ju)とは、イ・スジン監督の長編デビュー作として2013年に製作された韓国映画である。心に深い傷を抱えて転校してきた17歳の少女ハン・ゴンジュの孤独と、そこから立ち上がろうとする日々を描き、主演のチョン・ウヒを一躍スターダムに押し上げた。

詳細[編集]

短編出身の新人監督が撮った低予算インディーズ[編集]

監督・脚本・製作を一人で担ったイ・スジンは、もともと短編映画で頭角を現した人物。2004年の短編『Papa』がソウル独立映画祭で韓国映像資料院賞を、2007年の『敵のりんご』(英題:Enemy's Apple)がミジャンセン短編映画祭で最優秀作品賞を受賞し、韓国インディーズ界では「次が楽しみな若手」として知られていた。そんな彼が初めて撮った長編が本作で、いわゆる商業大作とは真逆の、少人数・低予算の独立映画として作られている。

実在の事件に着想を得た「その後」の物語[編集]

本作は、2004年に韓国で実際に起きた少年事件に着想を得ている。ただし監督が描こうとしたのは事件そのものではなく、被害を受けた側の「その後の人生」だった。監督は「犯罪そのものより、事件のあとの被害者の生活に焦点を当てることにした」と語っている。映画は事件の場面を見せ場にせず、転校先で静かに暮らそうとする少女の日常と、彼女を取り巻く大人たちの無関心や責任逃れを積み重ねていく。海外の映画祭では「韓国社会の“責める文化”を描いた痛烈な肖像」と紹介された。

時系列をバラした「パズル」のような語り口[編集]

物語は現在と過去が交互に、しかも断片的に提示される。観客は最初、ゴンジュがなぜ転校してきたのか、なぜ人と距離を取るのかを知らされないまま、彼女の無表情な日々に付き合うことになる。ロッテルダム国際映画祭の審査員はこの構成を「時系列に沿わない、見事で入り組んだ物語のパズル」と評し、デビュー作とは思えない完成度だと絶賛した。手持ちカメラを多用した映像は、少女の息づかいのそばにカメラを置くような親密さを狙ったものだという。

あらすじ(ネタバレ控えめ)[編集]

17歳の高校生ハン・ゴンジュは、ある出来事をきっかけに、それまでの学校を離れることになる。家族は頼りにならず、彼女は担任教師イ・ナンド(チョ・デヒ)の母親ファオク(イ・ヨンナン)の家に身を寄せ、新しい学校へ通い始める。

転校先のゴンジュは誰とも深く関わろうとせず、黙々と水泳を練習したり、アルバイトをしたりして過ごす。そんな彼女の歌声を偶然耳にしたクラスメイトのウニ(チョン・インソン)は、ゴンジュをアカペラ部に誘う。最初は戸惑っていたゴンジュも、仲間と声を重ねるうちに少しずつ笑顔を取り戻していく。

しかし、過去は彼女を放っておいてくれなかった——。後半、物語はゴンジュが抱えていたものを少しずつ明かしながら、観客に重い問いを突きつけていく。ラストシーンの解釈は観る人によって分かれ、公開当時から多くの議論を呼んだ。

登場人物とキャスト[編集]

ハン・ゴンジュ(演:チョン・ウヒ)[編集]

タイトルロール。感情をほとんど表に出さず、周囲と一定の距離を保ち続ける17歳。チョン・ウヒは脚本を読んだ瞬間に「これは私の役だと思った」と振り返っている。役作りでは考えすぎるのをやめ、仕草そのものに意味を語らせることを意識したという。「答えを手渡すのではなく、観客に考えさせる演技をしたかった」という本人の言葉どおり、台詞よりも沈黙で語る芝居が高く評価された。

ウニ(演:チョン・インソン)[編集]

転校先のクラスメイトで、アカペラ部の中心人物。明るく人懐っこい性格で、閉ざしたゴンジュの心に最初に触れる存在となる。演じたチョン・インソンは1991年生まれで、1996年から子役として活動してきたベテラン。本作でも主演のチョン・ウヒと並んで演技を称賛された。

大人たち[編集]

担任教師イ・ナンドをチョ・デヒ、その母でゴンジュを預かる店主ファオクをイ・ヨンナンが演じた。ほかにキム・ソヨン、キム・ヒョンジュン、クォン・ボムテクらが出演している。監督は「混乱する同級生、罪悪感を抱える人、無関心な親」など、さまざまな立場の人物を配置し、観客が「自分ならどうするか」を考えられるようにしたと語っている。脚本づくりでは自身の妻や女優たちに何度も意見を求め、高校生のリップクリームの塗り方といった細部まで確認したという。

映画祭での快進撃[編集]

釜山でのプレミアから世界へ[編集]

本作は2013年10月4日、第18回釜山国際映画祭でワールドプレミア上映され、CGVムービーコラージュ賞と市民評論家賞を受賞した。ここでの口コミが、のちの異例の拡大公開につながっていく。

マラケシュで最高賞、審査委員長はスコセッシ[編集]

同年12月の第13回マラケシュ国際映画祭では、最高賞にあたる金の星賞(Golden Star)を受賞。このときの審査委員長はマーティン・スコセッシで、審査員には女優のマリオン・コティヤール、パク・チャヌク監督、パオロ・ソレンティーノ監督らがずらりと並んでいた。スコセッシは審査にあたり「我々は批評家のようには振る舞わない。映画を愛しすぎているから」という趣旨の言葉を残している。のちにスコセッシは本作について「ミザンセーヌ、映像、音響、編集、演技のすべてが素晴らしい」と評し、イ・スジン監督の次回作を心待ちにしているとコメントしたと報じられた。

ロッテルダムのタイガー・アワードほか[編集]

2014年1月の第43回ロッテルダム国際映画祭では、新人監督のコンペティションでタイガー・アワードを受賞。さらにフランスのドーヴィル・アジア映画祭では審査員賞・批評家賞・観客賞の3冠を達成し、カナダのファンタジア国際映画祭でも観客賞とアジア映画部門の賞を獲得した。同年6〜7月のニューヨーク・アジア映画祭でもニューヨーク・プレミアとして上映され、監督のQ&Aが行われている。日本の紹介文では「国際映画祭で10冠」とうたわれるほどの受賞ラッシュだった。

韓国での公開と興行[編集]

インディーズ映画として異例の拡大公開[編集]

韓国では2014年4月17日に劇場公開。インディーズ作品としては異例の181館でスタートし、のちに200スクリーン以上へ拡大した。公開初日に約1万人を動員し、5日後もほぼ同じペースを維持。公開6日で約8万4,000人、9日目で10万人を突破した。4月29日には観客15万人に達し、韓国インディーズ映画のヒット作として知られる『チスル』の記録を上回った。5月上旬には20万人を超え、最終的な観客動員は約22万3,000人に到達している。

口コミで伸びた「スリーパー・ヒット」[編集]

大きな宣伝費をかけられないインディーズ作品が数字を伸ばした最大の理由は、映画祭での評判と観客の口コミだった。韓国メディアでは「期待以上」「スリーパー・ヒット」と評され、主演2人の演技にも称賛が集まった。

青龍映画賞の後には再上映も[編集]

2014年12月の青龍映画賞での受賞後、観客からの再上映の要望が殺到。12月30日にはソウル・狎鴎亭のCGVアートハウスでチョン・ウヒとイ・スジン監督が登壇するシネマトークが開かれた。上映中には涙を流す観客も多く、終了後は熱のこもった質疑応答が続き、最後にはサインを求めるファンで即席のサイン会のようになったという。

受賞歴[編集]

国際映画祭[編集]

  • 2013年 第18回釜山国際映画祭:CGVムービーコラージュ賞、市民評論家賞
  • 2013年 第13回マラケシュ国際映画祭:金の星賞(最高賞)
  • 2014年 第43回ロッテルダム国際映画祭:タイガー・アワード
  • 2014年 ドーヴィル・アジア映画祭:審査員賞、批評家賞、観客賞
  • 2014年 ファンタジア国際映画祭:観客賞、アジア映画部門の賞

韓国国内の映画賞[編集]

  • 第35回青龍映画賞:主演女優賞(チョン・ウヒ)、新人監督賞(イ・スジン)
  • 韓国映画評論家協会賞:主演女優賞(チョン・ウヒ)、脚本賞(イ・スジン)、今年の映画10選
  • 韓国映画記者協会(KOFRA)映画賞:作品賞、主演女優賞、発見賞(チョン・ウヒ)
  • ディレクターズ・カット・アワード:新人女優賞(チョン・ウヒ)、独立映画監督賞(イ・スジン)
  • 女性映画人賞:主演女優賞(チョン・ウヒ)
  • マックスムービー最高の映画賞:主演女優賞(チョン・ウヒ)、独立映画賞
  • 野の花映画賞:大賞、主演女優賞(チョン・ウヒ)
  • 第51回百想芸術大賞(2015年):映画部門 新人演技賞(チョン・ウヒ)
  • 第51回大鐘賞:主演女優賞・脚本賞・新人監督賞にノミネート

青龍映画賞での「涙のスピーチ」[編集]

2014年12月17日、ソウルの世宗文化会館で行われた第35回青龍映画賞で、チョン・ウヒは並み居る大作の主演女優たちを抑えて主演女優賞を受賞した。壇上で涙をこらえきれず、「有名でもない私が、こんなに小さな映画でこんなに大きな賞をいただけるなんて」と語り、「この賞は諦めるなというメッセージだと思う。これからも自信を持って演技を続けたい」と決意を述べた。授賞式後、彼女の名前と作品名は韓国のポータルサイトの検索ランキング上位に何日も居座ったという。同じ夜、イ・スジン監督も新人監督賞を受け、「これからも良い映画を作っていきたい」と語っている。

日本での公開・どこで見れる[編集]

「未体験ゾーンの映画たち2015」で上映[編集]

日本では、劇場公開が見送られがちな海外の話題作を集めた特集上映「未体験ゾーンの映画たち2015」の一本として、2015年に上映された(配給表記は「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」上映委員会)。邦題の「17歳の涙」は、主人公の年齢と作品のトーンを端的に伝えるサブタイトルとして付けられたもの。その後DVDも発売されている。

配信状況[編集]

2026年10月時点で、配信情報サイトのJustWatchでは日本向けにAmazonプライム・ビデオ(見放題)などの配信が確認できる。ほかにApple TV経由の提供や広告付き無料配信サービスのPlexでの配信も表示されている。ただし配信ラインナップは頻繁に入れ替わるため、U-NEXTやNetflixを含め、視聴前に各サービスで最新の状況を確認するのが確実だ。

キャストと監督のその後[編集]

チョン・ウヒ:「無名の苦労人」から韓国を代表する女優へ[編集]

本作の前まで、チョン・ウヒは『母なる証明』や『サニー 永遠の仲間たち』などで印象的な脇役を演じてきた「知る人ぞ知る」存在だった。本作で初の長編主演を務めて一気にブレイクし、2016年にはナ・ホンジン監督の『哭声/コクソン』で謎の女ムミョンを演じて国際的な評価を決定づけた。その後もドラマ『恋愛体質〜30歳になれば大丈夫』、Netflixの『スマホを落としただけなのに』『The 8 Show 〜極限のマネーショー〜』と話題作が続き、2025年にはソン・ジュンギとのダブル主演ドラマ『マイ・ユース』で正統派メロにも挑んだ。公式Instagram(@thousand_wooo)では撮影現場のオフショットや作品終了時の感謝をマイペースに発信している。

チョン・インソン:ドラマで主演級に[編集]

ウニ役のチョン・インソンは、本作と同じ2014年に映画『慶州』にも出演。2017年の『Naked Fireman』(英題)で初主演を果たし、2018年のコメディドラマ『Welcome to Waikiki』(英題)でブレイクした。同年にはMBCの『My Secret Terrius』(英題)にも出演し、MBC演技大賞で優秀賞を受賞。その後も『Psychopath Diary』(英題)、『Let Me Be Your Knight』(英題)、2024年の『DNA Lover』(英題)と主演作を重ね、2025年にはKBSの週末ドラマ『Our Golden Days』(英題)でKBS演技大賞の優秀賞とベストカップル賞を受賞した。

イ・スジン監督:長編第2作『悪の偶像』[編集]

イ・スジン監督は2019年、長編第2作『悪の偶像』(原題:우상、英題:Idol)を発表した。ひき逃げ事件をきっかけに交錯する「加害者の父」と「被害者の父」を描くサスペンス・ノワールで、ハン・ソッキュとソル・ギョングがダブル主演し、チョン・ウヒも重要な役で出演。本作に続く再タッグとして話題になった。第69回ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で上映され、ファンタジア国際映画祭では作品賞と主演男優賞を受賞。日本では2020年4月17日にシネマート新宿ほかで公開されている。

評価[編集]

「答えを出さない」ことへの賛辞[編集]

本作は、被害者を「かわいそうな存在」として消費するのではなく、ひとりの少女が自分の人生を取り戻そうとする姿として描いた点が高く評価された。海外の映画祭紹介では、ゴンジュは偏見にさらされながらも「輝き、強く、自立した」若い女性として描かれていると紹介されている。韓国の観客レビューでも「では、あなたに何ができるのか」と問いかけてくる映画だという感想が目立つ。

監督の原動力は「怒り」[編集]

イ・スジン監督は、本作を作った原動力は怒りだったと明かしている。ただ、その怒りが正当なものなのか、それとも数日で忘れてしまうものなのかを自問し、現実の被害者が自分の人生に現れたとき、自分は何をしてあげられるのかを考えたという。特定の機関を攻撃したいわけではなく、被害者支援をめぐる社会の失敗について、必要な議論のきっかけを作りたかったと語っている。こうした姿勢が、説教くさくならずに観客の胸に刺さる作品を生んだといえる。

余談[編集]

  • 韓国では独立映画が数十館規模で公開されるのが普通で、181館スタートは「ほぼ前例がない」と海外のK-カルチャーメディアでも報じられた。
  • マラケシュの審査員にはパク・チャヌク監督も名を連ねていた。韓国映画の新人監督が、同じ韓国の巨匠も加わった国際審査員団から最高賞を受けた形になる。
  • チョン・ウヒは後のインタビューで、本作での受賞後にしばらく「混乱した時期」があったと告白。それでも「チョン・ウヒとして自分の道を作っていきたい」と考え直し、ブレずに作品選びを続けたという。
  • 劇中でゴンジュが歌う場面は物語の大切な鍵になっている。チョン・ウヒはのちの『解語花』(2016年)でも4か月のボイストレーニングを積んで歌唱シーンに挑んでおり、「歌う役」とは縁がある。
  • 同じく社会の痛みを静かに見つめた韓国映画としては、イ・チャンドン監督の『オアシス』などが挙げられることが多い。

外部リンク[編集]

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