| オアシス 오아시스 / Oasis | |
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![]() ヒロインのハン・コンジュを演じたムン・ソリ(2021年撮影。出典:Wikimedia Commons/Marie Claire Korea、CC BY 3.0) | |
![]() 監督・脚本のイ・チャンドン(2010年撮影。出典:Wikimedia Commons) | |
| 監督 | イ・チャンドン |
| 製作 | ミョン・ゲナム、チョ・ミンチョル、チョン・ヤンジュン |
| 脚本 | イ・チャンドン |
| 原作 | なし(オリジナル脚本) |
| 出演 |
ソル・ギョング ムン・ソリ アン・ネサン リュ・スンワン ソン・ビョンホ |
| 撮影 | チェ・ヨンテク |
| 音楽 | イ・ジェジン |
| ジャンル | ドラマ、ロマンス |
| 撮影期間 | 約6か月 |
| 制作会社 | イーストフィルム |
| 配給 |
CJエンタテインメント(韓国) シネカノン(日本) |
| 劇場公開 |
2002年8月15日(韓国) 2004年2月7日(日本) |
| 配信 | U-NEXT、Amazon Prime Video(日本) |
| 上映時間 | 132分 |
| 製作費 | 30億ウォン(約150万米ドル) |
| 興行収入 | 約670万米ドル(観客動員 約110万人) |
| 言語 | 韓国語 |
| レイティング | 青少年観覧不可(韓国)/PG-12(日本) |
| 前作 | ペパーミント・キャンディー(1999年) |
| 次作 | シークレット・サンシャイン(2007年) |
概要[編集]
オアシス(原題:오아시스)とは、2002年に公開されたイ・チャンドン監督・脚本の韓国映画である。前科3犯の社会不適合者ホン・ジョンドゥ(ソル・ギョング)と、重度の脳性麻痺を持つ女性ハン・コンジュ(ムン・ソリ)の恋を描き、第59回ヴェネツィア国際映画祭で監督賞(銀獅子賞)とマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)など計5冠を獲得した。
詳細[編集]
企画と位置づけ[編集]
本作は、小説家出身のイ・チャンドンにとって『グリーンフィッシュ』(1997年)、『ペパーミント・キャンディー』(1999年)に続く長編第3作である。主演のソル・ギョングとムン・ソリは『ペパーミント・キャンディー』でも共演しており、ほぼ同じ座組みで再集結した形になる。
監督自身は公開前、本作を「とても濃いメロドラマ」と紹介し、「前科者と障害者の恋に焦点を当てたのではなく、愛のファンタジーが人生を動かすうえでどれほど素晴らしい原動力になり得るかを見せたかった」と語っている。一方で「感動的になりそうな瞬間が来るたびにハンマーで叩く」と助監督たちに評されるほど、作為的な感情表現を徹底的に排除する演出を貫いたとされる。
製作と公開[編集]
制作はミョン・ゲナムが率いるイーストフィルムで、ユニコリア・ピクチャーズやドリームベンチャーキャピタルなどが出資に加わった。製作費は約30億ウォン(英語圏資料では約150万米ドル)。撮影はチェ・ヨンテク、音楽はイ・ジェジン、編集はキム・ヒョンが担当した。撮影では、当時のソウルの象徴的な高架道路だった清渓高架道路を交通規制して撮影した初の作品になったと報じられている。
韓国ではCJエンタテインメントの配給で2002年8月15日(光復節)に公開され、9月上旬の時点で約80万人、最終的に約110万人を動員した。重いテーマのアート系作品としてはヒットと言ってよい数字である。
ヴェネツィアでの快挙[編集]
本作は第59回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門に出品された。当時の報道によれば、映画祭側が本作を招くために出品締め切りを1か月以上延長したとされる。公式上映ではエンドクレジットが終わるまでスタンディングオベーションが続き、2002年9月8日の授賞式で監督賞(銀獅子賞)とマルチェロ・マストロヤンニ賞(ムン・ソリ)の本賞2つに加え、国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞)、SIGNIS賞など計5つの賞を受けた。
同年5月にはイム・グォンテクが『酔画仙』でカンヌ国際映画祭監督賞を受けており、韓国映画は1年のうちに世界三大映画祭の監督賞を2つ手にしたことになる。韓国の新聞は「韓国映画が周縁から中心に移った」と大々的に報じた。
あらすじ[編集]
ひき逃げ事件による懲役2年6か月の刑期を終えて出所したホン・ジョンドゥはソウルへ戻るが、家族は彼に知らせず引っ越していた。無銭飲食で警察に捕まり、弟ジョンセに身元を引き受けられたジョンドゥは、厄介者扱いされながらも家族のもとに身を寄せ、中華料理店の出前持ちとして働き始める。
ジョンドゥは贖罪のつもりで、ひき逃げで死亡した被害者の遺族を訪ねる。そこで彼が出会ったのが、被害者の娘で重度の脳性麻痺を持つハン・コンジュだった。兄夫婦はコンジュの障害を利用して利益を得ながら、彼女の世話はろくにせず、隣人に任せきりにしていた。コンジュに惹かれたジョンドゥは再び彼女の部屋を訪れるが、その最初の接近は一方的で暴力的なものだった。
その後、仕事を失い兄ジョンイルの自動車整備工場で働くことになったジョンドゥのもとに、コンジュから電話がかかってくる。2人は人目を忍んで会うようになり、家族にも社会にも居場所のない者同士として心を通わせていく。コンジュは、窓の外の木の枝が部屋に落とす影をひどく怖がっていた。劇中では、コンジュが健常者の身体で自由に動き回る幻想シーンが何度か挿入される。
やがて家族の集まりの席で、ひき逃げの真犯人は兄ジョンイルであり、ジョンドゥが身代わりで服役していたことが明らかになる。ある夜、コンジュの部屋で2人が結ばれようとしていたところへ兄夫婦が訪れ、ジョンドゥは強姦の現行犯として逮捕される。コンジュは必死に真実を伝えようとするが、誰も彼女の言葉に耳を貸さない。ジョンドゥは警察署から逃げ出し、コンジュとの約束を果たすため、彼女のマンションの前の木に登って枝を切り落とし始める。再び刑務所に戻ったジョンドゥの手紙を読む声が流れる中、ひとり部屋に残されたコンジュの姿で映画は終わる。
キャスト[編集]
| 俳優 | 役名 | 備考 |
|---|---|---|
| ソル・ギョング | ホン・ジョンドゥ | 前科3犯の青年。ひき逃げで服役し出所したばかり |
| ムン・ソリ | ハン・コンジュ | 重度の脳性麻痺を持つ女性。ひき逃げ事件の被害者の娘 |
| アン・ネサン | ホン・ジョンイル | ジョンドゥの兄。自動車整備工場を営む |
| リュ・スンワン | ホン・ジョンセ | ジョンドゥの弟 |
| ソン・ビョンホ | ハン・サンシク | コンジュの兄 |
| キム・ジング | ジョンドゥの母 | |
| チュ・グィジョン | ジョンセの妻 | |
| ユン・ガヒョン | サンシクの妻 | |
| パク・ミョンシン | 隣人の女性 | コンジュの世話を任されている |
| パク・キョングン | 隣人の女性の夫 |
ジョンドゥの弟ジョンセを演じたのは、のちに『ベテラン』『モガディシュ 脱出までの14日間』などを撮る映画監督のリュ・スンワン本人である。当時すでに『ダイ・バッド 死ぬか、もしくは悪(ワル)になるか』(2000年)で注目を集めていた新進監督が、俳優として出演している。
制作[編集]
ムン・ソリの役作り[編集]
ムン・ソリは劇団出身で、映画デビューはイ・チャンドンの前作『ペパーミント・キャンディー』である。本作のヒロインについては撮影前に一度出演を断ったが、監督の説得を受けて引き受けたと報じられている。
役作りのため、ムン・ソリは約2か月間、脳性麻痺の当事者たちと共に生活した。さらに自分の演技をビデオに録画し、実際の脳性麻痺の人の動きと比較・観察するという方法で身体表現を練り上げたという。約6か月の撮影期間中ずっと全身をこわばらせる演技を続けた結果、首に実際の麻痺のような症状が出て治療を受けたことも当時報じられた。
公開前のインタビューでは「CMに出られなくなる覚悟はしていた」「俳優は美しさを見せる職業ではない。“演技”を見せられなければ」と語っている。ヴェネツィアでの受賞会見では「今の姿のほうが演技で、映画の中の姿が本当の私」と冗談めかしたコメントを残し、現地では1日6件のインタビューをこなすほどの注目を集めた。イ・チャンドンは彼女の起用を「幸運だった」と評している。
監督の狙い[編集]
映画評論家ナム・ジェイルとの対談でイ・チャンドンは、本作を「砂漠と幻想の境界」に置いた作品だと説明し、脳性麻痺のヒロインを据えたのは「愛についてのファンタジーを根源から否定する」ためだったと語っている。観客の反応については「韓国と海外で大きな違いはなかった」とし、序盤に強い不快感を覚えた観客が次第に物語に同化していく現象について「自分でもよく分からない」と述べている。
評価と議論[編集]
高評価[編集]
国際的な評価は非常に高く、Rotten Tomatoesでは批評家支持率90%、Metacriticでは79点を記録している。Rotten Tomatoesの総評は「主演ムン・ソリの際立った演技が、この痛ましい映画の力の多くを生み出している」とまとめている。
ロジャー・イーバートは4つ星中3つ星を付け、「人間関係そのものがほとんど不可能な2人が、それでも自分たちの関係を成り立たせる方法を見つける姿を描いた、勇気ある映画」と評した。ニューヨーク・タイムズのスティーヴン・ホールデンは、障害を持つ登場人物に向けられがちな感傷や善人ぶった態度を剥ぎ取った作品だと評価している。サンフランシスコ・クロニクルのG・アレン・ジョンソンはムン・ソリの演技を「完璧」と称えた。
障害の描写をめぐる批判[編集]
一方、韓国国内では公開直後から、障害当事者、とくに障害のある女性たちから強い批判が上がった。2002年9月、慶南女性障害者連帯の代表ソン・ジョンムンはオーマイスターへの寄稿「『オアシス』は障害者をあまりに知らない」で、主に次の点を指摘した。
- コンジュは歴史上の人物を引用したり差別を認識したりする知的能力を示しているのに、作中では知的障害があるかのように扱われ、「脳性麻痺=知的障害」という誤解を強化している
- 父親を死なせた男をあっさり許し、彼が性暴力の容疑で連行されても沈黙したままという人物造形は不自然である
- 映画館で性暴力を描く場面に笑いが起きた。被害者が健常者の女性なら観客は決して笑わなかったはずだ
映画評論家のチョン・ソンイルも2002年10月、シネ21で4回にわたる批判論を連載した。彼は、隣家の夫婦の物音をコンジュが聞く場面の配置が「コンジュの性的欲望をあおり、ジョンドゥを許すための逆説的な論理を与えている」と編集の作為を指摘した。さらに後半の幻想シーンについても、現実の荒涼さを覆い隠す装置であり、「コンジュはジョンドゥに依存しなければならない」という従属的なメッセージを観客に植え付けていると論じた。
2004年には参与連帯の『月刊福祉動向』に、障害のある女性10人へのインタビューを基にした論考「『オアシス』と障害女性論争」が掲載された。そこでは批判の論点が「障害女性を受け身で無力な存在として描いたこと」「幻想シーンが当事者ではなく非障害者の視点に立っていること」「性暴力を恋愛の始まりとして描き、障害女性に対する暴力を正当化しかねないこと」の3点に整理されている。2016年には障害者メディア「ビーマイナー」のコラムニスト、ホン・ソンフンが「コンジュは語ることができるのか?」と題して本作を再検討した。彼は、コンジュの幻想が「非障害者の身体への憧れ」から生まれていることや、終盤で彼女の同意の訴えが完全に無視されることを挙げ、障害女性の主体性が消し去られていると論じている。
擁護・肯定的な読み[編集]
同じ論争の中で、作品を擁護する意見もあった。前述の『月刊福祉動向』の論考も、「(性暴力未遂の描写を含め)ヒロインを性のない存在ではなく一人の女性として扱った」という肯定的な受け止め方があったことを紹介している。
また終盤でコンジュが「強姦されたのではなく、愛していたから関係を持った」と訴えても警察も家族も聞き入れない展開は、障害者の性的欲望や恋愛を社会が認めない現実を告発したものだと受け取られてきた。障害者の性と恋愛をテーマにした韓国の記事でも、本作はその問題を象徴する例としてたびたび引用されている。批評家ナム・ジェイルのように、障害者という設定が観客のメロドラマ的感情をかえって増幅しかねないと懸念を示しつつも、作品の問いかけ自体を重く見る論者もいた。
要するに、本作は「障害者の愛と性を正面から描いた画期的な作品」と「非障害者男性の視点から障害女性を消費した作品」という2つの評価の間で、公開から20年以上たった今も議論が続いている作品である。
受賞・ノミネート[編集]
| 年 | 映画賞 | 部門 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|---|---|
| 2002年 | 第59回ヴェネツィア国際映画祭 | 金獅子賞 | オアシス | ノミネート |
| 監督賞(銀獅子賞) | イ・チャンドン | 受賞 | ||
| マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞) | ムン・ソリ | 受賞 | ||
| 国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞) | オアシス | 受賞 | ||
| SIGNIS賞 | オアシス | 受賞 | ||
| 2002年 | 第23回青龍映画賞 | 新人女優賞 | ムン・ソリ | 受賞 |
| 2002年 | 第1回大韓民国映画大賞 | 作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・新人女優賞・脚本賞 | オアシス/イ・チャンドン/ソル・ギョング/ムン・ソリ | 受賞 |
| 2002年 | 第22回韓国映画評論家協会賞 | 作品賞・主演男優賞・主演女優賞 | オアシス/ソル・ギョング/ムン・ソリ | 受賞 |
| 2002年 | シネ21映画賞 | 監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚本賞 | イ・チャンドン/ソル・ギョング/ムン・ソリ | 受賞 |
| 2002年 | バンクーバー国際映画祭 | チーフ・ダン・ジョージ人道主義賞 | オアシス | 受賞 |
| 2002年 | 第10回春史映画芸術賞 | 作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚本賞 | オアシス/イ・チャンドン/ソル・ギョング/ムン・ソリ | 受賞 |
| 2003年 | 第39回百想芸術大賞 | 作品賞・監督賞 | オアシス/イ・チャンドン | 受賞 |
| 最優秀演技賞(男女) | ソル・ギョング/ムン・ソリ | ノミネート | ||
| 2003年 | 第29回シアトル国際映画祭 | 主演男優賞・主演女優賞 | ソル・ギョング/ムン・ソリ | 受賞 |
| 2003年 | 第2回ベルゲン国際映画祭 | 審査員賞(特別言及) | イ・チャンドン | 受賞 |
| 2005年 | 第20回インディペンデント・スピリット賞 | 外国映画賞 | オアシス | ノミネート |
本作は第75回アカデミー賞外国語映画賞の韓国代表にも選ばれた(ノミネートはされず)。一方、韓国の伝統ある映画賞である第40回大鐘賞では1部門もノミネートされず、受賞の多さとの落差が話題になった。
日本公開・配信[編集]
劇場公開[編集]
日本ではシネカノンの配給により、2004年2月7日に劇場公開された。映倫区分はPG-12。宣伝では「前科者の青年と脳性麻痺の女性が、世間の無理解に苦しめられながらも互いの愛を純化させ貫き通す」衝撃のラブストーリーとして紹介された。のちにBlu-ray「HDデジタルリマスター版」も発売されている。
2023年には、監督自身が韓国で修復を監修した4Kレストア版による特集上映「イ・チャンドン レトロスペクティヴ4K」が、8月25日からヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で開催された。上映作は『グリーンフィッシュ』『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』『シークレット・サンシャイン』『ポエトリー アグネスの詩』『バーニング 劇場版』の長編6作品で、ドキュメンタリー『イ・チャンドン アイロニーの芸術』(2022年)も初公開された。同月9日に都内で行われた監督来日イベントには仲野太賀がシークレットゲストとして登壇し、本作を「素晴らしく美しいラブストーリー」と絶賛した。
アメリカでもFilm Movementが4Kレストア版を2024年4月19日から劇場で再公開している。
配信[編集]
2026年10月時点で、日本ではU-NEXTとAmazon Prime Videoの見放題に入っているほか、Apple TVのチャンネル経由での視聴、Amazon Videoでのレンタル・購入も確認できる。2020年ごろには日本のNetflixでも配信されていた。
韓国ではTVINGやCoupang Playで配信されている。また2026年9月、新作『もしもの愛』のヴェネツィア受賞に合わせて、Netflixがイタリアやスペインなどで本作の配信を始めたと報じられている。配信状況は変わりやすいため、視聴前に各サービスで確認したい。
余談[編集]
- 本作でのヴェネツィア受賞後、イ・チャンドンは2003年2月に盧武鉉政権の文化観光部長官に任命され、映画監督から閣僚に転身した。
- ムン・ソリは本作の功績などで2002年に玉冠文化勲章を受けている。英語版Wikipediaによれば、マルチェロ・マストロヤンニ賞を受けた韓国人は彼女が2人目である。
- イ・チャンドンが次にヴェネツィアのコンペティション部門に戻ったのは、24年後の2026年である。Netflix映画『もしもの愛』(原題:가능한 사랑)が第83回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を受賞し、韓国映画初の審査員大賞となった。同作にはソル・ギョング、チョン・ドヨン、チョ・インソン、チョ・ヨジョンが出演しており、日本では2026年10月23日に劇場公開、11月6日からNetflixで配信予定とされる。
- 弟ジョンセ役のリュ・スンワンは本職の映画監督で、のちに『ベテラン』などのヒット作を手がける。兄ジョンイル役のアン・ネサンも、その後名バイプレイヤーとして多くの韓国ドラマに出演している。
- 『パラサイト 半地下の家族』のアカデミー賞受賞後、日本でも韓国映画の名作として本作を再評価する記事が多く出た。

