| バーニング 劇場版 버닝(Burning) | |
|---|---|
![]() 第71回カンヌ国際映画祭(2018年5月)での監督・主演陣(出典:Wikimedia Commons、撮影:Georges Biard、CC BY-SA 4.0) | |
![]() 2018年、パリのシネマテーク・フランセーズでのイ・チャンドン監督(出典:Wikimedia Commons、撮影:FR、CC BY-SA 4.0) | |
| 監督 | イ・チャンドン |
| 製作 | イ・ジュンドン、オク・グァンヒ |
| 脚本 | オ・ジョンミ、イ・チャンドン |
| 原作 | 村上春樹「納屋を焼く」 |
| 出演 |
ユ・アイン スティーヴン・ユァン チョン・ジョンソ |
| 撮影 | ホン・ギョンピョ |
| 音楽 | モグ(Mowg) |
| ジャンル | ミステリー、サスペンス、心理スリラー |
| 撮影期間 | 2017年9月11日〜2018年1月30日 |
| 制作会社 | パインハウスフィルム、ナウフィルム、NHK |
| 配給 | CGVアートハウス(韓国)、ツイン(日本) |
| 劇場公開 |
2018年5月17日(韓国) 2019年2月1日(日本) 2023年8月25日(日本・再上映) |
| 配信 | U-NEXT、Amazon Prime Video、Huluほか |
| 上映時間 | 148分(NHK短縮版は95分) |
| 興行収入 | 約810万ドル(全世界) |
| 言語 | 韓国語 |
| レイティング | PG12(日本) |
概要[編集]
バーニング 劇場版とは、2018年に公開された韓国映画『버닝(バーニング)』の日本公開題である。村上春樹の短編「納屋を焼く」をイ・チャンドン監督が現代の韓国に移して大胆に脚色した心理ミステリーで、カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞し、韓国映画として初めてアカデミー賞外国語映画賞の最終候補9本に残った。
詳細[編集]
8年ぶりのイ・チャンドン作品[編集]
監督のイ・チャンドンは『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』『シークレット・サンシャイン』などで知られる韓国映画界の巨匠で、元は小説家、一時は文化観光部長官も務めた異色の経歴の持ち主である。本作は2010年の『ポエトリー アグネスの詩』以来、約8年ぶりの監督作となった。2018年4月25日の製作報告会見で監督自身も「約8年ぶりのメガホン」と語っている。
NHKとの国際共同制作[編集]
本作はNHKが国際共同制作として企画に参加した作品である。村上春樹作品の映像化権の多くはNHKが押さえており、当初2016年11月に予定されていた撮影開始は、村上春樹側とNHKの間の版権調整のために延期された。結局、主要撮影は2017年9月11日にスタートし、2018年1月30日に坡州でクランクアップした。製作会社はパインハウスフィルム(Pinehouse Film)、ナウフィルム、NHKなどである。
原作選びの理由[編集]
イ・チャンドンは、翻訳された村上春樹作品を数多く読んだうえで「納屋を焼く」を選んだとされる。日本公開時のインタビューでは、社会的な要素が比較的薄く、ミステリーが軸でありながら結末がはっきりしないため「映画にする余地があった」と説明している。短編を2時間半の長編にするにあたり、謎の緊張感を最後まで維持し、さらに強めていく必要があったとも語っている。
キャスティング[編集]
2017年9月5日にユ・アインの主演が確定し、9月8日にはオーディションで選ばれた新人チョン・ジョンソのヒロイン役が発表された。9月20日には米ドラマ『ウォーキング・デッド』のグレン役で知られる韓国系アメリカ人俳優スティーヴン・ユァンの参加が決定。チョン・ジョンソにとっては本作が映画デビュー作である。
あらすじ[編集]
小説家志望の青年イ・ジョンスは、ソウルで配達のアルバイトをしながら暮らしている。ある日、仕事中に幼なじみのシン・ヘミと偶然再会する。整形したと笑うヘミは、パントマイムでみかんを剥いてみせ、「みかんがあると思うんじゃなくて、ないことを忘れればいい」と話す。
アフリカ旅行に出るというヘミから、ジョンスは留守中の猫の世話を頼まれる。しかし部屋を訪ねても、猫は一度も姿を見せない。やがて帰国したヘミの隣には、ナイロビの空港で知り合ったという謎めいた青年ベンがいた。高級車に乗り、働いている様子もないのに裕福なベンを、ジョンスは「韓国にはギャツビーがたくさんいる」と評する。
一方ジョンスは、暴力沙汰で裁判にかけられた父の代わりに、北朝鮮との境界に近い坡州の実家で牛の世話をしている。ある夕方、ベンとヘミが実家を訪れ、3人は庭で大麻を吸う。そこでベンは「時々ビニールハウスを燃やす」という奇妙な趣味を打ち明け、次はこの近くのハウスを燃やすと言う。
その日以来、ジョンスは近所のビニールハウスを毎朝見回るようになる。そして、ヘミとの連絡が途絶える。ジョンスはベンの周囲を探りはじめるが、真相は最後まではっきりとは語られない。結末についてはここでは伏せる。
キャスト[編集]
| 役名 | 俳優 | 日本語吹替(NHK版) | 日本語吹替(ソフト版) |
|---|---|---|---|
| イ・ジョンス | ユ・アイン | 柄本時生 | 岸尾だいすけ |
| ベン | スティーヴン・ユァン | 萩原聖人 | 遊佐浩二 |
| シン・ヘミ | チョン・ジョンソ | 高梨臨 | 逢沢ゆりか |
| ジョンスの母 | パン・ヘラ | ||
| ジョンスの父 | チェ・スンホ |
- イ・ジョンス:小説家志望の青年。好きな作家はウィリアム・フォークナー。口数が少なく、物語はほぼ全編が彼の視点で進む。
- ベン:江南の高級マンションに住む正体不明の金持ち。何の仕事をしているかははっきりしない。スティーヴン・ユァンはこの役で米国の批評家賞を次々に受賞した。
- シン・ヘミ:ジョンスの幼なじみ。アフリカで見た「リトル・ハンガー」と「グレート・ハンガー」の話をし、夕暮れに踊る。チョン・ジョンソのデビュー作にして代表作となった。
- NHK版の吹替では、高梨臨がこの作品で吹替声優に初挑戦した。
俳優陣の役作り[編集]
スティーヴン・ユァンはベン役に向けてニーチェやショーペンハウアーの思想を研究したと語っている。ベンの持つ空虚さは理解できる気がしたといい、監督とは「この場面は目が笑っていない」といった細かな表情の打ち合わせを重ねた。監督からは「僕よりも君の方がベンをわかっている」と言われたという。ユァンは後に、韓国系アメリカ人である自分が韓国の撮影現場で「よそ者扱いされなかった」経験としても本作を振り返っている。
原作との違い[編集]
原作「納屋を焼く」は、1983年に文芸誌『新潮』に発表された村上春樹の短編である。結婚している30代の作家の「僕」が、パントマイムを習う20歳の女の子と知り合い、彼女が連れてきた男から「時々納屋を焼く」と打ち明けられる。「僕」は近所の納屋を見て回るが、焼けた納屋は見つからず、やがて彼女は姿を消す、という筋である。
映画版の主な変更点は次のとおり。
- 舞台を1980年代の日本から、2010年代後半の韓国に移した。
- 主人公を既婚の成功した作家から、貧しい小説家志望の青年に変更した。主人公とヒロインを幼なじみにし、三角関係の緊張感を強めた。
- 「納屋」が「ビニールハウス」になった。
- 主人公の父親の裁判、北朝鮮の宣伝放送が聞こえる坡州の実家、井戸の記憶、猫など、原作にない要素を多数加えた。
- 原作と同名のウィリアム・フォークナーの短編「納屋は燃える(Barn Burning)」も重ねられており、ジョンスがフォークナーの愛読者という設定になっている。
- 原作は静かな余韻で終わるが、映画はその後の展開をはっきり描いている(詳細は伏せる)。
監督は原作について「モチーフだけがある」と説明しており、物語は原作から大きく異なる。テーマも「現代の若者が世界をどう捉えるか」に置かれ、ジョンスとベンは同じ時代の空虚さをそれぞれ違う形で抱える2人として描かれている。
NHK版との関係[編集]
NHKが共同制作に参加したことから、日本では劇場公開より先にテレビで放送された。タイトルは「特集ドラマ バーニング」で、日本語吹替の95分短縮版である。
| 版 | 公開・放送 | 長さ | 形式 |
|---|---|---|---|
| 特集ドラマ バーニング | 2018年12月2日(NHK BS4K)、2018年12月29日(NHK総合) | 95分 | 日本語吹替・短縮版 |
| バーニング 劇場版 | 2019年2月1日劇場公開(TOHOシネマズ シャンテほか) | 148分 | 日本語字幕・全長版 |
| ソフト版 | 2019年8月7日発売 | 148分 | 原語版と日本語吹替版を収録 |
劇場公開時の邦題にわざわざ「劇場版」と付いているのは、この先行放送された短縮版と区別するためである。NHK BS4Kは2018年12月1日に放送を始めたばかりで、本作はその開局直後の目玉番組のひとつだった。スティーヴン・ユァンは日本のプロモーションで、映画版とドラマ版の違いに驚いたと語っている。
評価[編集]
カンヌでの評価[編集]
2018年5月16日、第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でワールドプレミア上映された。英業界誌『スクリーン・インターナショナル』の批評家採点表では4点満点中3.8点を記録し、同誌のカンヌ採点史上最高点となった。最高賞のパルム・ドールは是枝裕和監督の『万引き家族』に譲ったものの、国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞)を受賞。さらに美術のシン・ジョムヒが、技術面で優れたスタッフに贈られるバルカン賞を受けた。マーケットでは100以上の国と地域に販売されている。
批評家の反応[編集]
米国の映画批評サイトRotten Tomatoesでは支持率95%(197件)、Metacriticでは91/100と「普遍的な称賛」の評価。『ロサンゼルス・タイムズ』のジャスティン・チャンは「心理的な不安の傑作」と評し、2018年の年間ベスト1位に選んだ。ほかにもA.V.クラブ、AP通信などが年間1位、『ニューヨーク・タイムズ』のマノーラ・ダージスや『フィルム・コメント』が2位に挙げている。2010年代のベスト映画リストにも多数ランクインし、2025年には『ローリング・ストーン』の「21世紀の映画ベスト100」で40位に入った。
日本公開時には池松壮亮、吉田羊、村上虹郎、細田守、西川美和らが絶賛コメントを寄せた。
アカデミー賞ショートリスト[編集]
本作は韓国代表として第91回アカデミー賞外国語映画賞に出品され、2018年12月に発表された最終候補9本(ショートリスト)に入った。韓国映画がショートリストに残ったのはこれが史上初である。最終的なノミネート5本には残れなかったが、翌年のポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』による国際長編映画賞受賞へ続く流れの先駆けとして語られることが多い。
興行[編集]
韓国では2018年5月17日に公開され、初日は52,324人を動員して『デッドプール2』に次ぐ2位でスタート。最終的な観客動員は528,168人にとどまり、作品の評価に対して国内興行はふるわなかった。全世界の興行収入は約810万ドル。アメリカでは2018年10月26日に2館で限定公開され、最大27館まで拡大した。2019年4月29日からは米国のNetflixで配信された。
受賞[編集]
| 年 | 賞 | 部門 | 対象 |
|---|---|---|---|
| 2018 | カンヌ国際映画祭 | 国際映画批評家連盟賞 | 作品 |
| 2018 | カンヌ国際映画祭 | バルカン賞 | シン・ジョムヒ(美術) |
| 2018 | 釜日映画賞 | 監督賞 | イ・チャンドン |
| 2018 | 釜日映画賞 | 音楽賞 | モグ |
| 2018 | 大鐘賞 | 最優秀作品賞 | 作品 |
| 2018 | 韓国映画評論家協会賞 | 国際映画批評家連盟賞、撮影賞ほか | 作品、ホン・ギョンピョ |
| 2018 | アジア太平洋スクリーン・アワード | 審査員グランプリ | 作品 |
| 2018 | シネ21映画賞 | 作品賞、監督賞、撮影賞 | 作品、イ・チャンドン、ホン・ギョンピョ |
| 2018 | ロサンゼルス映画批評家協会賞 | 外国語映画賞、助演男優賞 | 作品、スティーヴン・ユァン |
| 2018 | 全米映画批評家協会賞 | 助演男優賞 | スティーヴン・ユァン |
| 2018 | トロント映画批評家協会賞 | 外国語映画賞、助演男優賞 | 作品、スティーヴン・ユァン |
| 2019 | アジア・フィルム・アワード | 監督賞 | イ・チャンドン |
| 2019 | 春史映画賞 | 助演男優賞 | スティーヴン・ユァン |
| 2019 | サターン賞 | インターナショナル映画賞 | 作品 |
一方、青龍映画賞(2018年)ではユ・アインの主演男優賞、スティーヴン・ユァンの助演男優賞、チョン・ジョンソの新人女優賞がノミネートにとどまり、百想芸術大賞(2019年)でも作品賞・監督賞・主演男優賞の候補止まりだった。海外で圧倒的に評価された一方、国内の大型映画賞では無冠に近いという点も本作らしいところである。
解釈論争[編集]
※以下、結末を含むネタバレ注意
本作は「何が本当に起きたのか」を観客に委ねる作りになっており、公開以来さまざまな解釈が議論されてきた。
- ベンは犯人か:ジョンスはベンの家の引き出しで、ヘミのものに似た腕時計を含む女性もののアクセサリーを見つけ、ヘミの猫と同じ名前に反応する猫も目にする。これを決定的な証拠と見るか、ジョンスの思い込みと見るかで評価が分かれる。ジョンスは最終的にベンを呼び出して刺し殺し、車ごと燃やすが、ベンが本当に何かをしたのかは明示されない。
- 「ビニールハウス」とは何か:ベンの言う「ビニールハウスを燃やす」は女性を殺すことの比喩ではないか、という読みが代表的である。ただ作中で焼けたハウスは一度も確認されない。
- ラストはジョンスの小説か:終盤、ジョンスはヘミの部屋で小説を書きはじめ、カメラは窓の外へ引いていく。それ以降の展開はジョンスが書いた小説の中の出来事ではないか、という解釈が広く語られている。
- ベンはジョンスの分身か:『コリア・タイムズ』の寄稿では、ベンを独立した人物ではなく、ジョンスの欲望や自己が投影された「分身」とみなし、2人は「ひとつの分裂した意識」だとする読みが示された。監督自身も日本のインタビューで、クライマックスについて「2人はぶつかりながら同時にひとつになる」と示唆的に語っている。
- 見えるもの/見えないもの:監督はヘミのみかんのパントマイムについて、「見えるもの」と「見えないもの」の境界に物語そのものがあると説明している。猫、井戸、ヘミの過去など、作中には「あったのか、なかったのか」わからないものが繰り返し出てくる。
- 階級の物語として:何もしなくても豊かなベンと、働いても先の見えないジョンスという対比から、格差社会の寓話として読む批評も多い。ジョンスの実家のある坡州について、監督は伝統的な農村共同体が崩れ、北朝鮮の宣伝放送が日常的に聞こえる場所であり、韓国人が普段見ないふりをしている緊張を象徴する土地だと語っている。
日本での配信[編集]
2026年10月時点では、U-NEXT、Amazon Prime Video、Huluの見放題に入っているほか、Amazon Prime VideoやApple TVでレンタル・購入もできる。配信ラインナップは時期によって変わる。劇場では2023年8月25日にJAIHOの配給でリバイバル上映(PG12)も行われた。ソフト版(2019年8月7日発売)には148分の全長版の原語版と日本語吹替版が収録されている。
炎上とバズ[編集]
- オバマ元大統領の「お気に入り」入り:2018年末、バラク・オバマ元米大統領がSNSで公開した「2018年に観たお気に入りの映画」リストに本作が入り、話題になった。
- 主演ユ・アインの薬物事件:主演のユ・アインは、2020年から2022年にかけて医療用麻酔薬プロポフォールを常習的に投与されたことや、他人名義で睡眠薬を処方されたこと、大麻の使用などで起訴された。2024年9月の一審では懲役1年の実刑判決を受けて法廷拘束されたが、2025年2月の控訴審で懲役1年・執行猶予2年に減刑され、約5か月ぶりに釈放。同年7月3日に大法院(最高裁)で刑が確定した。なお本作は事件の数年前の作品であり、作品自体の配信や評価には直接の影響は報じられていない。
余談[編集]
- 日本公開時の邦題に「劇場版」と付いているため、アニメの劇場版のような続き物だと勘違いされることがある。実際はNHKの短縮版と区別するための表記である。
- 劇中でジョンスはベンを「ギャツビー」にたとえる。若くて正体不明の金持ちという意味で、村上春樹が翻訳も手がけた『グレート・ギャツビー』を意識したものとされる。
- スティーヴン・ユァンは本作でアメリカの批評家賞を総なめにし、その後『ミナリ』(2020年)でアカデミー賞主演男優賞にノミネート、Netflixドラマ『BEEF/ビーフ』でエミー賞を受賞するなど飛躍した。本作がキャリアの転機だったと語られることが多い。
- 2018年のカンヌでは、日本の『万引き家族』と韓国の本作がコンペで並び、アジア映画同士でパルム・ドールを争う形になった。
- 2026年、イ・チャンドンは本作以来の長編『もしもの愛』で第83回ヴェネツィア国際映画祭の審査員大賞を受賞した。出演はソル・ギョング、チョン・ドヨン、チョ・インソン、チョ・ヨジョンで、Netflixが出資・世界配信を手がける。

