| もしもの愛 가능한 사랑/Possible Love | |
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https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/c4/Lee_Chang-dong%2C_Sul_Kyung-gu%2C_Jeon_Do-yeon%2C_Cho_Yeo-jeong%2C_and_Zo_In-sung_at_the_2026_New_York_Film_Festival_01.jpg?utm_source=commons.wikimedia.org&utm_campaign=imageinfo&utm_content=original 2026年9月、第64回ニューヨーク映画祭(アリス・タリー・ホール)に登壇した監督と主演4人。左からイ・チャンドン、ソル・ギョング、チョン・ドヨン、チョ・ヨジョン、チョ・インソン(出典:ウィキメディア・コモンズ、撮影:LR.127、CC BY 4.0) | |
| 監督 | イ・チャンドン |
| 製作 |
イ・ジュンドン デヴィッド・レヴィン チャドウィック・プリチャード |
| 脚本 |
イ・チャンドン オ・ジョンミ |
| 原作 | なし(オリジナル脚本) |
| 出演 |
チョン・ドヨン ソル・ギョング チョ・インソン チョ・ヨジョン |
| 撮影 | キム・ジヨン |
| 音楽 | チョン・ジェイル |
| ジャンル | ヒューマンドラマ |
| 制作会社 |
パインハウス・フィルム アノニマス・コンテント NOWFILM |
| 配給 | Netflix |
| 劇場公開 |
韓国:2026年9月23日 アメリカ:2026年10月23日(一部劇場) 日本:2026年10月23日(一部劇場で先行公開) |
| 配信 | Netflix(全世界独占) |
| 配信公開 | 2026年11月6日 |
| 上映時間 | 164分 |
| 興行収入 | 韓国観客動員:公開8日間で約15万8千人 |
| 言語 | 韓国語 |
| レイティング |
韓国:青少年観覧不可 日本:R15+ |
| 前作 | 『バーニング 劇場版』(2018年、イ・チャンドン監督作) |
概要[編集]
もしもの愛(原題:가능한 사랑〈可能な愛〉、英題:Possible Love)とは、イ・チャンドン監督が『バーニング 劇場版』以来8年ぶりに発表した2026年の韓国映画である。Netflixが出資・配給し、解雇された労働者夫婦とドキュメンタリー監督夫婦の交錯を描いた。第83回ヴェネツィア国際映画祭で審査員大賞(銀獅子賞)を受賞した。
詳細[編集]
8年ぶりに帰ってきた「寡作の巨匠」[編集]
イ・チャンドンは、30年近いキャリアで長編がわずか7本しかない、筋金入りの寡作監督である。前作『バーニング 劇場版』(2018年)から本作までの空白は8年。その間、韓国映画界では「次はいつ撮るのか」が半ばお約束の話題になっていた。本作の構想自体はかなり古く、監督によれば約10年前、韓国の大企業で起きた大量解雇と、それに対する政府の強硬な取り締まりを目にして「これは映画にしなければ」と感じたのが出発点だという。ところが一度は「映画としての深みが足りないのでは」と企画を寝かせてしまい、パンデミックを経て、苦しみを眺めるだけの物語ではなく「共に癒やされていく」物語として練り直したとされる。
Netflixが拾った「中予算の作家映画」[編集]
本作の資金集めは難航した。2025年初頭、韓国の劇場興行は前年比で大きく落ち込み、投資会社は中予算の作家性の強い映画から手を引きつつあった。イ・チャンドン本人も、劇場用映画として投資家を探したものの見つからなかったと明かしている。そこに手を挙げたのがNetflixだった。完成した脚本を読んだNetflixは即座に参加を決め、監督に芸術面での自主性を保証。さらに「配信前に劇場公開する」という約束も最初の段階で交わされたという。2025年5月にNetflixでの配給が発表され、制作はパインハウス・フィルム、アノニマス・コンテント、NOWFILMの韓米共同体制で進められた。
タイトルに込めた逆説[編集]
原題の『가능한 사랑』を直訳すると「可能な愛」。英題も『Possible Love』で、日本では『もしもの愛』という邦題がついた。監督はこのタイトルについて、ほとんどの恋愛映画やラブストーリーは障害に阻まれる「不可能な愛」を前提に進むが、本作はあえて「では、本当に可能な愛とは何か、その愛にどんな意味があるのか」を問う逆説なのだと説明している。2026年8月25日にソウルで開かれた製作報告会でも「こんな時代だからこそ、私たちの人生を支えるのは愛だ」と語り、AIの進歩や大量失業が避けられない現実になっていくほど、この物語を語る必要性が強くなったと述べた。
あらすじ[編集]
※公式に発表されている導入部分のみ。
会社を解雇された男ホソク(ソル・ギョング)と、その妻ミオク(チョン・ドヨン)。夫は職を失い、10歳の息子を抱えた一家の暮らしは苦しくなっていく。そんなある夏、二人のもとに、解雇された労働者たちの物語を撮ろうとしているドキュメンタリー映画監督のイェジ(チョ・ヨジョン)と、その夫で実業家のサンウ(チョ・インソン)がやってくる。
経済的にも社会的にもまったく違う場所で生きてきた二組の夫婦は、ドキュメンタリーの撮影をきっかけに少しずつ関わりを深めていく。カメラが回るうちに、それぞれが胸の奥に押し込めてきた欲望や感情、そして自分の人生と向き合わざるを得なくなっていく――という物語である。映画は旧約聖書の十戒のひとつ「むさぼるなかれ」という言葉から幕を開け、富や人とのつながり、他者から認められたいという欲望が、資本主義社会のなかでどう絡み合うかを見つめていく。
登場人物・キャスト[編集]
- ミオク(演:チョン・ドヨン) - ホソクの妻。夫の失職で苦しい暮らしを強いられるなか、イェジと親しくなっていく。若き日のミオクはチョ・ユリが演じる。
- ホソク(演:ソル・ギョング) - 会社を解雇された溶接工。裕福なイェジ夫婦に対して反発を抱く。
- イェジ(演:チョ・ヨジョン) - 解雇労働者を題材にしたドキュメンタリーを撮ろうとしている映画監督。
- サンウ(演:チョ・インソン) - イェジの夫で、裕福な実業家。
キャスティング[編集]
チョン・ドヨンとソル・ギョング、4度目の夫婦役[編集]
主演のチョン・ドヨンとソル・ギョングは、企画のかなり早い段階から参加を決め、長い準備期間のあいだずっと待ち続けていたという。二人は2022年にイ・チャンドンの短編『Heartbeat』でも監督と組んでおり、本作での共演は『私にも妻がいたらいいのに』『君の誕生日』『キル・ボクスン』に続く4度目となる。製作報告会で監督は「映画に入ると言ったら、二人とも脚本も見ずに喜んでくれた」と振り返っている。チョン・ドヨンにとっては、カンヌ国際映画祭の女優賞をもたらした『シークレット・サンシャイン』以来19年ぶり、ソル・ギョングにとっては『オアシス』以来24年ぶりのイ・チャンドン作品である。
チョ・インソンとチョ・ヨジョン、「金持ち」を記号にしない[編集]
一方、裕福な夫婦を演じたのがチョ・インソンとチョ・ヨジョン。チョ・ヨジョンは『パラサイト 半地下の家族』の奥様役で世界的に知られる俳優で、チョ・インソンは同じ2026年にナ・ホンジン監督の『HOPE』にも出演している。監督はチョ・インソンを「代わりのいない俳優」、チョ・ヨジョンを「人物の内面を完璧に理解して体現した」と絶賛。監督はNetflix公式メディア「Tudum」のインタビューで、労働者階級の尊厳を演じるにはチョン・ドヨンとソル・ギョングの「本物らしさ」が不可欠だったと語り、チョ夫妻役の二人については、ありがちな「金持ちキャラ」の型を超えた繊細な演技を見せたと評している。
製作[編集]
『デカローグ』企画から生まれた物語[編集]
英語版の資料によれば、本作の初稿はもともと、ポーランドの映画人マチェイ・ムシャウが立ち上げた、クシシュトフ・キェシロフスキの連作『デカローグ』(十戒を題材にした作品群)を長編映画として作り直すプロジェクトの一環として書かれたものだった。同じ枠組みからはアスガル・ファルハーディー監督の作品も生まれている。ただ、Netflixが加わったことでプロジェクト自体は「曖昧な状態になった」と監督は語っており、十戒のひとつと関係はあるものの、最終的には「まったく別の物語」になったという。
脚本と主要スタッフ[編集]
共同脚本は『バーニング 劇場版』でも組んだオ・ジョンミ。もともと解雇労働者の物語として構想されていた企画に、「ドキュメンタリー監督」という登場人物のアイデアを持ち込んだのが彼女で、これによって監督は「映画を撮る人間」としての自分の視点を物語に織り込めるようになったという。撮影はキム・ジヨン、音楽は『パラサイト 半地下の家族』や『イカゲーム』の音楽でも知られるチョン・ジェイル。プロデューサーには監督の兄弟であるイ・ジュンドンが名を連ねている。
「いちばん居心地のいい現場」[編集]
意外なことに、監督は本作の撮影を自身のキャリアで「いちばん居心地のいい制作」「癒やしの経験だった」と振り返っている。「長い時間が過ぎ、私も変わった。映画づくりの見方も変わった」とも語っており、完璧主義で知られる巨匠の、ちょっと肩の力が抜けた一面がうかがえる。上映時間は164分とかなりの長尺で、韓国では青少年観覧不可、日本ではR15+のレイティングとなっている。
映画祭と受賞[編集]
ヴェネツィアでの世界初上映[編集]
本作は2026年9月6日、第83回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門でワールドプレミアを迎えた。会場のサラ・グランデは満席となり、上映後には約7分間のスタンディングオベーションが起きたと韓国メディアは伝えている。当初は「長尺の地味な人間ドラマ」と見られていたが、上映後の評判で一気にダークホース扱いに変わったとされる。
審査員大賞(銀獅子賞)を受賞[編集]
9月12日の授賞式で、本作は審査員長マギー・ギレンホール率いる審査団から審査員大賞(銀獅子賞)を受けた。あわせて国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞)、ARCA CinemaGiovani賞の最優秀作品賞も受賞している。韓国映画がヴェネツィアで主要賞を取るのは、2012年にキム・ギドク監督の『嘆きのピエタ』が金獅子賞を受けて以来14年ぶり。イ・チャンドン個人としても、2002年の『オアシス』以来24年ぶりのヴェネツィアでの受賞となった。授賞式には俳優陣がトロント国際映画祭の日程と重なって出席できず、監督が一人で登壇。受賞スピーチでは「多くの人の忍耐がなければ、この映画は日の目を見なかった」と述べ、プロデューサーを務めた兄弟に感謝を伝えた。
トロント、ニューヨーク、そしてオスカーへ[編集]
続く第51回トロント国際映画祭ではスペシャル・プレゼンテーション部門で上映され、9月13日のトリビュート・アワードでイ・チャンドンがエバート監督賞を受賞。観客賞の国際部門では次点に入った。さらに第64回ニューヨーク映画祭のメインスレート、サン・セバスティアン国際映画祭にも招待されている。そして本作は第99回アカデミー賞国際長編映画賞の韓国代表に選ばれた。イ・チャンドン作品が韓国代表になるのは『オアシス』『シークレット・サンシャイン』『バーニング 劇場版』に続いて4度目である。
評価[編集]
海外批評家は軒並み絶賛[編集]
批評サイトの数字は異例の高さで、Rotten Tomatoesでは公開時点で批評家の支持率100%、Metacriticでも90点台の「普遍的な称賛」を記録した。英紙ガーディアンのピーター・ブラッドショーは5つ星中4つをつけ、「繊細に計算され、見事に演じられた、どこか小説的な作品」と評している。韓国メディアの紹介によれば、海外の映画メディアからは「監督のキャリアでもっとも力強い作品」といった声や、チョン・ドヨンの演技を最大級の言葉で称える評も出た。
韓国での劇場公開[編集]
韓国では2026年9月23日に劇場公開された。Netflix作品でありながら劇場先行という異例の形をとり、公開から8日間で15万8204人を動員。最多スクリーン作品のおよそ15%ほどの上映館数で積み上げた数字で、韓国メディアは、既存の投資会社が避けがちな中予算の作家映画にNetflixが資金を出したことを「萎縮した韓国映画市場の新たな資金調達ルート」と位置づけた。Netflixはこの受賞を機に、『グリーンフィッシュ』『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』『シークレット・サンシャイン』『ポエトリー アグネスの詩』『バーニング 劇場版』といったイ・チャンドンの旧作の海外配信も段階的に広げている。
日本での公開[編集]
日本では邦題『もしもの愛』として、2026年10月23日から一部劇場で先行公開され、11月6日からNetflixで世界独占配信される。韓流ブームを経て韓国ドラマや娯楽映画から韓国作品に入った層にとっては、イ・チャンドンという名前に初めて触れる入口にもなりそうだ。2026年はナ・ホンジンの『HOPE』がカンヌのコンペに、本作がヴェネツィアのコンペにと、韓国の「寡作の巨匠」が相次いで大舞台に戻ってきた年でもある。ポン・ジュノ、パク・チャヌクと並び称される監督の新作を、ほぼ同時に世界中で観られるというのは、配信時代ならではの出来事と言える。
炎上とバズ[編集]
ヴェネツィアの上映後、Rotten Tomatoesの支持率100%という数字とともに、約7分間のスタンディングオベーションのニュースが韓国で大きく報じられ、韓国国内でも一気に話題作となった。一方、受賞が最高賞の金獅子賞ではなかったことから、韓国の取材陣からは「残念ではないか」という質問も飛んだ。これに対しイ・チャンドンは「銀獅子賞をいただき、とても嬉しく感謝している。十分すぎる」と答え、賞よりも「映画を観終えた観客の表情や反応のほうが自分には大切だ」と語った。巨匠らしい余裕の受け答えとして好意的に受け止められている。
余談[編集]
- チョン・ドヨンとソル・ギョングの共演は4度目だが、二人揃ってイ・チャンドン長編に出るのは本作が初めて。ソル・ギョングは『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』、チョン・ドヨンは『シークレット・サンシャイン』と、それぞれ別々に監督の代表作を支えてきた。
- ヴェネツィアの授賞式には俳優陣がトロント映画祭と日程が重なって参加できず、銀獅子のトロフィーを掲げたのは監督一人だった。その写真はウィキメディア・コモンズにも収められている。
- 若き日のミオク役にはチョ・ユリがキャスティングされており、チョン・ドヨンと同じ人物を二人一役で演じている。
- Netflixは本作の受賞に合わせ、イ・チャンドンの旧作を韓国語・英語を含む6言語の字幕付きで海外に届ける方針を示しており、新作をきっかけに過去作へさかのぼるファンも想定されている。