満ち足りた家族
보통의 가족/A Normal Family

監督のホ・ジノ(2009年9月、Lift Asia 2009にて。撮影:liftconferencephotos、出典:ウィキメディア・コモンズ、CC BY 2.0)
監督 ホ・ジノ
製作 キム・ウォングク
脚本 パク・ウンギョ
パク・ジュンソク
原作 ヘルマン・コッホ『冷たい晩餐』(原題:Het diner)
出演 ソル・ギョング
チャン・ドンゴン
キム・ヒエ
クローディア・キム(スヒョン)
ホン・イェジ
キム・ジョンチョル
撮影 コ・ラクソン
音楽 チョ・ソンウ
ジャンル 心理サスペンス/ヒューマンドラマ
撮影期間 2022年7月〜9月
制作会社 ハイブメディアコープ/ハイグラウンド
配給 韓国:ハイブメディアコープ、マインドマーク
日本:日活、KDDI
劇場公開 韓国:2024年10月16日
日本:2025年1月17日
上映時間 109分
興行収入 韓国観客動員:約64万人
全世界:約640万米ドル
言語 韓国語
レイティング 日本:PG12



概要[編集]

満ち足りた家族(原題:보통의 가족〈普通の家族〉、英題:A Normal Family)とは、『八月のクリスマス』で知られるホ・ジノ監督による2024年公開の韓国映画の心理サスペンスである。ソル・ギョング、チャン・ドンゴン、キム・ヒエ、クローディア・キムが共演し、子どもたちの「ある秘密」を知ってしまった二組の夫婦が崩れていく姿を描く。

詳細[編集]

純愛映画の名匠がまさかのサスペンス[編集]

ホ・ジノといえば、『八月のクリスマス』『春の日は過ぎゆく』『四月の雪』など、静かで切ないメロドラマの代名詞のような監督である。そんな監督が、長編9作目にして本格的なサスペンスに挑んだのが本作だ。韓国メディアのインタビューで監督は、これまで情緒的な物語を撮ってきたが、今回は人間の本性に近い話を試みた、という趣旨を語っている。一方で「メロドラマもスリラーも、感情が急に揺れ動く瞬間を描く点では似ている」とも話しており、ジャンルは変わっても、人の心の揺れをじっと見つめる作家性はそのまま。ラブストーリーのかわりに「良心」が揺れる映画になった、と言えばイメージしやすいだろう。

世界で4度目の映画化となった『冷たい晩餐』[編集]

原作は、オランダの作家ヘルマン・コッホが2009年に発表したベストセラー小説『冷たい晩餐』(原題:Het diner、英題:The Dinner)。二組の夫婦がレストランで食事をしながら、子どもたちが起こした事件への対処を話し合う物語で、オランダ、イタリア、アメリカでも映画化されてきた。本作は世界で4度目の映画化にあたる。ジャパンプレミアで監督は「すべてがすばらしい作品なので、最初は躊躇いました」と明かしつつ、「いままでと違ったものを詰め込める」と感じたことが決め手になったと説明。韓国の現在の社会問題を表現したと語っている。韓国紙の取材では、イタリア版を参考にしつつ韓国の情緒に合わせて脚色したとも述べている。

撮影から公開まで2年、先に世界を回った作品[編集]

撮影は2022年7月から9月にかけて行われた。完成後、作品は韓国より先に海外でお披露目され、2023年9月の第48回トロント国際映画祭(ガラ・プレゼンテーション部門)でワールドプレミアを迎えた。その後、ウーディネ・ファーイースト映画祭、ロンドン韓国映画祭、パームスプリングス国際映画祭、台北映画祭、そして2024年の釜山国際映画祭など、約1年で19〜20前後の映画祭に招待された。ポルトガルのファンタスポルト国際映画祭では脚本賞を受賞している。韓国での劇場公開は当初2024年10月9日を予定していたが、1週間延期され10月16日に公開された。

あらすじ[編集]

※中盤までの紹介。結末には触れない。

兄のジェワン(ソル・ギョング)は、殺人犯の弁護でも金になれば引き受ける、損得勘定で生きる弁護士。若い後妻ジスと、前妻との間の娘ヘユン、生まれたばかりの赤ちゃんと共に、高級マンションでぜいたくに暮らしている。

弟のジェギュ(チャン・ドンゴン)は、道徳と良心を信条とする小児科医。フリーランスの翻訳家である妻ヨンギョン(キム・ヒエ)と息子シホを育てながら、認知症を患う母の介護にも向き合い、人道支援活動にも熱心だ。

価値観がまったくかみ合わない兄弟だが、二組の夫婦は月に一度、高級レストランで顔を合わせて食事をするのが習慣になっていた。ところがある日、二人は防犯カメラの映像を通じて、子どもたちに関する恐るべき秘密に直面する。子どもの未来を守るのか、それとも罪を償わせるのか。ディナーの席で交わされる言葉のひとつひとつが、「満ち足りた家族」の土台を少しずつ崩していく。

登場人物とキャスト[編集]

兄。物質的な利益を優先する弁護士で、依頼人の善悪より勝ち負けを気にするタイプ。ソル・ギョングは韓国メディアの取材で、人物の心情が急に変わったというより、一貫性を持った人物だと考えて演じた、という趣旨を語っている。
弟。良心的な小児科医で、兄の生き方を内心では軽蔑している。チャン・ドンゴンにとっては約5〜6年ぶりのスクリーン復帰作。監督は、これまで強いキャラクターが多かった彼が、日常的な小児科医という等身大の役を演じた素朴さを評価している。
  • イ・ヨンギョン(演:キム・ヒエ)
ジェギュの妻でフリーランスの翻訳家。日本の資料では「ユンギョン」と表記されることもある。
  • ジス(演:クローディア・キム)
ジェワンの再婚相手で、年の離れた若い妻。前妻の娘ヘユンにとっては継母にあたる。韓国での芸名はスヒョン。
  • ヤン・ヘユン(演:ホン・イェジ)
ジェワンの娘で、大学受験を控えた高校生。継母のジスには心を開いていないが、年の離れた異母きょうだいの赤ちゃんはかわいがっている。
  • ヤン・シホ(演:キム・ジョンチョル)
ジェギュとヨンギョンの息子。気の弱い性格で、いとこのヘユンとはきょうだいのように仲が良い。
  • 兄弟の母(演:ピョン・ジュンヒ)
認知症を患っている。

4人の俳優が火花を散らす「会話劇」[編集]

本作の見どころは、なんといってもメイン4人の演技合戦だ。派手なアクションや追跡劇はほぼなく、緊張はほとんどが食卓の会話から生まれる。クローディア・キムは、主人公4人が静かな空間で対話だけで映画を進めていく点に惹かれたと語っている。

監督によれば、食事のシーンは登場人物の心理の変化と道徳的な葛藤を段階的に見せる構成になっている。制作報告会では、ディナーの場面で人物の微妙な感情の変化をとらえるため、カメラ3台で同じシーンを何度も撮影したと明かした。高級レストランのテーブルを囲んで、皿が運ばれるたびに少しずつ空気が冷えていく。この「静かな地獄」が本作の最大の売りである。

ソル・ギョングは出演の理由としてホ・ジノ監督への信頼を挙げ、撮影前から主演4人と監督が何度も話し合ったと振り返っている。キム・ヒエは、感情が大きく揺れ動く役柄を俳優として魅力的に感じたとコメントしている。

キャストの豪華さ[編集]

主演の4人は、いずれも韓国映画・ドラマ界のトップクラスである。

  • ソル・ギョングは、イ・チャンドン監督の『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』で知られる演技派。キム・ヒエとは映画『더 문(THE MOON)』、ドラマ『돌풍』(2024年)に続く共演となった。
  • チャン・ドンゴンは、かつて「韓流四天王」と呼ばれた韓流スター。ホ・ジノ監督とは、1930年代の上海を舞台にした『危険な関係』(2012年)以来の再タッグとなった。
  • キム・ヒエは、社会現象となったドラマ『夫婦の世界』で知られるベテラン女優。
  • クローディア・キムは、ハリウッド映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』などに出演した国際派女優である。

この4人が、同じテーブルで腹の探り合いをするのだから、豪華さは折り紙付きだ。

興行成績[編集]

韓国[編集]

2024年10月16日に韓国で公開されると、初週は動員約33万人でボックスオフィス1位を獲得した。しかし2週目は約17.5万人で2位、3週目は約9.3万人で3位と順位を落とし、2024年11月時点の累計観客動員は約64万4千人、売上は約59億8千万ウォンにとどまった。損益分岐点とされた150万人には届かず、興行的には苦戦した。本作は製作会社ハイブメディアコープが初めて配給も手がけた作品でもある。

海外[編集]

一方、海外では韓国国内以上の存在感を見せた。全世界の興行収入は約640万米ドル。フランスでは2025年6月11日に公開され、累計観客数が20万人を超えて、2023年以降にフランスで公開された韓国映画として最高の成績を記録したと韓国メディアが報じている。フランスの各紙も好意的に取り上げ、「繊細さを備えた珍しい韓国スリラー」といった評が紹介された。

日本[編集]

日本では日活とKDDIの配給で、2025年1月17日に全国公開された。上映時間は109分、レイティングはPG12。公開に先立ち、2024年11月20日にTOHOシネマズ六本木でジャパンプレミアが開かれ、チャン・ドンゴンとホ・ジノ監督が来日登壇した。12月27日から29日にはTOHOシネマズ シャンテで特別先行有料上映会も行われている。

評価と受賞[編集]

批評家の評価[編集]

批評面の評価は高く、映画レビュー集積サイトRotten Tomatoesでは89%の支持率、韓国のポータルサイトNAVERでは10点満点中8点台の評価を得た。日本でも週刊文春の映画評で、コラムニストの中野翠が「上等の心理的サスペンス」と評するなど好意的な声が多かった。一方で、「ご都合主義」と感じる展開がある、物語処理の衝撃性と乱暴さが背中合わせだ、という厳しめの指摘も見られた。

主な受賞・ノミネート[編集]

  • 第44回ファンタスポルト国際映画祭:脚本賞
  • 第39回モンス国際映画祭:脚本賞
  • 第61回百想芸術大賞(2025年):映画部門 助演女優賞(クローディア・キム/スヒョン)
  • 2025年 ユ・ヒョンモク映画芸術賞(チャン・ドンゴン)
  • 2025年 青龍映画賞:主演男優賞ノミネート(ソル・ギョング)、新人女優賞ノミネート(ホン・イェジ)
  • 2025年 釜日映画賞:助演女優賞ノミネート(クローディア・キム)、新人女優賞ノミネート(ホン・イェジ)

監督ホ・ジノについて[編集]

ホ・ジノは韓国を代表するメロドラマの名手で、日本でも根強い人気を持つ監督である。日本で公開された主な監督作は以下の通り。

  • 『八月のクリスマス』(日本公開1999年)- ハン・ソッキュ、シム・ウナ主演。余命わずかな写真館の主人と駐車違反取締員の淡い恋を描いた不朽の名作。
  • 『春の日は過ぎゆく』(2002年)- ユ・ジテ、イ・ヨンエ主演。
  • 『四月の雪』(2005年)- ペ・ヨンジュン、ソン・イェジン主演。
  • 『ハピネス』(2008年)
  • 『きみに微笑む雨』(2009年)
  • 『危険な関係』(2014年)- チャン・ドンゴン、チャン・ツィイー、セシリア・チャン出演。
  • 『ラスト・プリンセス -大韓帝国最後の皇女-』(2017年)- ソン・イェジン主演。
  • 『世宗大王 星を追う者たち』(2020年)- ハン・ソッキュ、チェ・ミンシク主演。
  • 『二つの光』(2022年)
  • 『満ち足りた家族』(2025年)

韓国映画界でサスペンスといえばポン・ジュノの『殺人の追憶』や『パラサイト 半地下の家族』、パク・チャヌク、ナ・ホンジンの『チェイサー』などが思い浮かぶが、本作は血も銃もほとんど使わず「会話だけで怖い」という、メロドラマ出身の監督らしいアプローチで勝負している点がユニークである。

余談[編集]

  • チャン・ドンゴンはジャパンプレミアで日本語で挨拶し、『危険な関係』の撮影について「オール中国ロケで、いままで出会ったことのない新しい演出スタイル」だったと振り返った。
  • ホ・ジノ監督はジャパンプレミアで、チャン・ドンゴンについて俳優をリラックスさせてくれる存在だと評した。チャン・ドンゴンのほうも「粘り強く取り組む監督だけど、僕たち俳優をよく理解してくれる」と監督への信頼を語っている。
  • 日本の公式Xアカウント(@michitaritaeiga)のプロフィールでは、本作を「弁護士の兄と医者の弟」が、それぞれ美しい妻と高校生の子どもを持つ満ち足りた生活から一転、子どもたちの秘密によって運命が狂い始める物語として紹介している。
  • 韓国メディアは、本作が米Varietyの「2025年のベスト映画10本」に選ばれたと報じている。
  • 映画ライターの桑畑優香は、2025年に注目の韓国スターを紹介する記事で、チャン・ドンゴンが本作で見せた「ポーカーフェイスの奥にある深遠なる闇」を絶賛している。
  • ソル・ギョングとキム・ヒエは、本作のほか映画『더 문(THE MOON)』、ドラマ『돌풍』でも共演しており、短い期間に何度も顔を合わせている。

外部リンク[編集]

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