| ムン・ソリ 문소리/文素利/Moon So-ri | |
|---|---|
![]() 映画『8番目の男』のプロモーションでラジオ番組に出演したムン・ソリ(2019年、出典:ウィキメディア・コモンズ、SBS Radio、CC BY 3.0) | |
| 誕生日 | 1974年7月2日 |
| 年齢 | 52歳 |
| 出身地 | 大韓民国・釜山広域市 |
| 国籍 | 大韓民国 |
| 学歴 | 成均館大学校 教育学科 |
| ジャンル | 映画、テレビドラマ、舞台、映画監督 |
| 活動期間 | 1999年〜(映画) |
| 家族 | 夫:映画監督チャン・ジュナン(2006年結婚)、娘1人 |
| 代表作 | 『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』『浮気な家族』『お嬢さん』『女優は今日も』『三姉妹』『ジョンニョン: スター誕生』『おつかれさま』 |
| 関連活動 | ロカルノ国際映画祭 審査員(2015年)、ヴェネツィア国際映画祭 オリゾンティ部門審査員(2016年)、建国大学校 映画学科教授(2011年〜) |
| その他 | 2002年 玉冠文化勲章 |
概要[編集]
ムン・ソリ(문소리、文素利、Moon So-ri、1974年7月2日 - )とは、韓国の女優・映画監督である。イ・チャンドン監督の『ペパーミント・キャンディー』で映画デビューし、『オアシス』でヴェネツィア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞を受けた、韓国映画を代表する実力派。
詳細[編集]
『エクウス』に撃ち抜かれた教育学科生[編集]
1974年7月2日、釜山で生まれた。俳優を志したきっかけは高校1年生のとき、1990年に観た舞台『エクウス』だったという。とはいえ一直線に芸能界へ進んだわけではなく、大学は成均館大学校の教育学科に進学している。学生時代から演劇にのめり込み、1995年から1997年にかけて劇団「ハンガン(한강)」で舞台に立った。その後ソウル芸術大学の演劇科にも籍を置いたが、映画の道に進むために中退している。
1999年にはMBCの公開採用タレント試験を受けて落ちている。ところが同じ年、映画雑誌『シネ21』に載っていたイ・チャンドン監督の新作オーディションの告知を見つけて応募し、約2,000人の中から役を勝ち取った。それが『ペパーミント・キャンディー』である。テレビ局には落ちたのに名匠の映画には受かるという、なかなか劇的なスタートだった。
2作目でいきなり世界の賞[編集]
『ペパーミント・キャンディー』(1999年)では、主人公ヨンホ(ソル・ギョング)の初恋の女性ユン・スニムを演じた。薄荷飴の工場で働く素朴な女性で、物語の時間を遡るほどに彼女の存在が重みを増していく、作品の核のような役である。
続く『オアシス』(2002年)で、同じイ・チャンドン&ソル・ギョングと再びタッグ。重い脳性まひのある女性ハン・コンジュという難役に挑み、第59回ヴェネツィア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞した。韓国人の受賞は1985年のカン・スヨンに続いて2人目とされる。国内でも青龍映画賞新人女優賞をはじめ各映画賞を総なめにし、同年には玉冠文化勲章まで受けた。映画出演わずか2本目での出来事である。
「作家主義監督に愛される女優」へ[編集]
2000年代以降は、イム・サンスの『浮気な家族』(2003年)、『大統領の理髪師』(2004年)、キム・テヨンの『家族の誕生』(2006年)、ホン・サンスの『ハハハ』(2010年)、チャン・リュルの『群山』(2018年)など、作家性の強い監督たちの作品に立て続けに出演した。『浮気な家族』ではストックホルム国際映画祭の主演女優賞と大鐘賞の主演女優賞を、『家族の誕生』ではテッサロニキ国際映画祭の主演女優賞(共同受賞)を手にしている。
『ハハハ』は2010年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門の最高賞を受けており、ムン・ソリは韓国の作家主義映画が世界に出ていくとき、かなりの確率でそこにいる人になった。一方で『私たちの生涯最高の瞬間』(2008年)のようなスポーツ映画でもヒットを飛ばしており、アート系一辺倒というわけでもない。
『オアシス』の役づくり[編集]
ムン・ソリの名前を語るうえで避けて通れないのが『オアシス』のハン・コンジュ役である。
報道や英語版資料によれば、彼女は当初この役に苦戦し、オーディション用のテープを出すこと自体をやめようとしていた。そこで背中を押したのが女優オ・ジヘで、テープを提出したのちにさらに約2か月の集中準備期間を設けたという。台本の読み込みに加え、実際に車いすで生活してみるなど、身体ごと役に近づく準備を重ねた。
撮影中は全身をこわばらせる演技を長期間続けることになり、その負担の大きさもたびたび語られている。完成した映画は国内外で絶賛される一方、障害の描き方をめぐって韓国国内では当事者団体から批判も起き、作品そのものが議論の的にもなった。それでも彼女の演技自体は海外の批評家から「完璧」とまで評され、シアトル国際映画祭でも主演女優賞を受けている。
女優 兼 映画監督[編集]
短編から長編『女優は今日も』へ[編集]
ムン・ソリは監督業にも進出している。最初の短編『女優(The Actress)』は2014年の第19回釜山国際映画祭で初上映された。ちなみにこの年の釜山映画祭では、開幕式の司会を渡辺謙と一緒に務めている。
2015年には短編『最高の監督』を発表。そして2017年、これらの短編と新たな1編をまとめた長編監督デビュー作『女優は今日も』を公開した。主演・監督・脚本すべてムン・ソリ本人という作品で、主人公はもちろん「女優ムン・ソリ」。友人と登山に行き、そのあと男性たちとの飲み会に出ると、酒が回るにつれて女優に対する彼らの偏見がぽろぽろ出てくる――という、業界の内側と中年女優の現実を自虐たっぷりに描いたコメディになっている。
『三姉妹』ではプロデューサーも[編集]
2020年の『三姉妹』(イ・スンウォン監督)では、主演のミヨン役を演じつつプロデューサーにも名を連ねた。共演はキム・ソニョン、チャン・ユンジュ。同作は2020年の釜山国際映画祭で初上映され、2021年1月に韓国で劇場公開。ムン・ソリは第42回青龍映画賞の主演女優賞と第41回韓国映画評論家協会賞の主演女優賞をダブル受賞し、第57回百想芸術大賞でも主演女優賞にノミネートされた。『オアシス』の青龍新人賞から約20年、今度は主演女優賞を手にしたわけである。日本でも『三姉妹』のタイトルで公開されている。
教壇と審査員席[編集]
2011年からは建国大学校芸術デザイン大学の映画学科で教授を務めている。現役トップ女優が大学で後進を指導するという、なかなか忙しい二足のわらじである。
国際映画祭でも存在感は大きい。2015年には韓国人俳優として初めてロカルノ国際映画祭の審査員に招かれ、2016年には韓国人俳優として初めてヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ部門の審査員を務めた。同じ2016年のヴェネツィアでは「スターライト・シネマ・アワード」も受けている。2024年には駐韓フランス大使館から「エトワール・デュ・シネマ賞」を贈られた。
舞台女優としての顔[編集]
もともと劇団出身だけに、映画・ドラマで売れたあとも舞台に立ち続けている。2006年の『悲しい演劇』では俳優パク・ウォンサンとの二人芝居に挑戦し、同年にはアイルランドの戯曲『The Weir』を翻案した群像劇『ゼア(There)』にも出演した。
ほかにも、炭鉱労働者が絵を描き始める実話ベースの『ピットマン・ペインターズ』(2010年、2022〜2023年再演)、フランス国立劇場との共同制作『光の帝国』(2016年)、アダム・ラップの二人芝居『ザ・サウンド・インサイド』(2024年)などに出演している。映画『特別市民』(2017年)で初共演となったチェ・ミンシクは、彼女の舞台の楽屋をわざわざ訪ねて出演をオファーしたという。チェ・ミンシクは以前から彼女を高く評価していたとされる。
テレビドラマでの再ブレイク[編集]
苦いドラマデビューから[編集]
テレビドラマデビューは2007年、ペ・ヨンジュン主演の大作ファンタジー時代劇『太王四神記』である。ところがこのときの演技は批判を浴びてしまい、映画女優のドラマ進出はほろ苦いものになった。翌2008〜2009年のMBC『私の家族のすべて』(原題訳)ではMBC演技大賞の優秀賞を受け、汚名を返上している。
その後は『青い海の伝説』(2016〜2017年)、JTBCの医療ドラマ『ライフ』(2018年)、Netflixの『保健教師アン・ウニョン』(2020年、特別出演)、チョン・ジェヨンと共演したMBCの会社員ドラマ『미치지 않고서야(On the Verge of Insanity)』(2021年)など、韓国ドラマにも定期的に出演するようになった。
Netflixと配信時代の「顔」[編集]
2020年代に入ると配信作品での活躍が一気に増える。Netflix映画『ソウル・バイブス』(2022年)では地下経済の大物カン・インスク、Netflixの政治ドラマ『クイーンメーカー』(2023年)では「正義のサイ」の異名を持つ人権派弁護士オ・ギョンスクを演じ、ソウル市長選に挑む役で存在感を見せた。
2024年は当たり年で、tvN『ジョンニョン: スター誕生』では主人公ジョンニョン(キム・テリ)の母ソ・ヨンネ役。かつて天才と呼ばれた歌い手という設定のため、パンソリの難曲「秋月満庭(チュウォルマンジョン)」を約1年かけて練習した。インタビューでは「1,000回以上は歌った」と語り、車の中でも練習し続けたため運転中の夫が驚いたという。出演自体、キム・テリに「お母さん役をやってほしい」と頼まれて引き受けたものだった。同年のNetflix『地獄が呼んでいる』シーズン2では、大統領府の民情首席秘書官イ・スギョンという冷徹な悪役に回り、出番は多くないのにセリフと表情の鋭さで評価を集めた。
『おつかれさま』で世界へ[編集]
2025年3月、Netflixで配信された『おつかれさま』(原題:폭싹 속았수다)で、主人公オ・エスンの中年期以降を演じた。若き日のエスンを演じたのはIUで、相手役グァンシクはパク・ボゴム(青年期)とパク・ヘジュン(中年期以降)。脚本イム・サンチュン、演出キム・ウォンソクの布陣による、済州島を舞台にした一代記である。
ムン・ソリは配信後のインタビューで、IUの演じたエスンからバトンを受け取ることについて「ファンをがっかりさせるのでは」と心配していたが、実際にはIUのファンが歓迎してくれたと明かしている。またIUが娘クムミョン役との2役を演じたことについても、歌手としても俳優としても本当に立派だと称えた。
同作で同年12月の「アジアアーティストアワード2025」では2冠に輝き、トロフィーについて「ちょっと重い方に属するトロフィーで、厚みがあって気分が良かった」とユーモアたっぷりにコメント。キム・ウォンソク監督の演出力と台本の良さも繰り返し称賛している。
2026年の活動[編集]
2026年7月11日から放送されたJTBCの週末ドラマ『マンションのお仕事』(原題:아파트)では、チソン演じる元ギャングのボスと真っ向から火花を散らすマンション住民チャン・スクジンを演じた。団地内のあらゆる事情に首を突っ込む「おせっかいの達人」という役どころで、Netflixで世界配信もされている。
制作発表会では、キャラクターの自己肯定感が上がるにつれて髪型もどんどん高く盛り上がっていく「パイナップル頭」について解説。撮影後は固めた髪をほどくだけで1時間かかり、「髪に謝りながら」ほどいたと笑わせた。撮影が終わるとすぐにばっさり切ってしまったそうだ。本人いわく普段は物静かな性格だが、スクジンはエネルギーの高い人物なので現場に行くたびにテンションを上げていたという。
私生活[編集]
2006年12月24日、映画監督チャン・ジュナン(『地球を守れ!』『1987、ある闘いの真実』)と結婚した。2人とも成均館大学校の出身で、2003年にチャン・ジュナンが演出したチョン・ジェイルのミュージックビデオで出会ったとされる。夫の監督作『1987、ある闘いの真実』(2017年)にはムン・ソリも特別出演している。2011年に娘が誕生した。
2026年7月には、家族とシンガポール旅行を楽しむ様子を本人のInstagramに投稿し、地元の人気店に並ぶ素朴な姿などが韓国メディアで報じられた。
主な出演作品[編集]
映画[編集]
- 『ペパーミント・キャンディー』(1999年) - ユン・スニム役。映画デビュー作。
- 『オアシス』(2002年) - ハン・コンジュ役。
- 『浮気な家族』(2003年) - ウン・ホジョン役。
- 『大統領の理髪師』(2004年) - キム・ミンジャ役。
- 『家族の誕生』(2006年) - ミラ役。
- 『私たちの生涯最高の瞬間』(2008年)
- 『ハハハ』(2010年) - ワン・ソンオク役。
- 『3人のアンヌ』(2012年)
- 『自由が丘で』(2014年)
- 『お嬢さん』(2016年) - 秀子の叔母役。監督はパク・チャヌク。
- 『特別市民』(2017年)
- 『女優は今日も』(2017年) - 主演・監督・脚本。
- 『1987、ある闘いの真実』(2017年) - 特別出演。
- 『リトル・フォレスト 春夏秋冬』(2018年) - 主人公の母役。
- 『なまず』(2018年) - 副院長イ・ギョンジン役。
- 『8番目の男』(2019年) - 裁判長キム・ジュンギョム役。
- 『三姉妹』(2020年) - ミヨン役。プロデューサー兼任。
- 『ソウル・バイブス』(2022年) - カン・インスク役。
テレビドラマ・配信[編集]
- 『太王四神記』(2007年、MBC)
- 『私の家族のすべて』(原題訳、2008〜2009年、MBC)
- 『青い海の伝説』(2016〜2017年、SBS) - アン・ジンジュ役。
- 『ライフ』(2018年、JTBC) - オ・セファ役。
- 『保健教師アン・ウニョン』(2020年、Netflix) - 特別出演。
- 『クイーンメーカー』(2023年、Netflix) - オ・ギョンスク役。
- 『ジョンニョン: スター誕生』(2024年、tvN) - ソ・ヨンネ役。
- 『地獄が呼んでいる』シーズン2(2024年、Netflix) - イ・スギョン役。
- 『おつかれさま』(2025年、Netflix) - オ・エスン(中年期以降)役。
- 『マンションのお仕事』(2026年、JTBC) - チャン・スクジン役。
主な受賞歴[編集]
- 2002年 - 第59回ヴェネツィア国際映画祭 マルチェロ・マストロヤンニ賞(『オアシス』)
- 2002年 - 第23回青龍映画賞 新人女優賞(『オアシス』)
- 2002年 - 玉冠文化勲章
- 2003年 - シアトル国際映画祭 主演女優賞(『オアシス』)
- 2003年 - ストックホルム国際映画祭 主演女優賞(『浮気な家族』)
- 2004年 - 大鐘賞 主演女優賞(『浮気な家族』)
- 2006年 - テッサロニキ国際映画祭 主演女優賞(『家族の誕生』)
- 2008年 - MBC演技大賞 優秀賞(『私の家族のすべて』)
- 2010年 - 釜日映画賞 主演女優賞(『ハハハ』)
- 2017年 - アジア・フィルム・アワード 助演女優賞(『お嬢さん』)
- 2021年 - 第42回青龍映画賞 主演女優賞(『三姉妹』)
- 2025年 - アジアアーティストアワード2025 2冠(『おつかれさま』)
炎上とバズ[編集]
- 2007年のドラマデビュー作『太王四神記』では演技が批判された。映画界では賞を総なめにしていた女優だけに、テレビとの相性が話題になった。
- 『オアシス』は国際的に絶賛された一方、韓国国内では障害の描き方をめぐって当事者団体などから批判も上がり、主演としてその議論の中心に立たされた。
- 『ジョンニョン: スター誕生』でのパンソリ披露は大きな反響を呼び、彼女の過去が明かされる回は視聴率15.5%を記録したと報じられた。
- 『マンションのお仕事』のど派手な「パイナップル頭」は、制作発表時から話題をさらった。
余談[編集]
- 名前の「ソリ(소리)」は韓国語で「音」「声」を意味する言葉と同じ音。『ジョンニョン』でパンソリ(판소리)の名手を演じたのは、なかなか出来すぎた巡り合わせである。
- 2014年の釜山国際映画祭では、渡辺謙と並んで開幕式の司会を務めた。
- 『お嬢さん』の叔母役は、ほんの数シーンのために数か月の日本語特訓をしたという、役づくりの鬼ぶりがよく分かるエピソードとして知られる。
- アニメ映画『庭を出ためんどり(原題:마당을 나온 암탉)』(2011年)では主人公の声を担当し、同作は韓国で200万人以上を動員した。
- インタビューでは役づくりについて「強迫症のように質問を投げかける」と語っている。答えを急ぐより、役から質問をたくさん見つけることが大事という考えだそうだ。
