| お嬢さん 아가씨 The Handmaiden | |
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![]() 屋敷の外観ロケが行われた三重県桑名市の六華苑(旧諸戸清六邸)(出典:ウィキメディア・コモンズ、撮影:Asturio Cantabrio、CC BY-SA 4.0) | |
![]() スッキ役で長編デビューしたキム・テリ(2022年)(出典:ウィキメディア・コモンズ、Marie Claire Korea、CC BY 3.0) | |
| 監督 | パク・チャヌク |
| 製作 |
パク・チャヌク シド・リム |
| 脚本 |
チョン・ソギョン パク・チャヌク |
| 原作 | サラ・ウォーターズ『荊の城』(Fingersmith) |
| 出演 |
キム・ミニ キム・テリ ハ・ジョンウ チョ・ジヌン キム・ヘスク ムン・ソリ |
| 撮影 | チョン・ジョンフン |
| 音楽 | チョ・ヨンウク |
| ジャンル | サスペンス、ロマンス、クライム |
| 撮影期間 | 2015年6月〜10月 |
| 制作会社 |
モホ・フィルム(Moho Film) ヨン・フィルム(Yong Film) |
| 配給 |
CJエンタテインメント(現・CJ ENM、韓国) ファントム・フィルム(日本) |
| 劇場公開 |
2016年5月14日(第69回カンヌ国際映画祭) 2016年6月1日(韓国) 2017年3月3日(日本) 2017年6月24日(日本・スペシャル・エクステンデッド版) |
| 上映時間 |
145分(日本公開版) 169分(スペシャル・エクステンデッド版) |
| 製作費 | 約100億ウォン |
| 興行収入 |
韓国観客動員 約428万人 世界 約3,860万ドル |
| 言語 | 韓国語、日本語 |
| レイティング |
韓国:青少年観覧不可 日本:R18+ |
概要[編集]
お嬢さん(아가씨、The Handmaiden)とは、2016年に公開された韓国の映画である。監督はパク・チャヌク。サラ・ウォーターズの小説『荊の城』を原作に、舞台を1930年代の日本統治下の朝鮮半島へ移し、令嬢・侍女・詐欺師・叔父の4人によるだまし合いを描いたサスペンスである。
詳細[編集]
1939年、朝鮮半島の豪邸で始まる詐欺計画[編集]
物語の舞台は1939年、日本統治下の朝鮮半島。スリや盗品売買で生きる一家に育てられた少女スッキ(キム・テリ)は、「藤原伯爵」を名乗る詐欺師(ハ・ジョンウ)からある儲け話を持ちかけられる。人里離れた広大な屋敷に住む日本人の令嬢・秀子(キム・ミニ)は、莫大な財産を相続する予定になっている。伯爵が秀子を誘惑して結婚し、そのあと彼女を精神病院に放り込んで財産を奪う。スッキの役目は、侍女「珠子」として屋敷に潜り込み、伯爵の求婚がうまくいくよう秀子の心を誘導することだった。
屋敷の主は、秀子の叔父である上月(チョ・ジヌン)。稀覯本の蒐集に取りつかれた人物で、姪の秀子に朗読をさせる奇妙な習慣を持っている。ところが、純粋で孤独な秀子に仕えるうちに、スッキは彼女に惹かれていき、計画は思わぬ方向へ転がり始める。
三部構成と「どんでん返し」[編集]
本作は第1部・第2部・第3部の三部構成になっている。第1部はスッキの視点で詐欺計画が進む様子を描き、第2部では同じ出来事を別の人物の視点から語り直す。観客が第1部で見ていた場面の意味が、第2部でガラッとひっくり返る仕掛けで、「誰が誰をだましているのか」が二転三転するのが最大の見どころだ。
原作小説『荊の城』も三部構成で、視点人物が切り替わるたびに真相が明かされていくつくりになっている。映画はこの骨格を受け継ぎつつ、細部の展開や結末を大きく作り替えている。その違いについては後述する。
パク・チャヌク初の本格的な「女性ふたり」の物語[編集]
パク・チャヌクといえば、『オールド・ボーイ』をはじめとする「復讐三部作」に代表される、暴力と執念の作家というイメージが強い。本作でも欲望とだまし合い、そして復讐というテーマは健在だが、物語の中心にいるのは2人の女性であり、彼女たちが男たちの支配からどう抜け出すかが描かれる。
監督はNPRのインタビューで、原作の中の2人の女性の優しい場面に惹かれたこと、そして本作も「運命と戦う個人の物語」である点で自分の過去作と通じていると語っている。共同脚本は『親切なクムジャさん』以来の盟友であるチョン・ソギョン。女性の脚本家と組んで脚本を書き、フェミニストの友人たちにも脚本を読んでもらったという。
韓国と日本で撮影された豪邸[編集]
撮影は2015年6月から10月にかけて、韓国と日本で行われた。屋敷の外観は、三重県桑名市にある六華苑(旧諸戸清六邸)で撮影されている。六華苑は1913年に、鹿鳴館などで知られる英国人建築家ジョサイア・コンドルの設計で建てられた洋館と和館が並ぶ邸宅で、映画の中の「洋館と日本家屋が合体した屋敷」というイメージにぴったりの場所だった。屋敷の内部はセットとして組まれている。
また、物語の重要な場面に登場する桜の木のシーンは、韓国・全羅南道の小鹿島(ソロクト)にある病院の庭園で撮影された。
キャスト[編集]
秀子(キム・ミニ)[編集]
莫大な財産の相続人である日本人の令嬢。幼いころから叔父・上月の屋敷で暮らし、外の世界をほとんど知らずに育った。叔父の命令で、客人の前で書物を朗読する役目を負わされている。
演じたキム・ミニは、本作で第37回青龍映画賞の主演女優賞を受賞した。セリフの多くが日本語で、しかも朗読の場面では長い文章を読み上げなければならないという難役である。
スッキ(キム・テリ)[編集]
泥棒一家に育てられた孤児の少女。伯爵の計画に乗り、侍女「珠子」として屋敷に送り込まれる。抜け目のなさと素朴さを併せ持ったキャラクターで、物語の視点人物でもある。
演じたキム・テリは、本作が長編映画デビュー作。約1500倍ともいわれる大規模オーディションを勝ち抜いて抜擢された。パク・チャヌクは日本でのイベントで、彼女について「短編映画に1本出演しただけのキャリア」だったにもかかわらず堂々と演じてくれたと語り、その適応の速さに驚いたと明かしている。本作で第37回青龍映画賞の新人女優賞を受賞し、のちに『ミスター・サンシャイン』『二十五、二十一』『悪鬼』などで韓国ドラマのトップ女優へと駆け上がっていく。
藤原伯爵(ハ・ジョンウ)[編集]
日本の伯爵を名乗る朝鮮人の詐欺師。口がうまく身なりも完璧だが、その正体は財産目当てのペテン師である。スッキを屋敷に送り込み、秀子との結婚を狙う。
演じるハ・ジョンウは、『チェイサー』『哀しき獣』などで知られる韓国の人気俳優。本作では胡散臭さと色気、そしてどこか間の抜けたコミカルさを併せ持つ詐欺師を演じている。
上月(チョ・ジヌン)[編集]
秀子の叔父で、屋敷の主。朝鮮人でありながら日本に心酔し、日本人の妻を娶って日本の華族のようにふるまう人物。地下に巨大な書庫を持ち、稀覯本の蒐集と、それを使った秘密の「朗読会」に執着している。
原作では比較的出番の少ない叔父の役が、映画では大きく膨らまされ、植民地支配の時代に日本へ同化しようとする人物として造形されている。
その他の登場人物[編集]
- 佐々木夫人(キム・ヘスク):屋敷を取り仕切る日本人の女中頭。
- 叔母(ムン・ソリ):秀子の叔母で、上月の妻。物語の過去パートで登場する。ムン・ソリは『オアシス』などで知られる実力派女優。
原作『荊の城』との違い[編集]
原作はヴィクトリア朝ロンドンのミステリー[編集]
原作の『荊の城』(原題:Fingersmith)は、イギリスの作家サラ・ウォーターズが2002年に発表した長編小説。19世紀半ばのヴィクトリア朝ロンドンを舞台に、スリの一家に育った少女スウ(スーザン)と、郊外の屋敷に暮らす令嬢モードの関係を描く。タイトルのFingersmithは「スリ」を意味する英語のスラングだ。
英国推理作家協会(CWA)の歴史ミステリー賞にあたるヒストリカル・ダガーを受賞し、日本では中村有希の翻訳で創元推理文庫から上下巻で2004年に刊行された。『このミステリーがすごい! 2005年版』の海外編で1位に選ばれるなど、日本のミステリーファンの間でも評価の高い作品である。2005年にはイギリスのBBCでテレビドラマ化もされている。
舞台を日本統治下の朝鮮半島に[編集]
映画最大の変更点は、舞台をヴィクトリア朝のイギリスから1930年代の日本統治下の朝鮮半島へ移したことだ。脚本のチョン・ソギョンは、この時代を選んだ理由として、身分の移動が可能だった時代であり、「偽の貴族」という設定が成立しやすかったことを挙げている。
この変更によって、物語には「日本人」と「朝鮮人」という支配・被支配の関係が加わった。日本に憧れて日本人になりきろうとする上月や、日本の伯爵を名乗る朝鮮人の詐欺師など、登場人物たちのアイデンティティそのものが一種の「偽装」になっている。研究者の間では、家父長制による女性の支配と、植民地支配の構造が重ね合わされている点がよく論じられる。
キャラクターの変化[編集]
原作のモードにあたる秀子は、ただの被害者ではなく、自ら計画を立てて動く戦略家としての面が強調されている。スウにあたるスッキも、原作よりも明るく前向きなエネルギーを持つ人物として描かれ、その明るさが秀子を変えていく原動力になっている。
叔父の役も大きく変わった。原作ではモードの伯父クリストファー・リリーは比較的小さな役割だが、映画の上月は、日本の美意識と支配者への同一化を体現する、物語のもうひとつの核として拡大されている。
結末の大きな違い[編集]
原作には、登場人物の「出生の秘密」や、2人の立場が入れ替わる大きなどんでん返しが含まれているが、映画ではこれらの要素がばっさりと削られた。その代わりに強調されているのが、2人の女性の連帯である。
原作の結末がやや含みを持たせたものであるのに対し、映画は2人が復讐と愛の両方をはっきりと手に入れるハッピーエンドとして描かれる。サラ・ウォーターズ本人も、最初はパク・チャヌクが自作に関心を持ったことに驚いたが、自身が着想を得たヴィクトリア朝のセンセーション小説には肉体的・社会的な暴力が描かれており、パク・チャヌクの作風と通じるところがあると納得したと語っている。
日本語のセリフと美術[編集]
登場人物の多くが日本語を話す[編集]
舞台が日本統治下で、主要人物の多くが日本人、あるいは日本人として振る舞う朝鮮人という設定のため、本作のセリフの相当部分は日本語で話される。韓国の俳優たちが日本語のセリフに挑んだことは、日本公開時にも大きな話題になった。
パク・チャヌクは2017年2月の日本でのイベントで、「日本人が登場して、日本語を話す設定にしたことを今すごく後悔しています」と冗談めかして語り、俳優たちが何か月も日本語の訓練を重ねて本番に臨んだことをたたえた。日本の観客からすると、韓国語なまりの残る日本語の響きも、本作独特の雰囲気のひとつになっている。
和洋折衷の屋敷とカンヌ芸術貢献賞[編集]
本作の美術は国際的にも高く評価され、美術監督のリュ・ソンヒは第69回カンヌ国際映画祭でバルカン賞(芸術貢献賞)を受賞した。洋館と日本家屋がつながった屋敷、そして地下の巨大な書庫など、空間そのものが物語の「仕掛け」として機能している。
日本の批評でも、屋敷の折衷様式や機械仕掛けの書庫を、江戸川乱歩の世界になぞらえる声があった。撮影は『オールド・ボーイ』以来パク・チャヌク作品を撮り続けているチョン・ジョンフン、音楽は同じく常連のチョ・ヨンウクが担当している。
「笑える」官能サスペンス[編集]
本作には性的な場面の描写があり、韓国では青少年観覧不可、日本ではR18+指定で公開された。ただしパク・チャヌクは、官能的なシーンの中にも意図的に笑える要素を入れていると明かしており、「できることなら毎上映、前説やサクラを仕込んで笑いを誘導したいぐらい」と語っている。
実際、上月の朗読会や伯爵の空回りぶりなど、本作には思わず笑ってしまうブラックユーモアが随所に仕込まれている。ジャパンプレミアに登壇した作家の島本理生も、最初はドロドロした官能映画だと思っていたが、実際にはスリリングで解放感にあふれた映画だったと感想を述べている。
公開と興行[編集]
カンヌでの初上映[編集]
本作は2016年5月14日、第69回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で初上映された。日本の報道によれば、上映後には8分以上のスタンディングオベーションが起きたという。キム・テリにとっては、長編デビュー作でカンヌのレッドカーペットを踏むことになった。
韓国での大ヒット[編集]
韓国では2016年6月1日に公開され、約428万人を動員した。これは青少年観覧不可(成人向け)指定のパク・チャヌク作品として最高の成績である。製作費は約100億ウォンで、世界興行収入は約3,860万ドルに達した。公開前に100を超える国と地域へ販売され、アメリカではAmazon Studiosが配給を担当している。
海外での評価[編集]
アメリカではパク・チャヌク作品として最高の興行収入を記録し、イギリスでは2017年に公開された外国語映画の中でトップの興行成績を収めた。批評サイトRotten Tomatoesでは支持率96%、Metacriticでは85点と、批評家からも絶賛されている。
BBCが2016年に発表した「21世紀の偉大な映画100本」にも選ばれており、同じ年に公開された作品の中でも、国際的に最も評価された韓国映画のひとつとなった。
日本公開[編集]
日本では「ザ・ハンドメイデン」という英題ではなく、『お嬢さん』の邦題で、ファントム・フィルムの配給により2017年3月3日に公開された。TOHOシネマズシャンテほか全国で順次公開され、上映時間は145分、R18+指定。
同年6月24日には、24分の未公開カットを加えた「スペシャル・エクステンデッド版」(169分)も劇場公開されている。本編より長いバージョンを改めて劇場にかけるという異例の展開で、本作が日本でも根強いファンを獲得したことがうかがえる。
受賞[編集]
英国アカデミー賞[編集]
2018年2月18日に開かれた第71回英国アカデミー賞で、非英語作品賞を受賞した。韓国映画がこの部門で受賞するのは史上初めてで、アジアの監督の作品としては2000年の『グリーン・デスティニー』(アン・リー監督)以来の快挙と報じられた。当時ロンドンでドラマ『リトル・ドラマー・ガール』を撮影中だったパク・チャヌクは、作品を無事に仕上げて韓国に帰り、キャストやスタッフと一緒に祝いたいとコメントしている。
青龍映画賞[編集]
2016年11月25日に行われた第37回青龍映画賞では、以下の3部門を受賞した。
- 主演女優賞:キム・ミニ
- 新人女優賞:キム・テリ
- 美術賞:リュ・ソンヒ
美術賞の授賞式では、リュ・ソンヒに代わってパク・チャヌクが壇上に上がり、「違うことを原動力に、半歩ずつ前に進むことが進歩だ」という趣旨のメッセージを述べた。
その他の主な受賞[編集]
- 第69回カンヌ国際映画祭:バルカン賞(芸術貢献賞、リュ・ソンヒ)
- ロサンゼルス映画批評家協会賞:外国語映画賞、美術賞
- シカゴ映画批評家協会賞:脚色賞、外国語映画賞
日本での視聴方法[編集]
配信[編集]
2026年10月時点では、動画配信サービスのU-NEXTで配信されているほか、Apple TVでレンタル・購入が可能、DMM TVなどでも視聴できると各種配信情報サイトで案内されている。なお、配信状況は時期によって変わるため、視聴前に各サービスで確認するのが確実だ。
R18+指定の作品のため、配信サービスによっては年齢確認や成人向けの視聴制限がかかる場合がある。
劇場版とエクステンデッド版[編集]
配信で一般的に見られるのは145分の劇場公開版である。169分のスペシャル・エクステンデッド版は、配信情報サイトでは主要サービスでの配信が確認できない状態となっており、見たい場合はソフトなどを探す必要がある。
余談[編集]
- 日本には三島由紀夫原作・若尾文子主演の『お嬢さん』(1961年)という同名の映画もあるため、検索や配信サービスで探すときは「パク・チャヌク」「2016」などで絞り込むと迷わない。
- 原題の「아가씨(アガッシ)」は韓国語で「お嬢さん」「若い女性」を意味する言葉。英題の「The Handmaiden」は「侍女」の意味で、韓国語・日本語のタイトルが秀子側を、英語のタイトルがスッキ側を指しているのが面白い。
- パク・チャヌクは日本のイベントで、『オールド・ボーイ』のときは世界中どこへ行っても、革ジャンに腰からチェーンを下げ、タトゥーを入れた男性ファンが多かったと振り返っている。本作で客層が大きく変わったことを笑いまじりに語ったエピソードである。
- キム・テリ本人のInstagram(@taeri__taeri)はフォロワー150万人を超える人気アカウントで、2026年10月時点ではプロフィールに個人チャンネル用の連絡先が掲載されている。
- パク・チャヌク作品の常連であるソン・ガンホは本作には出演していない。一方、同時期の韓国映画界ではポン・ジュノが『殺人の追憶』以来の盟友ソン・ガンホと組んだ『パラサイト 半地下の家族』(2019年)で世界を席巻しており、本作の英国アカデミー賞受賞とあわせて、韓国映画の国際的評価が一気に高まった時期だった。
- 英国アカデミー賞の受賞はロンドンでの興行の好調とも重なっており、イギリスでの興行収入は約135万ポンドと、イギリスで公開された韓国映画として史上最高を記録したと報じられた。

