ベテラン
베테랑/Veteran

主人公ソ・ドチョルを演じたファン・ジョンミン(2026年7月、ソウル・COEXにて。撮影:韓国文化体育観光部 公式写真家 Park Dae-jin、出典:ウィキメディア・コモンズ、CC BY-SA 4.0)
監督 リュ・スンワン
製作 チョ・ソンミン
脚本 リュ・スンワン
出演 ファン・ジョンミン
ユ・アイン
ユ・ヘジン
オ・ダルス
チャン・ユンジュ
撮影 チェ・ヨンファン
音楽 パン・ジュンソク
ジャンル 犯罪アクション/コメディ
制作会社 Film K/フィルムメーカーR&K
配給 韓国:CJエンタテインメント
日本:CJ Entertainment Japan(2015年)、KADOKAWA(2025年リバイバル)
劇場公開 韓国:2015年8月5日
日本:2015年12月12日
上映時間 123分
製作費 約510万米ドル
興行収入 韓国:約1,051億ウォン
韓国観客動員:約1,341万人
言語 韓国語
次作 ベテラン2(2024年、邦題『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』)



概要[編集]

ベテラン(原題:베테랑、英題:Veteran)とは、リュ・スンワン監督・脚本、ファン・ジョンミンとユ・アイン主演による2015年公開の韓国映画の犯罪アクションである。型破りなベテラン刑事が傍若無人な財閥3世を追い詰める痛快作で、韓国で約1,341万人を動員した。2024年には続編『ベテラン2』(邦題『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』)が公開された。

詳細[編集]

「財閥vs刑事」をド直球で描いた国民的ヒット[編集]

本作は、広域捜査隊の刑事ソ・ドチョルが、大企業・新進グループの御曹司チョ・テオの犯罪を追う物語である。2015年8月5日に韓国で公開されると、公開5日間で約275万人を集めるロケットスタートを切り、8月29日には公開25日目で観客1,000万人を突破した。韓国映画としては13本目の「1,000万映画」で、同年7月公開の『暗殺』と合わせて、韓国映画が同じ夏に2本続けて1,000万人を超える「双1,000万」状態になったことも話題になった。最終動員は約1,341万人、興行収入は約1,051億ウォンに達し、韓国映画の歴代興行ランキングでも上位5本に入る大ヒットとなった。

製作費は控えめ、熱量は最大[編集]

製作費は約510万米ドルと伝えられており、超大作というよりは「中規模の娯楽映画」の予算感である。監督・脚本はアクション演出に定評のあるリュ・スンワンで、制作会社のひとつフィルムメーカーR&Kは監督と、プロデューサーである妻カン・ヘジョンが運営する会社だ。撮影はチェ・ヨンファン、音楽はパン・ジュンソク、配給はCJ ENMの映画部門であるCJエンタテインメント。生身の肉体がぶつかり合う格闘、カーチェイス、刑事たちの軽妙な掛け合いをテンポよく詰め込み、123分を一気に見せ切る構成が高く評価された。

ファン・ジョンミンの「連続1,000万」[編集]

主演のファン・ジョンミンは、前年12月公開の『国際市場で逢いましょう』でも1,000万人を突破しており、本作で主演作が2作連続で1,000万人を超えることになった。リュ・スンワン監督とは2010年の『生き残るための3つの取引』以来のタッグで、日本の雑誌インタビューでは、監督が「ずっと自分のカメラの前に立ってほしかった」と語る一方、ファン・ジョンミンは「監督からのオファーなら脚本を読まずに受ける」とまで言い切っている。この2人の信頼関係が、9年後の続編へとつながっていく。なおファン・ジョンミンは翌2016年にもナ・ホンジン監督の『哭声/コクソン』に出演しており、この時期は出る作品がことごとくヒットする絶頂期だった。

あらすじ[編集]

※1作目の物語の紹介。結末に軽く触れる。

広域捜査隊のソ・ドチョル(ファン・ジョンミン)は、正義感は人一倍だが手が早く口も悪い、型破りなベテラン刑事。オ・チーム長(オ・ダルス)のもと、潜入捜査もこなすミス・ボン(チャン・ユンジュ)、ユン刑事(キム・シフ)、ワン刑事(オ・デファン)ら個性的な面々と、大規模な自動車密輸事件を解決したばかりだった。

ある日、ドチョルと顔なじみのトラック運転手ペ(チョン・ウンイン)が、下請け会社の賃金未払いに抗議したあと、大企業・新進物産の本社ビルから転落して重体となる。会社側は「投身自殺」として処理しようとするが、ドチョルは、以前パーティーで出会った新進グループの3世チョ・テオ(ユ・アイン)が事件に関わっていると直感する。

テオの右腕であるチェ常務(ユ・ヘジン)は、金と人脈を総動員して事件のもみ消しに走り、警察上層部にも圧力がかかる。ドチョル自身も買収や脅しにさらされ、妻ジュヨン(チン・ギョン)にまで手が伸びる。それでもドチョルは引かず、事件が自殺に見せかけられたものだという証拠を積み上げていく。やがてテオが海外への逃亡を図っていることを突き止めた広域捜査隊は、最後の勝負に打って出る。クライマックスでは、ソウル・明洞の雑踏を舞台に、ドチョルとテオが真正面から殴り合う。

登場人物とキャスト[編集]

広域捜査隊[編集]

主人公。広域捜査隊のベテラン刑事。荒っぽいが筋は絶対に曲げない熱血漢で、「金はなくてもプライドはある」を地で行く男。
  • オ・チーム長(演:オ・ダルス)
ドチョルの上司。上からの圧力と部下の暴走の板挟みになりながらも、最後はチームを守る頼れる存在。オ・ダルスは本作で複数の映画賞の助演男優賞を受賞している。
  • ミス・ボン(演:チャン・ユンジュ)
紅一点の刑事。モデル出身のチャン・ユンジュが、潜入捜査やアクションで活躍する。
  • ユン刑事(演:キム・シフ)、ワン刑事(演:オ・デファン)
チームのメンバー。2人とも続編にも再登場する。

新進グループ側[編集]

  • チョ・テオ(演:ユ・アイン)
新進グループの御曹司で財閥3世。気に入らない相手には暴力と札束で応じる、絵に描いたような「悪い御曹司」。ユ・アインにとってキャリアを代表する悪役となった。
  • チェ常務(演:ユ・ヘジン)
テオの尻ぬぐいを一手に引き受ける側近。冷静沈着に事件の隠蔽を指揮する。
  • チョ会長(演:ソン・ヨンチャン)
新進グループの会長。テオの一族のトップに君臨する。

その他[編集]

  • ペ運転手(演:チョン・ウンイン)
賃金未払いに抗議したトラック運転手。事件の発端となる人物。
  • ジュヨン(演:チン・ギョン)
ドチョルの妻。続編にも登場する。
  • そのほか、ユ・インヨン、パク・ソダム、イ・ドンフィらが出演している。

実在の事件と社会背景[編集]

「殴り代」暴行事件[編集]

本作のチョ・テオの悪行には、韓国で実際に報じられた財閥一族の事件を思わせる描写が多い。とくに有名なのが、2010年に発覚した通称「メッカプ(殴り代)暴行事件」である。物流会社の元代表で財閥一族の人物が、抗議に来たタンクローリー運転手をバットなどで殴打したうえ、「殴った代金」として小切手を渡したとされる事件で、加害者は懲役1年6か月・執行猶予3年の判決を受けた。劇中でテオが、賃金未払いに抗議する運転手を痛めつけて札束を投げつける場面は、この事件をほぼそのまま想起させる。

隠蔽・逃亡・暴走運転[編集]

韓国メディアは、本作の描写と重なる「現実の事件」をいくつも並べて紹介した。財閥会長の息子が絡んだ暴行事件で、元警察幹部が捜査に圧力をかけて事件を縮小しようとしたケース、財閥一族の人物が事件後に海外へ逃げようとして空港で止められたケース、薬物を使った状態で高級車を運転して多重事故を起こしたケースなどである。映画はフィクションだが、「どこかで見たことがある財閥の横暴」の集大成として受け止められた。

「ナッツ・リターン」直後の空気[編集]

公開前年の2014年末には、大手航空会社の財閥一族の役員が機内サービスに激怒して旅客機を引き返させた、いわゆる「ナッツ・リターン事件」が起き、財閥の特権意識への怒りが社会全体で高まっていた。日本の映画メディアも本作をこの事件と結びつけて紹介している。「法の上にいる金持ちを、ただの刑事がぶん殴る」という本作のカタルシスは、まさにその時代の空気にハマった形である。

名台詞[編集]

「俺たちは金はなくてもカオはある」[編集]

ドチョルの代名詞となった台詞が「우리가 돈이 없지 가오가 없냐」(俺たちは金はなくてもカオ〈プライド〉はある)である。買収を持ちかけられた刑事が、貧乏でも誇りだけは売らないと啖呵を切る場面で使われ、公開後は韓国中で流行語になった。「가오(カオ)」は日本語の「顔」に由来するとされる俗語で、「面子・格好・プライド」といった意味で使われる。日本人からすると、韓国映画の決め台詞の核心部分がまさかの日本語由来という点でもおもしろい。

「어이가 없네」[編集]

もうひとつの名台詞が、テオの「어이가 없네」(呆れたね)である。劇中でテオは、石臼(맷돌)の取っ手を「어이」と呼ぶという話を持ち出し、取っ手がなければ石臼は回せない=「어이가 없다」と嫌味たっぷりに語る。人を見下しきった口調と相まって、韓国ではモノマネやパロディの定番となった。

名台詞が続編でも大活躍[編集]

「カオ」の台詞は公開から10年近く経っても、バラエティ番組やネットミームで引用され続けている。2024年の続編公開時にも、宣伝やパロディでこのフレーズが大量に使われた。

続編『ベテラン2』[編集]

9年越しの続編[編集]

続編の構想は、1作目のヒット直後の2015年9月にはすでに明かされていた。当初は2〜3年後の製作が想定されていたが、実際に脚本が完成したのは2021年12月。2022年7月にチョン・ヘインの出演が報じられ、同年12月に撮影がスタートした。2023年1月には大田市庁舎でのロケも行われ、同年7月にクランクアップしている。脚本はリュ・スンワンとイ・ウォンジェの共同、音楽はミュージシャンのチャン・ギハが担当した。原題は『베테랑2』、英題は『I, the Executioner』、上映時間は118分。

今度の敵は「私刑」を下すヒーロー[編集]

続編で新人刑事パク・ソヌを演じたチョン・ヘイン(2024年5月18日、仁川国際空港にて。撮影:K-POPIT、出典:ウィキメディア・コモンズ、CC BY 3.0)

1作目が「法で裁けない金持ち」を追う話だったのに対し、続編は「法で裁かれなかった悪人を殺していく連続殺人犯」を追う物語になった。世論はこの犯人を、善悪を裁く伝説の霊獣になぞらえて「ヘチ」と呼び、正義のヒーローとして支持する。さらに事件を煽る過激なユーチューバーも絡み、事態は加熱していく。ソ・ドチョルは、彼に憧れる新人刑事パク・ソヌ(チョン・ヘイン)とともに捜査にあたるが――という展開である。オ・ダルス、チャン・ユンジュ、オ・デファン、キム・シフ、チン・ギョンら1作目のメンバーも再集結し、アン・ボヒョンも出演している。

カンヌ、トロント、そして750万人[編集]

『ベテラン2』は2024年5月21日、カンヌ国際映画祭のミッドナイト・スクリーニング部門でワールドプレミアを迎え、9月5日にはトロント国際映画祭のスペシャル・プレゼンテーション部門でも上映された。韓国では2024年9月13日、秋夕(チュソク)連休直前に公開され、公開6日で400万人を超えるスタートを切った。日本の公式サイトによれば韓国での動員は750万人、5週連続1位を記録している。2024年の青龍映画賞では、チョン・ヘインが助演男優賞を受賞した。

撮影の裏話[編集]

リュ・スンワン監督にとって、自作の続編を撮るのはこれが初めてだった。韓国の製作報告会では、ファン・ジョンミンが着るドチョルの衣装が1着しかない私物で、監督が9年間会社の倉庫に保管していたというエピソードも明かされた。ファン・ジョンミンは脚本段階で「1作目のトーンを踏襲するのもありでは」と監督に意見したが、新しいものを作りたいという監督の熱意に押され、物語を受け入れていったという。雨の屋上での格闘シーンは5日間夜通しで撮影され、極寒の中で凍った水を何度も溶かしながらの過酷な現場だった。一方でチョン・ヘインは「今までの作品の中で一番安全だった現場」と振り返っている。

日本での展開[編集]

1作目は2015年冬に公開[編集]

1作目は韓国公開から約4か月後の2015年12月12日に、CJ Entertainment Japanの配給で日本公開された。続編の日本公開に合わせ、2025年4月にはKADOKAWAの配給で1作目のリバイバル上映も行われている。

『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』として公開[編集]

続編は日本では『ベテラン 凶悪犯罪捜査班』の邦題で、KADOKAWA配給により2025年4月11日に全国公開された。キャッチコピーは「善悪の境界線を越えるな」。公開直前の4月3日には、ファン・ジョンミン、チョン・ヘイン、リュ・スンワン監督が来日して記者会見とジャパンプレミアに登壇した。ファン・ジョンミンにとっては映画単体のプロモーションでの初来日だった。舞台挨拶ではファン・ジョンミンが架空の電話番号を口にして「感想をぜひ私に直接教えてください」と笑わせたほか、チョン・ヘインに客席を一周するよう無茶ぶりし、チョン・ヘインが通路を駆け抜ける「緊急ファンサービス」が実現した。

配信・パッケージ[編集]

2025年7月4日からはAmazon Prime Videoで見放題独占配信が始まり、同年10月31日にはBlu-ray&DVDが発売された。日本向け公式Xアカウント(2024年12月開設)によると、Blu-ray豪華版にはポストカード5枚セットと全8ページのブックレットが封入され、特典映像として「カンヌ国際映画祭Vlog」や、2人が描いたメインポスターの映像も収録されている。

評価と受賞[編集]

1作目[編集]

1作目はアクションとコメディのバランス、そしてキャラクターの魅力が高く評価された。リュ・スンワンは青龍映画賞と百想芸術大賞で監督賞を受賞。ユ・アインは本作の悪役で複数の映画賞の主演男優賞に輝き、釜山国際映画祭関連のアジアスター賞も受けている。オ・ダルスも助演男優賞を受賞したほか、スペインのシッチェス映画祭ではカサ・アジア賞を獲得した。

続編[編集]

続編は海外の批評家からも好意的に迎えられ、Rotten Tomatoesでは批評家レビュー15件すべてが肯定的という結果になった。青龍映画賞ではチョン・ヘインの助演男優賞に加え、スタント部門の技術賞も受賞している。

海外リメイク[編集]

1作目は中国で『大人物』(英題:The Big Shot)としてリメイクされ、2019年に公開された。主演はワン・チエンユエン。さらにアメリカでは、マイケル・マン監督によるリメイク企画が報じられている。

余談[編集]

  • 英題「Veteran」をそのままカタカナにした邦題だが、続編の邦題には「凶悪犯罪捜査班」というサブタイトルが付いた。韓国の原題はシンプルに『베테랑2』である。
  • リュ・スンワン監督は「アクション・キッド」の異名を持つ韓国アクション映画の第一人者で、本作のほか『ベルリンファイル』『軍艦島』『モガディシュ 脱出までの14日間』『密輸 1970』などを手がけている。
  • 来日インタビューでリュ・スンワン監督は、ファン・ジョンミンを「思春期の少年のような人。体は大人なのに、内面は常に揺れ動いている」と表現した。その揺らぎこそが彼の存在感の源だという。
  • チョン・ヘインは、ファン・ジョンミンのベストシーンとして、終盤で息子にラーメンを分け与える静かな場面を挙げている。一方のファン・ジョンミンは、チョン・ヘインの「目の演技」に鳥肌が立ったと絶賛した。
  • 来日記者会見でファン・ジョンミンは、チョン・ヘインとの共演について「とりあえずチューはしていないので一安心」とボケて会場を沸かせた。
  • 型破りな刑事が悪党を力ずくで追い詰める痛快さから、マ・ドンソク主演の『犯罪都市』シリーズと並べて語られることも多い。韓国の犯罪映画の系譜では、ナ・ホンジン監督の『チェイサー』、ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』なども定番の比較対象である。また「悪を一人で叩きのめす」系の韓国アクションとしては、ウォンビン主演の『アジョシ』やパク・チャヌク監督の『オールド・ボーイ』と並べて紹介されることもある。

外部リンク[編集]

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