| ハルビン 하얼빈 / Harbin | |
|---|---|
![]() 主演のヒョンビン(2014年、富川国際ファンタスティック映画祭のレッドカーペットにて。出典:Wikimedia Commons、ライセンスはファイルページの表記に準ずる) | |
| 監督 | ウ・ミンホ |
| 製作 | キム・ウォングク |
| 脚本 | キム・ギョンチャン、ウ・ミンホ |
| 出演 |
ヒョンビン パク・ジョンミン チョ・ウジン チョン・ヨビン パク・フン ユ・ジェミョン リリー・フランキー イ・ドンウク チョン・ウソン(特別出演) |
| 撮影 | ホン・ギョンピョ |
| 音楽 | チョ・ヨンウク |
| ジャンル | 歴史・スパイアクション/サスペンス |
| 撮影期間 | 2022年11月20日 - 2023年3月29日(全63回次) |
| 制作会社 | ハイブメディアコープ、ジェムストーン・ピクチャーズ |
| 配給 |
CJ ENM(韓国) KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス(日本) |
| フォーマット | IMAX(1.90:1)対応 |
| 劇場公開 |
2024年9月8日(トロント国際映画祭) 2024年12月24日(韓国) 2025年7月4日(日本) |
| 配信 | Amazon Prime Video、U-NEXT、DMM TV(日本・見放題) |
| 上映時間 | 114分 |
| 製作費 | 約300億ウォン |
| 興行収入 | 韓国観客動員 約491万人/全世界 約3,347万ドル |
| 言語 | 韓国語、日本語 |
| レイティング | 15歳以上観覧可(韓国)/G(日本) |
| リンク | https://harbin-movie.jp/ |
概要[編集]
ハルビン(하얼빈)とは、1909年10月26日に安重根がハルビン駅で伊藤博文を射殺した事件を題材にした、ウ・ミンホ監督・ヒョンビン主演の2024年の韓国映画である。英雄譚ではなく、迷いと罪悪感を抱えた独立運動家たちの逃避行と内部の疑心暗鬼を描いたスパイ・スリラー仕立ての作品で、韓国では491万人を動員した。
詳細[編集]
企画の経緯[編集]
監督のウ・ミンホは、朴正煕暗殺事件(1979年10月26日)を描いた『KCIA 南山の部長たち』(2020年)の監督でもある。同作の劇中には「安重根のハルビン作戦」に触れるセリフがあり、二つの事件はくしくも同じ「10月26日」に起きている。監督自身はインタビューで「自分が安重根の映画を撮るとは思わなかった」と語っている。
当初、監督は安重根という人物に対する畏敬の念の大きさから企画を一度断ったという。しかし安重根の自叙伝を読み、彼がまだ30歳前後の若者で、戦闘での敗北も経験していたことを知って考えが変わった。監督は、娯楽色の強かった初期のシナリオを、より重く深いトーンへと作り直したと述べている。
キャスティング[編集]
主演のヒョンビンは、最初にオファーを受けた際「安重根将軍の象徴性があまりに大きく、自分には背負えない領域だ」として出演を断っている。それでもウ・ミンホ監督が修正したシナリオを送り続けたため、「こんな機会がまた来るだろうか」と考えるようになり、「偉大な人物を演じるのも大きな光栄」と出演を決めた。監督はこれを「叶うまでやった」と表現している。ハイブメディアコープがヒョンビンのキャスティングを発表したのは2021年11月である。
伊藤博文役には日本のリリー・フランキーが起用された。監督はもともとリリー・フランキーの大ファンで、是枝裕和作品での演技に感銘を受け、「品格と深みを感じさせる声」が伊藤役にふさわしいと判断した。リリー・フランキーにとっては本作が韓国映画初出演で、シナリオを読んだうえで出演を決めたと報じられている。
演出の方向性[編集]
ウ・ミンホ監督は、伊藤博文について「日本の近代化に大きく貢献した偉大な政治家であり、英雄的な側面もある」と捉え、単なる悪役ではなく「カリスマ性と品格」を持つ人物として描いたと日本のメディアに語っている。登場人物すべてを「魅力を持った存在として描きたかった」という。
一方で安重根も、無謬の英雄ではなく、自らの判断で仲間を死なせたという罪悪感に苛まれ、孤独と恐怖に震える一人の人間として描かれる。韓国のレビューでは、韓国大作によくあるコミカルな息抜き役を一切置かず、熱狂より「抑制と余韻」を選んだ点が、従来の独立運動映画との違いとして挙げられた。なお、2022年の小説(キム・フン『ハルビン』)やミュージカル映画『英雄』とは別企画で、安重根の家族の物語や伊藤の来歴はほぼ描かず、独立運動家同士の葛藤と日本軍の追跡劇に焦点を絞っている。
あらすじ[編集]
1908年、咸鏡北道のシナ山(新阿山)。安重根率いる大韓義軍は日本軍との戦闘に勝利し、多数の捕虜を得る。安重根は万国公法(国際法)に従って捕虜を釈放するが、仲間のイ・チャンソプは強く反対する。釈放された捕虜の一人である日本軍の森辰雄は、のちに義軍への報復に転じ、義軍は大きな犠牲を出してしまう。
1年後の1909年、ウラジオストク。仲間を死なせたという罪悪感を抱えたまま生き延びた安重根は、ウ・ドクスン、キム・サンヒョンら同志と再び集まり、かつての大韓帝国統監・伊藤博文がロシア側と会談するためハルビンを訪れるという情報をつかむ。安重根たちは伊藤を討つためハルビンへ向かうが、その動きはなぜか日本軍に筒抜けになっていた。仲間の中に内通者がいるのではないかという疑念を抱えながら、極寒の荒野を越える作戦が進んでいく。
物語はスパイ・スリラーの文法で進み、裏切り、拷問、銃撃戦、心理戦が続く。クライマックスは1909年10月26日のハルビン駅である。監督は狙撃の瞬間について、俳優の顔のクローズアップを避けて遠景で撮り、倒れていった独立運動家たちの視点で見せることを選んだと語っている。
キャスト[編集]
| 俳優 | 役名 | 人物 |
|---|---|---|
| ヒョンビン | 安重根(アン・ジュングン) | 大韓義軍の参謀中将。捕虜釈放の決断を悔い続ける |
| パク・ジョンミン | 禹徳淳(ウ・ドクスン) | 安重根の同志。実在の人物 |
| チョ・ウジン | キム・サンヒョン | 義軍の同志。創作された人物 |
| チョン・ヨビン | コン夫人 | 独立運動を支える女性。創作された人物 |
| パク・フン | 森辰雄(もり・たつお) | 日本軍少佐。義軍を執拗に追う。創作された人物 |
| ユ・ジェミョン | 崔在亨(チェ・ジェヒョン) | ロシア沿海州の独立運動の後援者。実在の人物 |
| リリー・フランキー | 伊藤博文 | 初代内閣総理大臣、初代韓国統監 |
| イ・ドンウク | イ・チャンソプ | 義軍の同志。安重根の捕虜釈放に反発する。創作された人物 |
| チョン・ウソン | パク・ジョムチュル | 特別出演。独立運動から離れた元義兵 |
| エゴ・ミキタス | ウラジーミル・ココフツォフ | ロシアの大蔵大臣。ハルビンで伊藤と会談する |
韓国の解説記事では、イ・チャンソプ、コン夫人、キム・サンヒョン、森辰雄の4人は創作上の人物で、名もなく散った独立運動家たちを象徴する存在として配置されていると説明されている。
制作[編集]
ロケ撮影[編集]
撮影は2022年11月20日から2023年3月29日まで、全63回次にわたって行われた。ロケ地は韓国、モンゴル、ラトビアで、撮影期間は報道により5か月とも6か月とも伝えられている。監督は「地球を2周半した。モンゴルは空港から撮影地まで3日かかった」と振り返っている。
モンゴルでは凍結した湖の上での撮影も行われ、ヒョンビンは「氷点下40度の天候で、凍った湖の上で撮影した」と語った。パク・ジョンミンも「80年ぶりの大雪で気温が氷点下40度まで下がった」と回想している。監督は「あの方たちの労苦と心を少しでも感じるには、自分たちも苦労しなければならないと思った」と述べ、当時の空気感を出すためCGの使用を最小限に抑えたとされる。安重根がひとり凍った川を渡るシーンは、本作の象徴的なカットとして韓国メディアに取り上げられた。ラトビアは、当時のウラジオストクやハルビンの街並みを再現するロケ地として使われた。
撮影とIMAX[編集]
撮影監督は『パラサイト 半地下の家族』『哭声/コクソン』のホン・ギョンピョ。カメラはARRI ALEXA 65が使われ、韓国映画として初めてIMAX専用の画面比(1.90:1)に対応した作品となった。灰色を基調にした抑えた色調と、光と影を強調したミザンセーヌが特徴で、伊藤博文の初登場シーンやハルビン駅のシーンは韓国の批評でも特に評価された。
音楽[編集]
音楽監督はチョ・ヨンウク。劇伴はロンドンのアビー・ロード・スタジオで、ロンドン交響楽団の演奏により録音された。オリジナル・サウンドトラックは2025年1月7日にリリースされた。
主演俳優の役作り[編集]
ヒョンビンは史料を読み込んで安重根の生い立ちから人物を理解しようとし、記録に残っていない空白部分を「人間的な悩みや罪悪感」で埋めようとしたと語る。ウ・ミンホ監督によれば、雪と泥の中で衣装を替えずに撮影を続け、カメラにほとんど映らない場面でも自らアクションをこなしたという。ヒョンビンは撮影期間中に父親になっており、「いつか息子にこの映画を見せて、パパがそばにいなかった時にこんなに立派な方を演じていたんだと伝えたい」とも話している。
史実との関係[編集]
伊藤博文暗殺事件[編集]
本作の題材は、1909年10月26日、満洲のハルビン駅のホームで、ロシアの大蔵大臣ココフツォフとの会談のため到着した伊藤博文を、安重根が拳銃で撃って死亡させた事件である。伊藤は日本の初代内閣総理大臣で、初代韓国統監を務めた人物だった。安重根はその場でロシア側に拘束されて日本側に引き渡され、旅順で裁判を受けて1910年3月26日に死刑が執行された。獄中では未完の論考『東洋平和論』を書いている。
映画の冒頭に描かれる1908年の戦闘と、捕虜を国際法に従って釈放したことが裏目に出たというエピソードは、安重根の行動として伝わる出来事を下敷きにしている。ただし実際の戦闘は7月だったのに対し、映画では冬の場面として描かれている。また、捕虜釈放が直接仲間の死につながったという因果関係は映画上の脚色とされ、日本のレビューの中には「全体の多くは史実から離れたフィクション」と指摘するものもある。
日韓の受け止め方の違い[編集]
安重根の評価は日韓で大きく異なる。韓国では民族の「義士」として広く尊敬され、本作も「忘れてはならない歴史」(ヒョンビンの青龍映画賞受賞時のコメント)として受け止められた。一方、日本政府は、2013年11月に菅義偉官房長官(当時)が「犯罪者」、2014年1月19日にハルビン駅の安重根記念館が開館した際には「わが国の初代首相を殺害し、死刑判決を受けたテロリスト」との認識を記者会見で示しており、韓国外交部はこれに反発している。
映画をめぐっても、英語版Wikipediaによれば、日本の保守系論者の一部が本作を「反日感情をあおる修正主義的プロパガンダ」と批判したとされる。一方、日本の映画評論の中には、英雄を美化するのではなく迷いや弱さを抱えた人間として描いている点を挙げ、単純な民族主義的プロパガンダではないと評するものもある。『福田村事件』の森達也監督は、ニューズウィーク日本版への寄稿で「歴史を学ぶのは同じ過ちを繰り返さないため」として「日本人こそ見るべき映画」と書いた。在日の映画評論家フィリップ・ブレイザーは、本作は実在の事件を扱っており、日本公開に際して右派による抗議活動などは報じられていないと記している。
公開[編集]
韓国[編集]
2024年9月8日、トロント国際映画祭のガラ・プレゼンテーション部門でワールドプレミア上映された。韓国では2024年12月24日(クリスマスイブ)に公開された。配給はCJ ENM。
日本[編集]
日本では邦題もそのまま『ハルビン』として、2025年7月4日に新宿ピカデリーほかで全国公開された。配給はKADOKAWAとKADOKAWA Kプラス、字幕翻訳は根本理恵、レイティングはG。公開に先立つ6月27日には新宿ピカデリーでジャパンプレミアが開かれ、ヒョンビン、リリー・フランキー、ウ・ミンホ監督が登壇した。
ヒョンビンは「この映画は日韓の歴史的な事件を描いています。日本の観客の皆さんとこのようにお会いできるのは非常に感慨深い」と挨拶し、韓国公開時にリリー・フランキーと「日本でイベントがあるときはぜひ一緒に行きましょう」と約束しており、それを果たせたと語った。リリー・フランキーは、この映画が両国で上映されることを「平和の象徴」と表現した。ウ・ミンホ監督は日本メディアに「正直、こうした内容の映画が(日本で)公開されるとは思っていなかった」と述べている。
興行成績[編集]
韓国では公開初日に38万1,251人を動員して初登場1位を記録。公開2日目に100万人、5日目に200万人、9日目に300万人を突破した。年末年始のライバル作『消防士』などを抑えて28日間連続でボックスオフィス1位を守り、韓国映画振興委員会の集計で最終的な観客動員は約491万人、全世界の興行収入は約3,347万ドルとなった。日本の公式サイトでは「韓国映画2025年観客動員No.1」(2025年3月18日時点)とうたわれている。
製作費は約300億ウォンとされ、損益分岐点は監督の発言ベースで約500万人と伝えられた。劇場動員はその目前の491万人で止まったことになる。
評価[編集]
Rotten Tomatoesでは18件の批評家レビューのうち89%が肯定的で、平均評価は6.5/10。韓国の批評では、ヒョンビンの「歴史上の外見に寄せるのではなく、自由のために戦った平和主義者」としての演技や、パク・ジョンミン、チョ・ウジン、チョン・ヨビン、ユ・ジェミョン、イ・ドンウクらの助演陣が高く評価された。リリー・フランキーの伊藤博文も、尊大でありながら朝鮮の人々の反感を自覚している人物として陰影があると評された。
一方で、脚本は裏切りや拷問、同志への疑いといった政治スリラーの定型に寄っているという指摘もある。日本の映画レビューサイトでは、映画.comで5点満点中3.0前後の評価となっている。
受賞[編集]
| 年 | 賞 | 部門 | 対象 |
|---|---|---|---|
| 2025年 | アジア・フィルム・アワード | 撮影賞 | ホン・ギョンピョ |
| 2025年 | 第61回百想芸術大賞 | 映画部門 大賞 | ホン・ギョンピョ |
| 2025年 | 第61回百想芸術大賞 | 映画部門 作品賞 | ハルビン |
| 2025年 | 釜日映画賞 | 撮影賞、美術・技術賞 | ハルビン |
| 2025年 | 第46回青龍映画賞 | 主演男優賞 | ヒョンビン |
| 2025年 | 第46回青龍映画賞 | 撮影照明賞 | ハルビン |
| 2025年 | フィレンツェ韓国映画祭 | 観客賞 | ハルビン |
| 2025年 | 韓国映画製作家協会賞 | 技術賞 | ハルビン |
百想芸術大賞では作品賞と大賞の2冠。ホン・ギョンピョは受賞スピーチで「『ハルビン』は厳しい冬の寒さの中で撮った映画で、この栄誉をすべての仲間と分かち合いたい」と述べた。撮影監督が百想の大賞を受賞したのは史上初とされる。第46回青龍映画賞の授賞式は2025年11月19日にソウル・汝矣島のKBSホールで行われ、ヒョンビンが主演男優賞を受賞した。
余談[編集]
- ウ・ミンホ監督の前作『KCIA 南山の部長たち』と本作は、どちらも「10月26日」に起きた暗殺事件を描いている。監督の「10月26日三部作」を期待する声もあるが、本人は否定的である。
- ジャパンプレミアでリリー・フランキーが明かしたエピソードによると、韓国の俳優たちが韓国語で盛り上がる食事の席で黙っていたところ、ヒョンビンがテーブルの下で手を重ねて「リリー、アーユーオーケー?」と気遣ってくれたという。
- ヒョンビンは撮影について「映画自体は重いストーリーですが、現場の雰囲気は全く重くなかった」「撮影が進むにつれて、映画の中の同志のように固い絆が生まれた」と語っている。
- ウ・ミンホ監督はジャパンプレミアで、リリー・フランキーが「本物の伊藤博文以上の表現をしてくれた」と感謝を述べた。
- 第46回青龍映画賞にはヒョンビンの妻ソン・イェジンも出席しており、韓国メディアでは「青龍夫婦」として取り上げられた。
- 東京新聞出身のジャーナリスト五味洋治は、本作をきっかけに韓国で安重根の遺墨(書)への関心が高まり、収集競争が過熱していると報告している。
