| 1971、ハイジャック事件 하이재킹 / Hijack 1971 | |
|---|---|
![]() ハイジャック犯ヨンデを演じたヨ・ジング(2024年5月、本作の製作報告会にて。出典:Wikimedia Commons、TV10撮影、CC BY 3.0) | |
| 監督 | キム・ソンハン |
| 脚本 | キム・ギョンチャン |
| 原作 | 1971年の大韓航空F27機ハイジャック未遂事件(実話) |
| 出演 |
ハ・ジョンウ ヨ・ジング ソン・ドンイル チェ・スビン キム・ドンウク ムン・ユガン |
| 撮影 | イ・ヒョンドク |
| 音楽 | キム・テソン |
| ジャンル | 実話ベースのサスペンス・アクション |
| 制作会社 | キダリスタジオ、パーフェクトストーム・フィルム、チャンネルプラス |
| 配給 |
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント コリア(韓国) ツイン(日本) |
| 劇場公開 |
2024年6月21日(韓国) 2024年7月5日(北米) 2026年11月13日(日本) |
| 配信 | Disney+(韓国) |
| 配信公開 | 2024年9月27日(韓国Disney+) |
| 上映時間 | 100分 |
| 興行収入 | 韓国観客動員 約177万人/全世界 約1,460万ドル |
| 言語 | 韓国語 |
| レイティング | 12歳以上観覧可(韓国) |
| リンク | https://1971hijack.com/ |
概要[編集]
1971、ハイジャック事件(原題:하이재킹)とは、1971年1月23日に起きた大韓航空F27機の北朝鮮行きハイジャック未遂事件を題材にした、キム・ソンハン監督、ハ・ジョンウ、ヨ・ジング主演の2024年の韓国映画である。
詳細[編集]
どんな映画?[編集]
韓国の実話をもとにした本作の舞台はほぼ全編、高度数千メートルを飛ぶ小さなプロペラ旅客機の中。1971年の冬、束草(ソクチョ)空港からソウル・金浦空港へ向かう国内線が、離陸してまもなく手製の爆弾を持った青年に乗っ取られ、「この飛行機は今から北へ行く」と脅される。南北の軍事境界線が刻一刻と迫るなか、副操縦士テイン(ハ・ジョンウ)と乗員たちが乗客を守るために必死の攻防を繰り広げる…というのが基本の筋立てである。上映時間は100分とコンパクトで、韓国メディアでは「無駄な笑いを抜いて実話の重みで押し切るタイプの作品」と紹介された。
タイトルについて[編集]
韓国での原題は『하이재킹(ハイジャキング)』。英語圏では『Hijack 1971』のタイトルで公開され、日本では2026年に『1971、ハイジャック事件』の邦題で劇場公開されることが決まった。邦題の「1971、」という読点入りの付け方は、同じ脚本家キム・ギョンチャンが書いた『1987、ある闘いの真実』の邦題を思い出させる並びになっている。
監督デビュー作[編集]
メガホンを取ったキム・ソンハンにとって、本作は長編監督デビュー作である。彼は映画界で約20年のキャリアを積んできた人物で、『1987、ある闘いの真実』(2017年)や『白頭山大噴火』(2019年)で助監督を務めた。どちらもハ・ジョンウの出演作で、2人の縁はここから始まっている。脚本のキム・ギョンチャンは『1987、ある闘いの真実』の脚本家で、のちにハルビン(2024年)の脚本にも名を連ねた。コロナ禍の時期にキム・ギョンチャンと会った際、この題材の話を聞き、「ここに面白いと思っている人がいるのに、自分に任せないのか」と名乗りを上げたのが始まりだったと監督はインタビューで語っている。
あらすじ[編集]
1971年の冬、束草空港。元空軍パイロットの副操縦士テインと機長ギュシクは、金浦行きの便に乗り込む。客室乗務員オクスンの案内で乗客たちが慌ただしく席に着き、機体は離陸する。
ところが、離陸してまもなく機内で手製の爆弾が炸裂し、機内は大混乱に陥る。乗客の一人である青年ヨンデは操縦室を制圧し、「今からこの飛行機は北へ行く」と機首を北に向けるよう脅迫する。爆発の衝撃でギュシクは片方の目の視力を失い、操縦はテインの肩にかかる。
韓国空軍の戦闘機がスクランブル発進し、地上も緊迫するなか、テインたちは乗客と乗員を無事に地上へ降ろすため、犯人との駆け引きと操縦の両方で極限の戦いに挑むことになる。
※日本公開前のため、結末の詳細はここでは伏せておく。
キャスト[編集]
主要キャスト[編集]
- テイン(副操縦士)…ハ・ジョンウ
- 元空軍パイロットの副操縦士。本作が初のパイロット役で、ハ・ジョンウは「基本に忠実になろうと努めた」と語っている。
- ヨンデ(ハイジャック犯)…ヨ・ジング
- 爆弾を持って機に乗り込み、北への飛行を要求する青年。子役時代から善良な好青年のイメージが強かったヨ・ジングにとって、デビュー以来初の本格的な悪役である。
- ギュシク(機長)…ソン・ドンイル
- テインとともに操縦室に座るベテラン機長。爆発で片目の視力を失いながらも操縦室にとどまる。
- オクスン(客室乗務員)…チェ・スビン
- 乗客を落ち着かせ、守ろうと奔走する客室乗務員。
その他のキャスト[編集]
- チェ・ドンチョル(F-5戦闘機パイロット)…キム・ドンウク
- チャンベ(機内の保安要員)…ムン・ユガン
- チャン・ヨンファン(飛行隊長)…キム・ジョンス
- ソ・ミンス…チェ・グァンイル
- イ・スヒ(英語教師)…チョン・イェジン
- イ・ハンボン(学生)…ムン・ウジン
キャスティング秘話[編集]
ハ・ジョンウは「キャスティング・ディレクター」[編集]
キム・ソンハン監督はインタビューで、ハ・ジョンウを冗談まじりに本作の「キャスティング・ディレクター」と呼んでいる。主演を引き受けただけでなく、ほかの主要キャストの起用にも深く関わったからだ。ハ・ジョンウ側の証言によれば、『白頭山大噴火』の現場でキム・ソンハンが「いずれ監督をやる」と打ち明けた際、「作品ができたら自分にもチャンスをくれ」と頼んでいたという。監督は助監督時代、編集室でハ・ジョンウの映像を見て「テイクごとに違うトーンなのに、どのテイクも前のシーンに自然につながる」ことに驚いたと語っている。
ヨ・ジングの悪役起用[編集]
ヨンデ役のヨ・ジングに脚本を勧めたのもハ・ジョンウだった。2人はニュージーランドで旅バラエティ番組を一緒に撮影しており、ヨ・ジングによればその撮影中にシナリオを渡され、その夜のうちに読み切ったという。ヨ・ジングはハ・ジョンウを「ロールモデル」と呼んでおり、狭い機内での格闘シーンでは「何度か本当にハ・ジョンウ先輩を叩いてしまった」と笑いながら振り返っている。
ヨ・ジングといえば、ドラマ『太陽を抱く月』の少年時代の王や『ホテルデルーナ』のホテル支配人ク・チャンソンなど、真っすぐで誠実な役の印象が強い。本作では「新しい表情と顔を見せたい」「『こんな演技もするんだ』と言われたい」と語り、犯人を美化しないことと感情に没入することのバランスを最大の課題に挙げた。役作りは特定の人物を参考にせず、監督との対話を重ねて複数のバージョンを作りながら固めていったという。
ソン・ドンイルとチェ・スビン[編集]
機長ギュシク役のソン・ドンイルは、ドラマ『応答せよ1988』のお父さん役などで日本の韓国ドラマファンにもおなじみの名脇役。ハ・ジョンウとは2009年の映画『国家代表!?』以来、約15年ぶりの共演として話題になった。客室乗務員オクスン役のチェ・スビンも、監督によればハ・ジョンウの推薦が起用のきっかけになったという。チェ・スビンは1970年代の乗務員らしさを出すため、客室乗務員の養成学校に通って訓練を受けたと明かしている。
制作[編集]
実物大の機体セット[編集]
物語の大半が機内で進むため、制作陣は旅客機の実物大セットを作り、ジンバル(揺動装置)に載せて撮影した。機体そのものを揺らすことで、爆発や急旋回の衝撃をリアルに表現している。俳優陣は製作発表会で、狭い機体セットでの撮影について「これまでの作品の何倍も大変だった」と口をそろえ、座りっぱなしの撮影が続いたことを冗談まじりに振り返っている。
本物のパイロットの監修[編集]
ハ・ジョンウは本作を「自分のキャリアで最もドラマチックで、体力的にもきつかった作品」と表現し、操縦の細かな所作はすべて現役パイロットの助言を受けて演じたと語っている。監督は「実際に起きたことを忠実に描きたかった」とし、観客には淡々と見てもらい、見終わったあとに胸に残るものを感じてほしいと話した。
「足し算」より「引き算」[編集]
監督はインタビューで、編集段階で「ここはもう少し見せない方がいいのでは」と助言を受け、感傷的な場面を削っていったことを明かしている。本人も最初は泣かせの演出に傾きかけたが、要素を取り除くほど感情が違う形で届くと気づいたという。韓国の批評でも、新派(お涙頂戴)に頼らず人物を誠実に描いた点が評価された。
元になった実話[編集]
大韓航空F27機ハイジャック未遂事件[編集]
本作のモデルは、1971年1月23日に実際に起きた大韓航空機のハイジャック未遂事件である。韓国語版ウィキペディアなどによれば、機体はフォッカーF27型(登録番号HL5212)で、束草空港を出発して金浦空港へ向かう国内線だった。乗客・乗員はおよそ60人。離陸後まもなく江原道の上空で、20代前半の男キム・サンテが手製の爆発物を手に機を乗っ取り、北朝鮮へ向かうよう要求した。
機長イ・ガンフンらは犯人の要求に従うふりをしつつ機体の向きを調整し、韓国空軍の戦闘機も緊急発進した。機内では保安要員が犯人を銃撃して制圧したが、その際に爆発物が炸裂。訓練中の操縦士チョン・ミョンセが重傷を負い、出血多量で亡くなった。犯人もこの事件で死亡している。機体は午後2時過ぎ、江原道高城郡の海岸に胴体着陸し、多数の負傷者を出しながらも乗客の大半は生還した。チョン・ミョンセには死後に勲章が贈られ、国立ソウル顕忠院に葬られている。
史実と脚色の違い[編集]
映画は事件の大枠(1971年1月23日、束草発金浦行き、爆発物による乗っ取り、北への飛行要求、空軍機の出動、海岸への不時着)を史実から借りている。一方で、登場人物の名前はすべて変えられており、テインやギュシク、ヨンデは実在人物そのものではなく、映画用に再構成されたキャラクターである。
特に大きな脚色は犯人ヨンデの人物像だ。実際の犯人の詳しい動機は明らかになっておらず、映画は分断とイデオロギーという視点からその背景を創作で補っている。映画の冒頭では1969年の大韓航空YS-11機の拉北事件にも触れられており、こちらも実際の事件で、北朝鮮に連れ去られた乗客乗員のうち11人はいまも帰還していない。監督は観客にこの未解決の事件についても考えてほしいと語っている。
また、劇中の機長が爆発で片目の視力を失う描写については、実際の機長も事件後に視力の低下を経験したとされる。ただし、機内での細かな会話や行動、結末に至るまでの展開の多くは映画的な演出であり、「事件をそのまま再現したドキュメンタリー」ではなく「実話をベースにしたフィクション」として見るのが正確である。
53年後の再会[編集]
映画の公開をきっかけに、事件当時の乗客と客室乗務員が53年ぶりに再会したことを韓国のYTNが報じている。当時20代だった乗務員チェ・ソクジャさんは、事件後に会社から褒賞として世界一周旅行をプレゼントされたというエピソードも紹介された。
公開と興行[編集]
韓国[編集]
韓国では2024年6月21日に公開され、12歳以上観覧可の等級で上映された。配給はソニー・ピクチャーズ エンタテインメント コリア。公開後まもなく観客動員100万人を突破したが、同時期にはピクサーの『インサイド・ヘッド2』が大ヒットしており、夏の韓国映画も相次いで公開されたことで観客が分散した。韓国メディアは損益分岐点を約300万人と報じており、最終的な動員は約177万人にとどまった。
海外[編集]
北米では2024年7月5日から約60館で限定公開された。台湾では公開時に現地ボックスオフィス1位を獲得したと報じられている。全世界の興行収入は約1,460万ドル。
配信[編集]
韓国では2024年9月27日からDisney+で独占配信が始まった。
日本[編集]
日本では株式会社ツインの配給で、2026年11月13日から新宿ピカデリーほか全国で公開予定。字幕翻訳は福留友子。8月にはポスタービジュアルと予告編が解禁され、オリジナルスマホ壁紙付きのムビチケ前売券(1,600円)が8月21日から販売された。日本版のキャッチコピーは「南北の軍事境界線を越えれば、59人の乗客・乗員は北朝鮮へ連れ去られ、命さえ保証されない」。
余談[編集]
- ハ・ジョンウとソン・ドンイルは、スキージャンプ映画『国家代表!?』(2009年)でも共演している。軽口の飛び交うスポーツ映画から15年、今度は笑い抜きの機内サスペンスで再び並ぶことになった。
- 脚本のキム・ギョンチャンは実在の事件・人物を題材にした作品が多く、『1987、ある闘いの真実』、本作、そして安重根を描いた『ハルビン』と、韓国現代史ものの重要作に関わっている。1979年の朴正煕暗殺事件を描いた『KCIA 南山の部長たち』とあわせて見ると、韓国映画の「実話もの」の流れがよく分かる。
- ハ・ジョンウは近年の出演作の興行が振るわなかったことを受け、本作では「基本に集中して初心を取り戻そうとした」とインタビューで語っている。ナ・ホンジン監督の『チェイサー』(2008年)などで知られる実力派の、原点回帰の一本というわけだ。
- 日本配給のツインは韓国映画を多く手がける配給会社で、公式X(@twin2_k_movie)では本作のほか、ヨン・サンホ監督・パク・ジョンミン主演の『顔 -かお-』などの情報も発信している。
- ヨ・ジングは製作報告会で「この悪役のようなキャラクターを美化しないよう、最善を尽くした」と語っており、本作の犯人像が「かっこいい悪役」ではなく、追い詰められた危うい青年として描かれている理由がうかがえる。
