日本の漫画専門店の棚(京都/Wikimedia Commons・CC BY 3.0)
概要[編集]
恋愛漫画とは、人物同士の恋愛関係の進展を主軸に据えた漫画のジャンルである。少女漫画の中心的な題材であると同時に、少年漫画・青年漫画・ウェブトゥーンにまたがって存在する。
一般に、ギャグやコメディの要素が強いものは「ラブコメ(ラブコメディ)」と呼ばれて区別されることが多い。ラブコメは少年漫画・青年漫画に多く、シリアスな恋愛ものは少女漫画・女性漫画に多いという傾向がある。また、男性同士の恋愛を描くボーイズラブ(BL)、女性同士の関係を描く「百合」も、恋愛漫画の一分野として独自の市場を持っている。
2010年代以降は、スマートフォンで読む縦読み漫画(ウェブトゥーン)の普及によって、ピッコマやLINEマンガなどの配信サービスでも恋愛ジャンルが最大級の読者を抱えるようになった。
詳細[編集]
ジャンルの構造[編集]
恋愛漫画は、結末の選択肢が最初から限られているという点で特異なジャンルである。二人が結ばれるか、結ばれないか。読者はそれを知ったうえで読み始める。したがって作り手が差をつけられるのは結末ではなく、そこへ至る過程の設計になる。
このため恋愛漫画では、障害の置き方が作品の設計そのものになる。身分差、家族、三角関係、記憶、職業上の立場、時代——障害が強いほど結末までの距離が伸び、連載を長く保てる。逆に障害を取り除きすぎると話が進まなくなる。「くっつきそうでくっつかない」状態が延々と続く連載が生まれるのは、作者の怠慢というより、ジャンルの構造がそう要求するからである。
掲載媒体による違い[編集]
少女漫画誌では、読者と同年代の主人公が学校を舞台に関係を進める形式が長く主流だった。一方少年漫画誌では、複数のヒロインが並立するラブコメ形式が定着している。『五等分の花嫁』のように、誰が選ばれるかを引っ張ること自体を作品の骨格にする例もある。
青年漫画誌では、職場や結婚後を舞台にした作品が置かれやすい。読者層の想定が変わると、恋愛の障害が「親に反対される」から「転勤」「収入」「離婚歴」へ移る。ジャンルは同じでも、障害の中身が読者の生活に合わせて入れ替わっている。
歴史[編集]
少女漫画と恋愛の結びつき(1970年代)[編集]
戦後の少女漫画は、当初は母娘ものや冒険ものなど幅広い題材を扱っていたが、1970年代に入ると恋愛が中心的な題材になっていく。萩尾望都・竹宮惠子らいわゆる「24年組」の作家たちは、登場人物の内面を細やかに描く表現を広げ、少女漫画を恋愛や心理を深く描けるジャンルへと押し上げた。
同じ時期には、池田理代子の『ベルサイユのばら』(1972〜1973年、『週刊マーガレット』連載)が社会現象的なヒットとなり、歴史ものと恋愛を組み合わせた大河ロマンの代表作になった。1970年代後半の『りぼん』では、日常の中の淡い恋を描く「乙女ちっく」と呼ばれる作風が人気を集めた。
少年誌・青年誌のラブコメ(1980年代)[編集]
少年誌で恋愛が大きく扱われるようになったのは1970年代末から1980年代にかけてである。高橋留美子の『うる星やつら』(1978〜1987年、週刊少年サンデー)や、あだち充の『タッチ』(1981〜1986年、同誌)がヒットし、『週刊少年サンデー』は「ラブコメ路線」の雑誌として知られるようになった。
青年誌では、同じく高橋留美子の『めぞん一刻』(1980〜1987年、ビッグコミックスピリッツ)が、アパートの管理人と浪人生の恋を長い時間をかけて描き、大人の読者向けの恋愛漫画の代表作となった。
多様化と実写化(1990年代〜2010年代)[編集]
1990年代以降、少女漫画では学園ものに加えてファンタジーや家族ドラマと恋愛を組み合わせた作品が増えた。『フルーツバスケット』(1998〜2006年、花とゆめ)や、なかよし連載の『カードキャプターさくら』などは、恋愛を物語の大きな柱にしながら幅広い読者を獲得した。
2010年代には、少女漫画を原作とする実写映画が相次いで公開され、その一群は「キラキラ映画」と呼ばれた。少年誌では『週刊少年ジャンプ』『週刊少年マガジン』でもラブコメが看板級の人気を得るようになり、『五等分の花嫁』(2017〜2020年、週刊少年マガジン)はアニメ化・映画化まで展開した。
ウェブトゥーンと恋愛ジャンル[編集]
ピッコマやLINEマンガといった配信サービスでは、恋愛ジャンルが最大級の読者を抱えている。とくに異世界転生と恋愛を組み合わせた、いわゆる悪役令嬢もの(ロマンスファンタジー)は、日本語配信の作品数が非常に多い。
このジャンルがウェブ配信と相性がよい理由は形式にある。縦スクロールの1話は数分で読み終わり、1話の終わりに必ず引きを置く作りになっている。関係が一段進むか、誤解が一つ生まれるかを1話に収めれば、読者は翌日また開く。待てば無料の課金設計と、関係が少しずつ進む恋愛の物語構造は、非常によく噛み合っている。
韓国発の恋愛ウェブトゥーンは、韓国ドラマの原作としても多く使われている。『チーズ・イン・ザ・トラップ』『女神降臨』『社内お見合い』『キム秘書はいったい、なぜ?』などはいずれも原作がウェブ連載(ウェブトゥーンまたはウェブ小説のウェブトゥーン化)で、ドラマ化を通じて日本でも知られるようになった。
主なサブジャンル[編集]
| サブジャンル | 主な掲載先 | 特徴 |
|---|---|---|
| 学園恋愛 | 少女漫画誌・少年漫画誌 | 学校生活を舞台に、片思い・告白・すれ違いを描く。最も伝統的な型 |
| ラブコメ | 少年誌・青年誌 | ギャグ要素の強い恋愛もの。複数ヒロインが並ぶ形式も多い |
| オフィス・大人の恋愛 | 青年誌・女性誌・電子コミック | 職場、結婚、離婚など大人の生活上の障害が中心 |
| ロマンスファンタジー | ウェブトゥーン配信サービス | 異世界転生・悪役令嬢・契約結婚など。韓国発の作品が多い |
| ボーイズラブ | BL専門誌・電子書店 | 男性同士の恋愛を描く。源流は「やおい」と呼ばれた同人文化にもある |
| 百合 | 専門誌・一般誌 | 女性同士の関係を描く |
主な出版社と配信サービス[編集]
紙の雑誌では、集英社(『りぼん』『マーガレット』など)、講談社(『なかよし』『別冊フレンド』など)、小学館(『ちゃお』『Sho-Comi』など)、白泉社(『花とゆめ』『LaLa』など)が少女漫画誌を発行してきた。青年誌では『ヤングマガジン』『ヤングジャンプ』などにもラブコメが多く載る。
電子では、ピッコマ・LINEマンガ・めちゃコミック・コミックシーモア・カカオページなどが恋愛ジャンルの主要な読み場になっている。宇宙wikiでは、配信サービスごとの作品をピッコマ恋愛作品一覧・LINEマンガ恋愛漫画一覧にまとめている。
余談[編集]
- 恋愛漫画の連載が長期化すると、作中の時間がほとんど進まないまま単行本だけが積み上がる現象が起きる。学校が舞台の作品で何十巻も同じ学年が続くのは、卒業させると関係の前提が壊れるためである。
- 一方で、結末を先に見せてから過程を描く作品も増えている。結ばれることが分かっていても読まれるのは、読者が求めているのが結末ではなく過程だからだ、という説明としてしばしば引かれる。
- 電子書籍の普及以降、恋愛ジャンルは売上比率の高い分野になった。人前で表紙を見せずに読めることが購入の障壁を下げたという指摘があるが、各社が公式に分析を示しているわけではない。
- 『めぞん一刻』は連載期間がおよそ7年におよび、作中でも年月が実際に流れていく。時間が止まりがちな恋愛漫画の中では珍しい作りとして語られることがある。
- 「キラキラ映画」という呼び方は、少女漫画原作の青春恋愛映画が同じ時期に大量に公開されたことから生まれた通称で、褒め言葉としても皮肉としても使われる。