めぞん一刻

概要[編集]

『めぞん一刻』(めぞんいっこく)は、高橋留美子による日本の漫画作品。『ビッグコミックスピリッツ』で1980年から1987年まで連載され、単行本は全15巻。累計発行部数は2500万部を超える、高橋留美子の青年向け代表作である。

古びたアパート「一刻館」を舞台に、浪人生・五代裕作と、若くして未亡人となった管理人・音無響子の、もどかしくも温かい恋を描いたラブストーリー。高橋留美子作品の中では珍しく、SF的・格闘的な要素を排した「普通の人々の恋愛」を真正面から描いた作品として知られる。

すれ違いと勘違いを繰り返しながら、少しずつ距離を縮めていく二人の関係は、読者をやきもきさせながらも深い感動を呼ぶ。「日本恋愛漫画の最高峰のひとつ」と評され、連載終了から数十年経った今も色褪せない名作である。

あらすじ[編集]

おんぼろアパート「一刻館」に住む浪人生・五代裕作は、騒がしい住人たちに悩まされ、引っ越しを決意する。しかしそこへ新しい管理人・音無響子が赴任してくる。一目で響子に惹かれた五代は、引っ越しをやめてアパートに残ることに。

響子は実は、結婚してわずかな期間で夫・惣一郎を病で亡くした若き未亡人だった。亡き夫への想いを引きずる響子と、彼女に恋する五代。さらに五代には大学のテニスコーチ・七尾こずえとの関係も絡み、響子には歯科医・三鷹瞬という強力なライバルも現れる。長い時間をかけて、五代が一人前の大人へと成長し、響子が過去を乗り越えて新たな一歩を踏み出すまでが、丁寧に描かれていく。

主な登場人物[編集]

五代裕作は本作の主人公。物語開始時は二浪目の浪人生。優柔不断で流されやすい性格だが、根は誠実で一途。響子への想いを胸に、浪人から大学生、そして社会人へと成長していく。

音無響子は一刻館の管理人でヒロイン。若くして夫を亡くした未亡人で、亡夫への想いと五代への気持ちの間で揺れ動く。芯が強く優しいが、嫉妬深い一面も。愛犬の名前が亡夫と同じ「惣一郎」というのが切ない。

三鷹瞬は響子に求婚する歯科医。爽やかで金持ちのエリートという五代の強敵。このほか一刻館の住人である酒好きの四谷さん、未亡人の六本木朱美、噂好きの一の瀬さんなど、お節介な面々が二人の恋に絶妙に絡んでくる。

「すれ違い」のドラマ[編集]

本作の最大の魅力は、五代と響子の徹底した「すれ違い」にある。お互いに惹かれ合っているのに、勘違いやタイミングの悪さ、第三者の介入によって、なかなか想いが通じ合わない。読者は「早くくっついてくれ」と何度ももどかしい思いをさせられる。しかしこのすれ違いは引き延ばしのためではなく、五代の未熟さや響子が亡夫への想いを断ち切れない心情など、きちんとした理由に裏打ちされている。

亡夫・惣一郎の存在[編集]

本作を語るうえで欠かせないのが、響子の亡き夫・惣一郎の存在である。彼は物語にほとんど姿を見せないが、響子の心の中に常に在り続け、五代にとっては「乗り越えなければならない壁」となる。響子が飼う犬の名が「惣一郎」であることも、彼女が過去を引きずっていることの象徴として機能している。

一刻館の住人たち[編集]

本作の舞台「一刻館」に暮らす住人たちは、五代と響子の恋に欠かせないスパイスである。一号室の一の瀬花枝は噂好きで宴会好きの主婦。事あるごとに五代の部屋に押しかけては酒盛りを始める。四号室の四谷さんは、壁に穴を開けて隣の五代の部屋を覗く謎多き住人。六号室の六本木朱美は色っぽいバーの女性で、五代をからかいつつも要所では応援する姉御肌。これらの住人たちのお節介と騒がしさが、静かになりがちな恋愛ドラマに賑やかさと笑いをもたらしている。

作品の評価と影響[編集]

『めぞん一刻』は、青年漫画における恋愛ものの完成形のひとつとして、極めて高い評価を受けている。SFやファンタジー、格闘といった派手な装置に頼らず、ごく普通の男女の心の動きだけで長期連載を成立させた手腕は、高橋留美子の実力を改めて世に示した。特に、登場人物それぞれが時間とともに成長・変化していくリアルな描写は、後の恋愛漫画に大きな影響を与えた。

炎上とバズ[編集]

連載当時から「いつ二人がくっつくのか」が読者最大の関心事で、なかなか進展しない関係に「じれったい」という声が多く寄せられたという。しかしその「焦らし」こそが本作の醍醐味だった。響子の愛犬「惣一郎」の名前の由来が亡夫と同じであることは、ファンの間で「切なすぎる設定」として今も語り草になっている。最終回の五代と響子のやり取りは「恋愛漫画史上最高のラスト」のひとつとして語られる名場面である。

余談[編集]

タイトルの「一刻」は、アパート名「一刻館」に由来する。

高橋留美子は本作を『うる星やつら』と並行して連載しており、その仕事量は驚異的だった。

少年漫画的な要素を排した本作は、高橋留美子の作風の幅広さを示す代表例とされる。

五代の就職活動の描写は、当時の社会世相を反映したリアルなものとして評価されている。

連載終了時には多くのファンが「ロス」に陥ったといわれ、その完成度の高さを物語っている。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]