概要[編集]
汝、現代ダンジョンに希望を持つべからず(なんじ、げんだいダンジョンにきぼうをもつべからず)とは、鋼我による日本のライトノベル、およびそれを原作とするコミカライズ作品である。現代日本に突如ダンジョンが出現した世界を舞台に、ブラック企業を辞めた青年が「自宅の庭に湧いてしまったダンジョン」の管理業務に追われる姿を描く、現代ダンジョンものの中でも異色の「ダンジョン管理×社畜脱出」系ダークコメディである。
詳細[編集]
原作は鋼我、イラストおよびキャラクター原案はみやま零が担当し、KADOKAWAのMF文庫Jレーベルから書籍が刊行されている。コミカライズはうえじんの作画により、スクウェア・エニックスの無料web漫画サイト「ガンガンONLINE」およびマンガアプリ「マンガUP!」で連載され、ピッコマをはじめとする電子書籍ストアでも配信されている。コミカライズのネーム構成は第1・2話をウタクニ、第3話以降を桜井竜矢が担当するという分業体制がとられているのも特徴である。
タイトルの「汝、〜べからず」という格言めいた言い回しは、ダンテ・アリギエーリの叙事詩『神曲』地獄篇において地獄の門に掲げられた「ここを過ぐる者は一切の希望を捨てよ」という一節を下敷きにしたものと受け取られている。すなわち「現代ダンジョンに一攫千金の夢を見るな=待っているのは地獄のように理不尽な管理業務だ」という、本作のシニカルなテーマを一言で示すタイトルになっている。近年量産される「ダンジョンに潜って一攫千金」型の現代ダンジョンものへのアンチテーゼ的な視点が、ジャンルの飽和に食傷した読者の関心を集める一因となっている。
あらすじ[編集]
現代ダンジョンが社会に一般化した日本。社会人3年目の青年・入川春夫(いりかわ はるお)は、心身をすり減らすブラック企業に勤める冴えない会社員だった。ある日、彼は大学時代の後輩から「破格の値段」で一軒家を購入する。しかし、その安さには理由があった。購入した家の敷地内には、いつの間にかダンジョンが発生していたのである。
現代ダンジョン社会の法制度では、私有地に発生したダンジョンは、その土地の所有者が管理責任を負うと定められていた。こうして春夫は、望まぬまま「ダンジョンの管理者」という立場を背負い込むことになる。ようやくブラック企業を辞めた春夫を待っていたのは、しかし優雅なスローライフでも一攫千金の冒険でもなく、会社勤め以上に理不尽で過酷な「ダンジョン管理」という名の新たなブラック労働だった――というのが物語の骨子である。
現代ダンジョンものにおける位置づけ[編集]
本作が属する「現代ダンジョン」ジャンルは、現代の日本や地球に突如ダンジョンが出現し、一般人が探索者(ハンター)としてモンスターと戦ったり資源を得たりする設定を共有する作品群を指す。宇宙wikiにも冒険家になろう!〜スキルボードでダンジョン攻略〜、ダンジョン・バスターズ ~中年男ですが庭にダンジョンが出現したので世界を救います~、ダンジョンのお掃除屋さん、俺だけレベルMAXなビギナー、壊れスキルで始める現代ダンジョン攻略、ダンジョンリセット、最強アーティファクトでダンジョン無双!など、多数の現代ダンジョン作品の記事が存在する。
韓国発の俺だけレベルアップな件がブームの火付け役となったこのジャンルは、日本国内でも「会社を辞めてダンジョンで稼ぐ」系の高卒、無職、ボッチの俺が、現代ダンジョンで億を稼げたワケや、極限のサバイバルを描く地上100階~脱出確率0.0001%~など多彩な派生を生んでいる。これらの多くが「弱かった主人公がチートスキルで無双する」爽快感を主軸に据えるのに対し、本作は「ダンジョンを与えられてしまった側の苦労」に焦点を当てている点で一線を画す。庭先にダンジョンが出現するという発想はダンジョン・バスターズ ~中年男ですが庭にダンジョンが出現したので世界を救います~とも通じるが、そちらが世界の危機に立ち向かう英雄譚であるのに対し、本作はあくまで一個人が管理義務と格闘する「労働小説」的な色合いが濃い。同じく配信・日常運営の視点を持ち込んだ元探索者のおじいちゃん~孫にせがまれてダンジョン配信を始めたんじゃが、なぜかバズりおったわい~や、日常業務系の生活魔術師達、ダンジョンに挑むとも比較される作品である。
「ダンジョン管理」というモチーフ[編集]
本作最大の独自性は、「攻略」ではなく「管理」を主題に据えた点にある。主人公は強大な力で敵をなぎ倒す存在ではなく、法律によって管理責任を負わされた一介の元会社員に過ぎない。ダンジョンから湧き出るモンスターへの対処、行政への届け出、探索者や近隣住民との調整といった、地味で煩雑な「事務仕事」の連続が物語を駆動する。
この構図は、ブラック企業からブラックな管理業務へと移っただけで、結局は理不尽な労働から逃れられないという現代社会の閉塞感を戯画化したものと読める。読者からは「タイトル通り希望がないが妙にクセになる」「社畜あるあるがダンジョンに置き換えられていて笑える」といった感想が寄せられており、爽快系が飽和した現代ダンジョンジャンルにおける「ひねり」の効いた作品として支持を集めている。爽快な成り上がりを描くレア度★1の英雄として生き残る方法や異世界帰りの勇者は、ダンジョンが出現した現実世界で、インフルエンサーになって金を稼ぎます!とは対極的な読み味を持つ。
書誌情報・メディア展開[編集]
原作小説はKADOKAWAのMF文庫Jより刊行され、みやま零のイラストが付されている。コミカライズ版はうえじんの作画で「ガンガンONLINE」「マンガUP!」にて連載中で、単行本も刊行されている。web漫画として基本無料で読める体制が敷かれており、ピッコマなど複数の電子書籍プラットフォームでも配信されているため、スマートフォンからのアクセス性が高い。作画のうえじんは丁寧な描線と表情豊かなコマ運びで、原作の皮肉なユーモアを漫画的な間へと落とし込んでいる。
余談[編集]
- タイトルの元ネタとされる「一切の希望を捨てよ」は、ダンテ『神曲』地獄篇第三歌に登場する地獄の門の銘文として広く知られる一節である。
- 「庭にダンジョンが出現する」というシチュエーションは現代ダンジョンものの定番モチーフの一つで、宇宙wiki掲載作ではダンジョン・バスターズ ~中年男ですが庭にダンジョンが出現したので世界を救います~などにも見られる。
- コミカライズのネームを話数によって別の担当者が構成するという体制は、web漫画としては比較的珍しい分業の形である。