ボーイズラブ

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(JUNE (雑誌)から転送)

概要[編集]

ボーイズラブ(BL)とは、男性同士の恋愛関係を主題として、主に女性の作り手と読者によって支えられてきた漫画・小説・音声作品・ドラマなどのジャンルを指す和製英語である。1990年代初めに商業誌の宣伝文句として登場し、それまでの「やおい」「JUNE」「耽美」といった呼び名を束ねる総称として定着した。

詳細[編集]

BL作品を扱う店舗が集まり「乙女ロード」と呼ばれる池袋の通り(2005年撮影・Wikimedia Commons・パブリックドメイン)

呼称の変遷[編集]

「ボーイズラブ」という呼び名は比較的新しく、1990年代に漫画情報誌が使い始めたものが定着したとされる。それ以前は「やおい」「JUNE」「耽美」といった語が並立していた。

このうち「JUNE」は同名の雑誌(JUNE (雑誌))に由来する語で、もともとは商業媒体に載る一次創作を指した。「やおい」は二次創作の文脈で使われ、1980年代後半に同人誌の周辺で定着した語である。1988年には「カセットJUNE」が登場し、このジャンル初の音声メディアとされる。1990年代以降、これらを束ねる総称として「ボーイズラブ」が使われるようになった。

語の初出としては、1991年12月10日に白夜書房が創刊した雑誌「イマージュ」が表紙に「BOY'S LOVE COMIC」と掲げたのが早い例とされる。命名者については、同誌の編集に関わった荒木立子とする説や、青磁ビブロスの編集者が「for girls love」という言葉から思いついたとする説などがあり、定まっていない。1994年に漫画情報誌「ぱふ」が特集を組んだことで、読者の間にも呼び名が広まったとされる。

つまりBLという語は、性質の異なる複数の流れを後から一つの棚にまとめた名前であり、内部には一次創作と二次創作、商業と同人という別の軸が最初から同居している。ジャンル論が常に整理しにくいのはこの成り立ちによる。

源流と広がり[編集]

1970年代の少女漫画における、いわゆる「花の24年組」の作品群が源流として語られることが多い。代表例として、竹宮惠子の『風と木の詩』(1976〜1984年連載)や萩尾望都の寄宿学校ものが挙げられ、両者が若手時代を過ごした「大泉サロン」の時代から、少年同士の関係を描く表現が少女漫画の中で試みられていた。

以後、専門誌・専門レーベル・同人誌・コミックマーケット・pixivといった場を通じて拡大し、現在は電子書籍と漫画アプリが主要な流通経路になっている。ウェブトゥーンの分野でも、韓国・中国・タイなどで制作された作品が日本語で配信されており、実写ドラマ化も国際的に行われている。

商業的には、一般向けの雑誌に男性同士の関係を主題とする作品が載る例も増えた。ジャンルの専門棚の外でも成立する作品が出てきたことは、読者層が専門読者に限られなくなったことを示している。

年表[編集]

年 出来事
1976年 竹宮惠子『風と木の詩』連載開始(〜1984年)
1978年 「COMIC JUN」創刊(のちの「JUNE」)
1988年 「カセットJUNE」登場。ジャンル初の音声メディアとされる
1991年 白夜書房「イマージュ」創刊。「BOY'S LOVE COMIC」を掲げる
1992年 青磁ビブロスが「BE×BOY COMICS」、角川書店が「ルビー文庫」を創刊。OVA『間の楔』(日本初のBLアニメ化とされる)
1993年 「マガジンBE×BOY」創刊
1994年 漫画情報誌「ぱふ」がBL特集。呼び名が読者に浸透
2001年 アメリカで「Yaoi-Con」開催
2004年 池袋の通りを指す「乙女ロード」という名称が使われ始める
2006年 ビブロスの事業停止を受けてリブレ出版が発足
2007年 雑誌「ユリイカ」がBL特集
2008年 堺市立図書館のBL本をめぐる問題
2014年 雑誌「美術手帖」がBL特集
2018年 テレビドラマ『おっさんずラブ』が話題に
2019年 テレビドラマ『きのう何食べた?』放送
2020年 タイのBLドラマ『2gether』が日本でブームに。ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』放送
2021年 中国当局がBL作品を「不良文化」として排除する方針を示す
2022年 ロシアで関連作品の流通が禁止される

商業出版と市場[編集]

1990年代前半には専門誌や新書・文庫レーベルの創刊が相次ぎ、小説とコミックスを合わせたレーベル数は約100に達したとされる。2008年時点のノベルズ市場ではBL小説が約2割を占めたとされ、出版不況の中でも一定の規模を保つジャンルとして注目された。

市場規模については、オタク市場としての推計で約215億円(2012年)、関連分野を含めて約350億円(2013年)といった数字が出されている。2010年代後半からは電子書籍での販売比率が高く、コミックシーモア・めちゃコミック・LINEマンガなどの電子書店・漫画アプリがBL専用の棚や独占配信作品を設けている。

実店舗では、池袋の乙女ロード周辺にアニメイトやとらのあな、らしんばんなど女性向け作品を扱う店舗が集まり、BL作品の販売拠点として知られてきた。

映像化[編集]

アニメでは1992年のOVA『間の楔』が日本初のBLアニメ化とされ、その後『グラビテーション』(2000年頃)、『純情ロマンチカ』(2008年)、劇場アニメ『同級生』(2016年)などが続いた。

実写では、2018年の『おっさんずラブ』、2019年の『きのう何食べた?』、2020年の『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』など、地上波ドラマが相次いで話題になった。これらは原作の有無や作り手の属性が従来のBLと異なる作品も含み、「BLドラマ」という呼び名が一般化するきっかけになった。

海外のBL[編集]

タイでは「Yシリーズ」と呼ばれるBLドラマが盛んに制作されている。2016年の『SOTUS』が日本でもファンを得たのに続き、2020年2月にタイで放送された『2gether』は、外出自粛期間と重なってSNSで世界的な話題となり、関連ハッシュタグが13週連続で世界トレンド入りしたと報じられた。日本では2020年10月からWOWOWが放送し、タイBLドラマの専門誌が創刊されるなどブームになった。

中国ではBL小説・ドラマが大きな市場を持つ一方、2021年に当局がBL作品を「不良文化」とみなして排除する方針を示した。韓国ではウェブトゥーンのBL作品が数多く制作され、日本語版が漫画アプリで配信されている。

英語圏では「Yaoi」の語が広く使われ、「Boys' Love」「BL」も併用される。男性同士のファンフィクションは英語圏では「スラッシュ・フィクション」と呼ばれ、日本のやおいとは別系統で発展した。

議論のある論点[編集]

BLをめぐっては複数の論点が併存しており、いずれも決着していない。

  • 表現をめぐる論点:2008年、堺市立図書館に対して匿名の市民と市議がBL本の排除を求め、図書館は約5,500冊を開架から外して閉架に移し、今後は収集しないと決めた。除外基準に一貫性がなく、性描写のない作品まで含まれていたことが指摘され、研究者や市民からの申し入れや住民監査請求が行われた。図書館はその後18歳未満への貸出制限を撤回した。表現の自由と収集方針の双方から主張が出され、今もジャンルを語る際に参照される事例である。
  • 規制をめぐる論点:東京都の「不健全図書」指定ではBL作品の占める割合が高いとされ、漫画家の森川ジョージは指定によって収入を断たれたBL作家が多数いると発言している。
  • 当事者性をめぐる論点:実在の同性愛者の生活と、ジャンルとしての描写が一致しないという指摘がある一方、フィクションのジャンルに現実の再現を求めること自体が妥当かという反論もある。
  • 学術的な位置づけ:『BLの教科書』の刊行や日本マンガ学会でのシンポジウム、2015年の『古典BL小説集』刊行など、研究対象として扱う動きが進んでいる。研究が進むにつれ、初期の単純な図式(作り手も読み手も女性である、など)は実態に合わないことも示されてきた。

読者と文化[編集]

BLの読者は「腐女子」と自称・他称されることがあり、男性読者は「腐男子」と呼ばれる。二次創作の分野では、テニスの王子様、銀魂、ハイキュー!!、おそ松さん、呪術廻戦など少年漫画やアニメの人気作が同人誌即売会で大きな勢力を持ってきた。コミックマーケットでは女性向けジャンルが参加サークルの大きな割合を占め、pixivやニコニコ動画などのネット上の場も二次創作の受け皿になっている。

音声分野ではカセットJUNE以来の系譜を引くドラマCDが1990年代から2000年代にかけて多数制作され、人気声優の出演作も多い。近年は配信型の音声作品やASMRにも広がっている。

余談[編集]

  • 「ボーイズラブ」は和製英語であり、英語圏では日本語をそのまま借用した語が使われることが多い。ジャンル名が輸出された事例のひとつである。
  • 「カセットJUNE」が1988年に登場したことは、このジャンルが音声メディアに早くから手を伸ばしていたことを示す。現在のドラマCDや音声作品の系譜はここにさかのぼる。
  • ジャンルの拡大に伴い、専門誌が紙から電子書籍へ移った速度は他ジャンルより速かったと言われる。書店で手に取る際の心理的な負担が電子なら生じないという事情が挙げられることが多いが、各社の公式な分析として示されているわけではない。
  • 英語圏では「Boys' Love」という語が年少者を連想させるとして避けられることがあり、同じ作品群でも国によって好まれる呼び名が違う。
  • 「乙女ロード」という呼び名が使われ始めたのは2004年とされ、通りの名前としては比較的新しい。
  • BLの専門誌・レーベルの草分けだったビブロスは2006年に事業を停止し、その事業を引き継ぐ形でリブレ出版が発足した。

外部リンク[編集]

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