| モノノ怪 Mononoke | |
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![]() 「鵺」編のモチーフとなった妖怪・鵺。鳥山石燕『今昔画図続百鬼』より(出典:Wikimedia Commons/パブリックドメイン) | |
![]() 「海坊主」編のモチーフとなった海坊主。北尾政美画(出典:Wikimedia Commons/パブリックドメイン) | |
| ジャンル | 時代劇・怪異譚・ホラー・ミステリー |
| 監督 | 中村健治 |
| キャラクターデザイン | 橋本敬史(総作画監督兼任) |
| 美術監督 | 倉橋隆、保坂有美 |
| 音楽 | 高梨康治 |
| 制作 | 東映アニメーション |
| 別名 | 薬売り |
| メディアミックス | 劇場版三部作、漫画、小説、舞台 |
| 放送期間 | 2007年7月 - 2007年9月 |
| 放送局 | フジテレビほか(ノイタミナ枠) |
| 配信PF | DMM TV、U-NEXT、Hulu、FOD、ABEMAほか |
| 話数 | 全12話(5エピソード) |
概要[編集]
モノノ怪(モノノけ)とは、2007年7月から9月までフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で放送された、東映アニメーション制作のホラー時代劇アニメである。全12話。謎の「薬売り」が、人の情念から生まれた怪異「モノノ怪」の「形・真・理」を暴いて斬る、オムニバス形式の怪異譚。
詳細[編集]
『怪 〜ayakashi〜』の一編から独立[編集]
『モノノ怪』のルーツは、2006年にノイタミナ枠で放送されたオムニバスアニメ『怪 〜ayakashi〜』にある。同作は「四谷怪談」(第1〜4話)、「天守物語」(第5〜8話)、「化猫」(第9〜11話)の3編で構成されていて、その最後の「化猫」で初登場したのが、退魔の剣を携えた謎の男・薬売りだった。
「化猫」編の演出を担当したのが中村健治。和紙のような質感、極彩色の画面、歌舞伎めいた見得を切るキャラクターという強烈なビジュアルが評判を呼び、翌2007年に薬売りを主人公とした独立シリーズとして『モノノ怪』が制作された。中村にとってはこれが初監督作品で、スタッフも「化猫」編からほぼ続投している。
ノイタミナ第8作として放送[編集]
本作はノイタミナ枠の第8作目として2007年7月に放送がスタートし、9月まで全12話が放送された。物語は「座敷童子」(2話)、「海坊主」(3話)、「のっぺらぼう」(2話)、「鵺」(2話)、「化猫」(3話)の5エピソードからなるオムニバス形式。それぞれ独立した話なので、どのエピソードから見てもほぼ問題ないのがありがたいところ。
脚本はヨコテミチコ、小中千昭、高橋郁子、石川学らが分担し、キャラクターデザイン・総作画監督は橋本敬史、音楽は高梨康治が担当した。オープニングテーマは小松亮太×チャーリー・コーセイの「下弦の月」、エンディングテーマはJUJUの「ナツノハナ」。バンドネオン奏者の小松亮太と、ルパン三世の歌声でおなじみのチャーリー・コーセイが組んだ、和洋折衷のクセが強いOPだ。
放送後もじわじわ伸びたカルト人気[編集]
放送当時の深夜アニメとしては異色すぎる画面づくりだったが、謎解きミステリーとしての面白さと、人の業を描く脚本の重さ、そして和風をベースにした美術・デザインが高く評価され、放送終了後も長く語り継がれる作品になった。
2020年には、ノイタミナ枠設置15周年を記念した投票企画で、2005〜2009年度の作品の中から第1位に選ばれている。2022年6月18日にはフジテレビ本社で「モノノ怪 十五周年記念祭」が開かれ、その場で劇場版の制作が発表された。TVシリーズの放送から15年を経ての、まさかの続編始動だった。
薬売りと「形・真・理」[編集]
薬売りという男[編集]
主人公の薬売りは、本名も素性も一切不明の青年。透けるような白い肌に淡い金色の長髪、青い目、長く尖った耳を持ち、隈取のような化粧をしている。着物の柄は蛾がモチーフ。表向きは諸国を巡って薬を商う行商人だが、その本当の目的は、人に災いをなすモノノ怪を斬ることにある。
アヤカシやモノノ怪について異様に詳しく、結界の要になる御札や、モノノ怪との霊的な距離を測る天秤など、不思議な道具を薬箱から次々と取り出す。普段は飄々として口数も少なく、ゲストキャラクターの人間たちが右往左往する中で、ひとりだけ冷めた目で事態を見つめているのがお約束だ。TVシリーズで薬売りの声を担当したのは櫻井孝宏で、退魔の剣の声は竹本英史が担当している。
「形・真・理」がそろわないと剣は抜けない[編集]
本作最大の特徴が、モノノ怪を斬るためのルールである。薬売りの退魔の剣は、モノノ怪の「形(かたち)」「真(まこと)」「理(ことわり)」の3つが明らかにならない限り、鞘から抜けない。
- 形…そのモノノ怪が何者なのか(座敷童子なのか、化猫なのか)
- 真…そこで実際に何が起きたのか(事の有様)
- 理…なぜそうなったのか、関係者の心の有様
つまり薬売りは、怪異に襲われながらも、関係者たちから話を聞き出し、隠された過去や嘘を暴いていかなければならない。この構造のおかげで、各エピソードはホラーであると同時に、関係者の「本当の気持ち」を突き止める推理ドラマにもなっている。そして形・真・理がそろって剣が抜かれると、薬売りは褐色の肌に灰白色の長髪、黒い白目に紅い瞳、全身に金の紋様をまとった姿に変身し、モノノ怪を一刀のもとに斬り捨てる。この変身シーンこそ、毎エピソードのクライマックスだ。
アヤカシとモノノ怪の違い[編集]
作中では「海坊主」編の第4話で、アヤカシとモノノ怪の違いが説明されている。アヤカシはこの世の道理とは別の世界に存在するものの総称で、人の霊からなるもの、古い道具に魂が宿った付喪神のようなものなど、成り立ちはさまざま。一方のモノノ怪は、恨みや憎しみといった人間の激しい情念がアヤカシと結びついて生まれるもので、「モノ」は荒ぶる神、「ケ」は病を指すとされる。だからこそモノノ怪には必ず「真」と「理」があり、退魔の剣でしか斬れない。逆に、退魔の剣ではアヤカシは斬れないという設定もちゃんと守られている。
エピソード紹介[編集]
座敷童子(第1〜2話)[編集]
雨の夜、絢爛な旅籠「万屋」に、身重の娘・志乃(声:田中理恵)がやってくる。満室だったが、老女将の久代は、わけあって使っていない最上階の部屋に彼女を通す。奉公先の若旦那の子を身ごもって追い出されたという志乃の前に、いつの間にか謎の子どもたちが現れ、さらに志乃を狙う殺し屋の直助が怪死する。そこに現れた薬売りは、怪異の正体を「座敷童子」だと見抜く。旅籠に隠された過去と「生まれてこられなかった子どもたち」をめぐる、シリーズ屈指の切ない一編。
海坊主(第3〜5話)[編集]
廻船問屋の三國屋多門が仕立てた江戸行きの廻船「そらりす丸」。乗り合わせたのは薬売り、『怪 〜ayakashi〜』の「化猫」編で薬売りと出会った加世、高僧の源慧とその弟子・菖源、自信過剰な修験者の柳幻殃斉(声:関智一)、不気味な侍・佐々木兵衛ら。羅針盤が狂った船は、アヤカシの海と恐れられる「竜の三角」に迷い込み、船幽霊や海座頭に襲われる。やがて源慧は、かつて実の妹・お庸が人身御供として虚舟に乗せられた過去を語り始める。3話構成で、スケール感はシリーズ随一。
のっぺらぼう(第6〜7話)[編集]
夫とその家族を皆殺しにした罪で死罪を言い渡された武家の嫁・お蝶。牢の中に、なぜか同じく囚われの身となった薬売りが現れる。そこへ狐の面をつけた謎の「仮面の男」(声:緑川光)が現れ、お蝶に祝言を申し込む。母の期待に応えようと心を押し殺して生きてきたお蝶の人生を、薬売りが追体験させていく構成で、能や屏風絵、表現主義を思わせる画面が印象的。2話完結のコンパクトな構成ながら、お蝶の心の内側へ潜っていく密度の濃い一編。
鵺(第8〜9話)[編集]
寂れた香道の家元・笛小路家の屋敷に、瑠璃姫(声:山崎和佳奈)の婿候補として公家の大澤、廻船問屋の半井、東侍の室町が集まる。姿を見せないもう一人の候補・実尊寺の代わりに、薬売りが香道の「源氏香」の勝負に加わることに。ところが勝負のさなかに実尊寺の惨殺死体が、さらに瑠璃姫の遺体までが見つかる。男たちが本当に狙っていたのは、持つ者は天下を取るとされる香木「東大寺」こと蘭奢待だった。モノクロを意識した抑えた色調と水墨画風の美術で描かれる、異色の密室ミステリー。
化猫(第10〜12話)[編集]
最終エピソードの舞台は、なんと江戸時代ではなく大正末から昭和初期を思わせる都会。地下鉄の開通式典の日、市長や刑事、運転士、新聞記者、カフェーの女給、未亡人、牛乳配達の少年が先頭車両に閉じ込められる。乗客たちは、数か月前に起きた女性新聞記者・市川節子の飛び降り自殺に、それぞれ何らかの形で関わっていた。小林かいちや竹久夢二の大正モダン、ゲルニカ風の絵などを取り込んだ美術も見どころで、『怪 〜ayakashi〜』の「化猫」と同名ながら別の物語として描かれている。
映像表現[編集]
本作の代名詞が、和紙の質感をテクスチャーとして画面全体に重ねる独特の映像スタイルだ。色づかいは極彩色で、構図は浮世絵や歌舞伎の見得を思わせる大胆なものが多い。場面転換で障子や襖が次々に開いていく演出も、シリーズを象徴する表現として知られる。
しかもこの美術的アプローチは、エピソードごとに変えられている。「座敷童子」では浮世絵や目黒雅叙園、「海坊主」ではクリムト風の絵、「のっぺらぼう」では能・屏風絵・表現主義、「鵺」ではモノクロ調と水墨画、「化猫」では大正モダンとゲルニカ風の絵、といった具合だ。モブキャラクターの描き方もエピソードごとに変えられていて、同じシリーズなのに毎回違う画集をめくっているような感覚になる。
美術デザインは倉橋隆と保坂有美、色彩設計は永井留美子、音響監督は長崎行男。2000年代の深夜アニメで、ここまで画面のデザインに振り切った作品は珍しい。
劇場版三部作[編集]
15周年で劇場版が始動[編集]
2022年6月の「十五周年記念祭」で劇場版の制作が発表され、当初は2023年公開の予定だった。完全新作エピソードで、舞台は江戸時代の大奥。第一章の制作ではクラウドファンディングも行われた。最終的に劇場版は三部作となり、中村健治が引き続き作品を率いた。キャラクターデザインは漫画家の永田狐子、音楽は岩崎琢が担当し、主題歌は三部作すべてをアイナ・ジ・エンドが歌っている。
| 作品 | 公開日 | モノノ怪 | Netflix配信開始 |
|---|---|---|---|
| 劇場版モノノ怪 唐傘 | 2024年7月26日 | 唐傘 | 2024年11月28日 |
| 劇場版モノノ怪 第二章 火鼠 | 2025年3月14日 | 火鼠 | 2025年8月14日 |
| 劇場版モノノ怪 第三章 蛇神 | 2026年5月29日 | 蛇神 | 2026年9月29日 |
三部作は、主人公側の視点が新人女中、御中臈、御台所と、大奥の中で少しずつ上の立場へ移っていく構成になっている。第三章では御台所・幸子(声:種﨑敦美)を軸に、大奥150年の秘密と「シリーズ最恐」とうたわれたモノノ怪・蛇神が描かれた。第三章は溝呂木北斗役の津田健次郎、150年前の大奥にかかわる人物役の沢城みゆきらも出演し、Filmarksの初日満足度ランキングで1位を獲得したと報じられている。
海外でも評価[編集]
第一章『唐傘』はカナダのファンタジア国際映画祭で今敏賞を受賞し、第二章『火鼠』も同映画祭で賞を受けた。三部作はいずれも劇場公開から数か月後にNetflixで世界独占配信されており、TVシリーズを知らない海外の視聴者にも作品が届くきっかけになった。
薬売りの声優交代[編集]
劇場版の発表時点では、TVシリーズに続いて櫻井孝宏が薬売りを演じることになっていた。しかし2023年2月28日、劇場版の公開延期とあわせて櫻井の降板が発表される。制作側は、劇場版が大奥を舞台に女性たちの苦しみと救済を描く作品であることを挙げ、「作品性の観点からの決断」と説明した。
同年8月4日、新たな薬売り役として神谷浩史が発表され、劇場版は2024年夏公開と告知された。劇場版の薬売りは「坤(こん)の薬売り」と位置づけられ、TVシリーズの薬売りは「離(り)の薬売り」として区別されている。つまり、声が変わっただけではなく「別の薬売り」という整理になったわけだ。
ところが2026年5月公開の第三章では、物語の終盤に櫻井演じる「離の薬売り」が、坤の薬売りの応援要請に応える形で登場した。事前告知はなく、劇場で初めて明かされるサプライズ演出だった。この判断は賛否を呼び、企画プロデューサーの山本幸治は2026年6月5日にXで声明を発表。事前に告知しなかったことで「鑑賞するか、しないかを選択する機会」を損ねたとして謝罪し、自身はプロデューサー業から引退すると表明した。
最新動向(2026年)[編集]
三部作完結後の2026年7月5日には『モノノ怪』の新プロジェクト始動PVが公開され、3人目の薬売り「乾(けん)の剣」が初お披露目された。声を担当するのは、舞台版『モノノ怪』で薬売りを演じた新木宏典。キャラクターデザインは劇場版に続いて永田狐子が担当し、普段は飄々として饒舌なのに、モノノ怪が現れると一変するという二面性のあるキャラクターとして紹介されている。
あわせて、離・坤・乾の3人の薬売りをそれぞれ主人公にした完全新作小説3冊を角川文庫(KADOKAWA)から刊行する計画も発表された。劇場版のノベライズとしては、脚本の新八角による『小説 劇場版モノノ怪 火鼠』『小説 劇場版モノノ怪 蛇神』も角川文庫から出ている。2026年10月時点で、新プロジェクトの具体的な映像化の形式や時期は続報待ちの状態だ。
炎上とバズ[編集]
- 2023年の声優交代発表時は、長年櫻井の声に親しんできたファンから戸惑いの声が上がり、大きな話題になった。劇場版では神谷の薬売りを「坤の薬売り」という別の存在として整理し、三部作を通して神谷が演じ切った。
- 2026年の第三章では、事前告知なしの「離の薬売り」登場が大きな議論を呼び、企画プロデューサーの引退表明にまで発展した。完結編の公開直後に制作サイドのトップが去るという、異例の幕引きとなった。
- 第三章は公開日に関連ワードがXのトレンド入りし、公開3日間の成績が前2作の同期間を上回るペースだったと報じられている。
余談[編集]
- 漫画家の蜷川ヤエコによる漫画版も描かれており、「海坊主」編は月刊コミックゼノンで2013年から2015年にかけて連載された(全2巻)。
- 2007年のエンディング「ナツノハナ」は、JUJUが2007年8月8日にリリースしたシングルの表題曲。カップリングにはダフト・パンクの「Something About Us」のカバーも収録されている。
- 退魔の剣の声と、殺し屋の直助、船長の五浪丸、お蝶の夫、東侍の室町、記者の森谷と、竹本英史はエピソードをまたいで何役も演じている。劇場版第三章でも溝呂木朔役で出演した。
- 「海坊主」編で加世を演じたゆかなは、「化猫」編の女給・野本チヨも担当している。劇場版第三章でも天局役で出演した。
- 「海坊主」編の廻船の名前は「そらりす丸」。妙にSFっぽい名前が、和風ホラーの世界にさらっと紛れ込んでいる。

