歌い手

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概要[編集]

歌い手(うたいて)とは、ニコニコ動画YouTubeなどの動画サイトに「歌ってみた」動画を投稿して活動する、インターネット発の歌唱者を指す言葉である。既存曲やボーカロイド曲をカバーする文化から生まれ、まふまふそらるAdoのようにメジャーシーンでトップクラスの人気を得た人物も多い。

詳細[編集]

「歌い手」という呼び方は、2007年ごろにニコニコ動画で「歌ってみた」というタグが定着したことに端を発する。当時、初音ミクなどのボーカロイドを使ったオリジナル曲(ボカロ曲)が大量に投稿されており、それを人間が歌ってカバーする動画が「歌ってみた」、その投稿者が「歌い手」と呼ばれるようになった。プロの歌手ではなく「動画を投稿している人」というニュアンスを含んだ、ネット文化ならではの言葉である。

初期の歌い手は顔を出さず、イラストの「立ち絵」やハンドルネームで活動するのが一般的だった。これは匿名性を前提とするニコニコ動画の文化と、ボカロ曲のカバーという「二次創作」的な出自に由来する。顔出しをしないまま数百万人のファンを獲得し、武道館や東京ドームのステージに立つという、従来の芸能界にはなかったスターの生まれ方が、歌い手文化の最大の特徴といえる。

2010年代後半以降、活動の中心はニコニコ動画からYouTubeへ移り、すとぷりいれいすのようなグループ型の歌い手ユニットが10代を中心に爆発的な人気を得た。さらに2020年には歌い手出身のAdoが『うっせぇわ』で社会現象を起こし、「歌い手」という出自が一般層にも広く知られるようになった。現在ではVTuberの歌枠やTikTokの歌唱動画まで含めて、ネット発の歌唱文化全体を緩やかに指す言葉としても使われている。

歴史[編集]

ニコニコ動画黎明期(2007年 - 2010年)[編集]

2007年、ニコニコ動画に「歌ってみた」カテゴリが生まれ、ボカロ曲やアニメソングをカバーする動画が急増した。この時期に活動を始めた歌い手は「第一世代」と呼ばれることがあり、ニコニコ動画の公式イベントや、ボカロPと歌い手が共演するライブが行われるようになった。CDは同人流通(同人音楽)として即売会やアニメショップで販売され、メジャーデビューとは別のルートでファンとつながる仕組みができた。

個人歌い手の黄金期(2010年 - 2016年)[編集]

2010年代前半には、そらるまふまふ、天月、96猫浦島坂田船(2013年結成)といった歌い手が人気を集め、ボカロ曲のカバーだけでなくオリジナル曲やセルフプロデュースのアルバムを発表するようになった。歌い手同士のコラボ動画やユニット結成も盛んで、まふまふとそらるによる「After the Rain」(2016年)はその代表例である。ライブ会場も次第に大きくなり、Zeppクラスから武道館、アリーナへと規模を拡大した。

YouTube移行とグループ時代(2016年 - 2020年)[編集]

2016年に結成されたすとぷりは、YouTubeとTwitterを主戦場に、メンバーそれぞれのキャラクター性と「リスナー」と呼ぶファンとの距離の近さで10代の圧倒的支持を得た。以後、いれいす(2020年)など、複数人で歌・ゲーム実況・雑談を展開するグループ型が主流となり、歌い手は「歌う人」から「動画クリエイター」へと活動の幅を広げた。この時期から歌い手専門の事務所やレーベルが整備され、ビジネスとしての基盤も固まった。

メジャー化と社会現象(2020年 - )[編集]

2020年10月、当時17歳の歌い手Adoが『うっせぇわ』でメジャーデビューし、翌年にかけてストリーミング再生数が爆発。顔を出さない歌い手が国民的ヒットを飛ばしたことは、歌い手文化がメジャーシーンと完全に地続きになった象徴的な出来事だった。まふまふは東京ドーム公演を実現した歌い手として知られ、2023年にはAdoが国立競技場でのワンマンライブを開催した。歌い手出身のアーティストは、もはやネット文化の枠を超えた存在になっている。

活動の形態と用語[編集]

歌ってみた動画[編集]

歌い手活動の基本単位。ボカロ曲やヒット曲を歌い、MIX師と呼ばれる音声編集者がボーカルと伴奏を調整し、絵師が描いたイラストや動画師が作った映像を付けて投稿する。この「歌い手・MIX師・絵師・動画師」の分業は、ニコニコ動画の共同制作文化から生まれたもので、クレジット表記が動画説明欄の慣習になっている。

立ち絵と匿名性[編集]

顔を出さず、イラストレーターに描いてもらったキャラクター(立ち絵)を自身の姿として使う文化。ライブでも顔を隠す演出をする歌い手がいる一方、近年は顔出しでテレビ出演する人も増え、スタンスは人それぞれである。

リスナー・歌枠[編集]

歌い手のファンを「リスナー」と呼ぶのはすとぷり周辺から広まった呼び方で、現在は歌い手界隈全体で使われる。「歌枠」は生配信で歌を披露する枠のことで、YouTubeやツイキャスの配信文化とともに定着した。VTuber星街すいせいのように、VTuberでありながら歌枠から歌手として評価される存在もいる。

ボカロPとの関係[編集]

歌い手の楽曲供給源はボカロP(ボーカロイドで楽曲を作る作曲家)である。米津玄師がボカロP「ハチ」出身であるように、ボカロPが自ら歌う側に回る例もあり、歌い手・ボカロP・ボーカロイドの三者は同じ文化圏の中で相互に人材を供給し合ってきた。

関連するネット文化[編集]

歌い手はYouTuberゲーム実況者と活動領域が重なっており、すとぷりやいれいすのメンバーはゲーム実況や雑談配信も並行して行う。ニコニコ動画で同時期に育ったゆゆうたのようなピアノ配信者や、加藤純一のような配信者と共演することもある。宇宙wikiではネット文化系の人物をインフルエンサーのカテゴリで横断的にまとめている。

よくある質問[編集]

歌い手と歌手の違いは?
歌い手はネット動画への投稿から活動を始めた人を指す出自の言葉で、メジャーデビュー後も「歌い手出身」と呼ばれる。歌手としての実力や活動規模で区別する言葉ではない。
歌い手はどうやって収入を得ている?
動画の広告収入、CDや配信の売上、ライブ・グッズ、ファンクラブ、企業案件などが主で、上位層はメジャーアーティストと変わらない規模になっている。
歌ってみた動画は著作権的に問題ないのか?
YouTubeやニコニコ動画はJASRACなどと包括契約を結んでおり、楽曲の「歌唱」自体は許諾範囲内で行える。ただし市販の音源(原盤)をそのまま使うことは認められておらず、伴奏は自作するか許諾された音源を使うのが原則。
「顔出しNG」の歌い手が多いのはなぜ?
ニコニコ動画の匿名文化に由来するほか、イラストの立ち絵を「自分の姿」として育ててきた歴史があるため。

余談[編集]

  • 「歌い手」という言葉自体は古くから「歌う人」の意味で存在したが、ネット用語としての「歌い手」は2007年以降のニコニコ動画で意味が上書きされた。
  • Adoの『うっせぇわ』はボカロPのsyudouが作詞作曲しており、「歌い手×ボカロP」という組み合わせがそのままメジャーヒットになった例といえる。
  • 歌い手のライブでは、メンバーカラーで色分けしたペンライトや、立ち絵のキャラクターを模したグッズなど、アイドル文化とニコニコ文化が混ざった独自の応援スタイルが見られる。
  • 歌い手の同人CDは即売会で数千枚単位が完売することがあり、メジャー流通に乗らないまま「オリコンに入らない大ヒット」が生まれるのも、この界隈の特徴とされる。

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