概要[編集]
玩具(がんぐ)とは、遊ぶことを目的として作られた物のことである。日常語では「おもちゃ」と呼ばれる。日本では産業としての規模が大きく、2025年度の国内市場は1兆1,664億円で過去最高を更新した。
詳細[編集]
「遊ぶために作られた物」という線引き[編集]
玩具の定義は考え出すと厄介である。棒切れでも空き箱でも子供は遊ぶが、それらは玩具として作られていない。逆に、飾るだけで手に取って遊ばないフィギュアは玩具売り場に並んでいる。つまり玩具という区分を決めているのは物の性質ではなく、「遊ぶために設計され、遊ぶものとして流通している」という作り手と売り場の側の事情である。
業界統計はこの線引きを実務的に処理している。一般社団法人日本玩具協会の市場規模調査は、電子玩具/模型・ホビー/男児キャラクター・男児玩具/女児キャラクター・女児玩具/ゲーム類/季節物・雑玩具/基礎玩具(知育・乳幼児玩具、ジグソーパズル)/ぬいぐるみ/テレビゲームという主要9品目で市場を区切る。品目名に「男児」「女児」が残っているのは、売り場が長らく性別で棚を分けてきた歴史の反映であり、近年の商品設計はここから離れつつあるが、統計の枠組みのほうが変わるのは遅い。
素材が変わると玩具の形が変わる[編集]
玩具の歴史は素材の歴史とほぼ重なる。日本の輸出玩具を支えたのはブリキとセルロイドで、いずれも「薄く、軽く、安く、型どおりに量産できる」点が選ばれた理由だった。ブリキは板金を打ち抜いて曲げるだけで立体が作れるので、ゼンマイを仕込んだ動く玩具に向いた。セルロイドは熱で柔らかくなるため吹き込み成形で中空の人形が作れたが、燃えやすいという致命的な欠点があり、規制と事故を経て姿を消していく。
代わりに主役になったのがプラスチック(主にABSやポリスチレン)である。金型を作る初期費用は大きいが、一度作れば1個あたりの原価が下がるうえ、細かい凹凸や差し込み式の接合を設計に織り込める。この「型に金がかかり、数を作るほど安くなる」性質が、玩具の商売の形そのものを決めた。すなわち、確実に売れる数が見込める題材でなければ金型を起こせない。だから玩具メーカーは、知名度をあらかじめ備えた題材=テレビ番組や漫画のキャラクターを求めるようになる。
作品と商品が同じ設計図から出てくる構造[編集]
日本の玩具産業が世界的に見ても特異なのは、番組の内容と商品の構成が最初から一体で設計されている点である。バンダイと東映の関係がその典型で、スーパー戦隊シリーズの変身道具・武器・合体ロボ、仮面ライダーの変身ベルトは、物語の道具であると同時に商品そのものとして企画されている。
この仕組みは順番で理解すると分かりやすい。番組は毎年主人公も設定も入れ替わる→前年の在庫と競合しないので毎年新しい商品を出せる→視聴者の中心層は数年で入れ替わるので「同じ客に長く売る」必要がない→結果として、番組が続くこと自体が商品計画になる。合体ロボが年度後半に拡張されていくのも、追加の戦士が途中から出てくるのも、遊びの進行と購入の進行を一致させるための構成である。
一方でこの結合は制約も生む。商品の売れ行きが物語の展開に影響し、発売日が番組の進行を縛る。ある玩具が売れないという事実は、作中のその要素の扱いが小さくなるという形で画面に表れうる。作品の自由度と商品の計画性はここで恒常的に綱引きをしている。
例外としての模型[編集]
番組連動型の原則から外れる例として模型(プラモデル)がある。組み立てるという行為それ自体が作品の消費とは独立した楽しみを持つため、原作を知らない層には模型として、知っている層には作品の商品として同時に成立する。ガンダムのプラモデルが放送終了後に売れ始めたのはこの二重性によるもので、放送中の番組を前提としない商品群として自立した稀な例である。
市場の現在[編集]
国内市場は2023年度に初めて1兆円を超え、2024年度が1兆992億円、2025年度が1兆1,664億円と更新が続いている。少子化が進むなかでこの伸びが出ているのは、買い手が子供だけではなくなったからである。業界が「キダルト」(kid+adult)と呼ぶ成人購買層と、アメリカ合衆国・アジアからの訪日客によるインバウンド需要が押し上げ要因として挙げられている。
成人層の購買は行動の質が子供向けと違う。予算の上限が高く、単価の高い商品が成立し、X (SNS)やInstagramで開封や作品を見せること自体が楽しみの一部になる。「買って遊ぶ」から「買って撮って見せる」に消費の完結地点が移ったと言ってよく、これは商品設計(箱を開けたときの見栄え、飾ったときの見え方)にも跳ね返っている。
安全基準[編集]
子供が口に入れる前提で作られるため、玩具には固有の安全要求がある。日本では日本玩具協会が運用するSTマーク(Safety Toy)が事実上の業界標準で、機械的性質・可燃性・化学的性質の試験に合格した商品に表示される。法令による強制ではなく業界の自主基準という位置づけだが、流通側が取扱条件として求めるため、実務上はほぼ必須の扱いになっている。
余談[編集]
- STマークの「ST」はSafety Toyの略で、1971年に導入された。マークそのものが認知されているため、贈り物として玩具を選ぶ際の目印として機能している。
- ブリキ玩具は戦後の日本の主要な輸出品のひとつで、素材に使われた薄い鉄板の出所として缶の再利用が語られることがあるが、実際には玩具用の材料として供給された板材が主だったとされる。
- ゴジラや特撮作品の商品化では、着ぐるみのプロポーションをそのまま立体にすると玩具として自立しないため、脚を太くして重心を下げる調整が入る。画面の姿と商品の姿が微妙に違うのはこの種の事情によるものが多い。
- ポケットモンスターやドラえもんのように数十年単位で商品が出続ける題材は、玩具業界では「定番」と呼ばれ、毎年の新作とは別勘定で扱われる。新規題材の当たり外れを定番の売上が吸収する構造になっている。
- 成人購買層の存在が統計に出てきたのは比較的最近だが、現象としてはZ世代以前から模型・鉄道模型・ラジコンの領域に存在していた。近年変わったのは、それが「玩具の買い手」として業界側に認識され、商品企画の前提になった点である。