概要
音楽とは、音の高さ・長さ・強さ・音色を時間の流れの中に組み立てて表現とするものである。ここでは主に、日本で音楽がどのように売られ、どこから収益が生まれているかという流通の側面を扱う。
詳細
日本レコード協会(RIAJ)が2026年3月4日に初公表した推計によれば、2025年の国内レコード市場(音楽ソフト+音楽配信)は3,988億円だった。この統計は協会会員社の実績に非会員社分の推計を加えたもので、国内市場全体の指標として新たに公表が始まったものである。
内訳は次のとおり。
- CD 1,686億1,900万円
- アナログディスク 88億4,700万円
- オーディオその他(カセット・SACD等) 6億500万円
- 音楽ビデオ 507億1,500万円
- ダウンロード 114億1,000万円
- ストリーミング/サブスクリプション 1,377億3,600万円
- ストリーミング/広告収入 202億2,000万円
- 音楽配信その他 6億100万円
日本ではCDがまだ最大項目である
この数字で目を引くのは、CDの1,686億円がサブスクリプションの1,377億円を上回っていることである。世界の主要市場ではストリーミングが売上の大半を占めるのが当たり前になって久しく、物理メディアが単独最大の項目として残っている国は多くない。
なぜ日本だけこうなるのか。しばしば挙げられるのは、CDが「音を聴くための商品」としてだけ売られていないという点である。握手会などのイベント参加券、投票券、複数の異なるジャケット違い、特典映像といった付帯物とセットで販売される形がアイドル分野を中心に定着しており、この場合の購入動機は音源の入手ではなく付帯物のほうにある。音源そのものはサブスクで聴けるので、CDは別の商品として並行して売れる。
ここから導かれるのは、日本のCD市場が「ストリーミングへの移行が遅れている」というより、CDとストリーミングが別の商品として同時に成立しているという理解である。どちらが勝つかという話ではなく、買う理由が違う二つの市場が重なっている。
もう一つ注目に値するのが、アナログディスク88億4,700万円という数字が、カセットテープ等を含む「オーディオその他」6億500万円の約15倍あることである。アナログレコードは1980年代に一度ほぼ市場から消えた規格だが、現在の売上は他の旧規格を大きく引き離している。再生に専用の機材が要るという不便さが、そのまま「わざわざ選んで聴く」という付加価値になっている。
ストリーミングが変えたもの
ストリーミングの普及がもたらした最も大きな変化は、曲が売れる期間の形である。CD販売では発売週に売上が集中し、以後は急速に落ちる。ストリーミングは再生されるたびに収益が発生するため、発売から年単位で再生が続く曲の価値が相対的に上がる。
この違いは制作側の作り方にも影響する。発売週に集中させるなら話題性の設計が重要になるが、長く再生されることを狙うなら、プレイリストに入りやすいか、繰り返し聴ける構成かが重要になる。曲の長さが全体に短くなる傾向や、冒頭数十秒で聴かせる作りが増えたことは、再生数で収益が決まる仕組みと無関係ではない。
もっとも、ストリーミング/広告収入が202億円ある点も見落とせない。これは無料で聴いている層から広告経由で発生している収益で、有料サブスクに入っていない利用者も市場の一部を構成している。
配信文化と音楽
2020年代に入って目立つのは、音楽が「音楽業界の外」から出てくる経路が太くなったことである。
VTuberはその代表例で、カバーが運営するホロライブでは所属タレントのオリジナル曲リリースが恒常的な活動になっている。とくにホロライブインドネシアのように言語の異なる地域を担当する部門では、音楽の比重が高い。雑談配信は言語の壁をそのまま受けるが、歌は歌詞の意味が分からなくても音程・声質・構成が伝わるため、言語が障害になりにくい出力形式だからである。ムーナ・ホシノヴァの建築、アイラニ・イオフィフティーンのイラスト、アユンダ・リスの歌、クレイジー・オリーの多言語といった特徴が部門内に並んでいるのも、言葉に依存しない領域を各自が持つという同じ発想に沿っている。
配信と音楽が結びつく理由は収益構造からも説明できる。配信のアーカイブは流れて消えるが、音楽作品は配信サービス上に残り、再生されるたびに収益になる。活動年数が長くなるほど「残る形」を持つことの意味が大きくなる。
アイドルの分野でも、TOKYO IDOL FESTIVALのようなフェスや定期公演といった自前の稼働が収益の柱になっており、音源の売上だけでグループの規模を測ることはできない。ババババンビやMooove!のようなグループが順位や動員で語られるのはこのためである。日本武道館や東京ドームでの単独公演が節目として語られるのも、席数という分かりやすい指標があるからである。
よくある質問
- 日本の音楽市場は縮んでいるの?
- 2025年の国内レコード市場は3,988億円と推計されている。この推計値の公表自体が2026年に始まったばかりで、過去との厳密な比較には注意が要る。市場全体の傾向としては、CDが減る一方でストリーミングが伸びる形が続いている。
- なぜ日本ではCDが売れ続けているの?
- CDがイベント参加券や特典と組み合わせて販売される形が定着しており、購入の動機が音源の入手だけではないためと説明されることが多い。
- サブスクとダウンロードはどう違うの?
- サブスクリプションは月額などで聴き放題になる形式、ダウンロードは曲やアルバムを個別に購入して手元に保存する形式である。2025年の推計ではサブスクが1,377億円、ダウンロードが114億円で、10倍以上の差がついている。
- レコードはなぜ復活したの?
- 音質の好みを挙げる人もいるが、市場としては「手間をかけて聴く体験」や現物としての所有感が支持されていると見るのが一般的である。ただし評価は分かれており、一時的な流行と見る意見も残っている。
余談
- 音楽ビデオが507億円と、ダウンロード(114億円)の4倍以上あるのは日本市場の特徴の一つである。ライブ映像作品が商品として成立している市場規模が大きい。
- K-POPのように、国外市場を最初から想定して制作される形が一般化したことも2010年代以降の変化として挙げられる。日本語版・英語版を同時に用意する運用は、かつては例外的だった。
- 声優や俳優が音楽名義で活動する、逆に音楽出身者が映像作品に出るといった行き来は珍しくなくなった。伊藤愛真のように音楽ユニットに在籍した経歴を持つタレントもいる。
- 統計上の「音楽配信その他」6億100万円には着信ボイス・着メロ・着うたの類が含まれている。かつて数百億円規模だった市場が、統計の末尾に小さく残っている形である。