概要
特撮とは、通常の撮影では写せない対象や状況を、ミニチュア・着ぐるみ・合成などの技術によって映像化する手法、およびその技術を前面に出した映像作品のジャンルを指す言葉である。「特殊撮影」の略で、日本ではゴジラやウルトラマンのような作品群を指す言い方として定着している。
詳細
語としては二つの意味が同時に使われている。ひとつは技術としての特撮で、この意味なら国や時代を問わず存在する。もうひとつはジャンル名としての特撮で、こちらは日本語に特有の使われ方に近い。英語圏では技術は special effects、日本の作品群は tokusatsu とそのまま呼び分けられることが多い。
技術の名前がそのまま作品類型の名前になったのは、日本において特定の手法と特定の題材が長く結びついてきたためである。巨大な生物や変身するヒーローという題材が、ミニチュアと着ぐるみという手法とほぼ一対一で対応する期間が数十年続いた結果、手法の名前で作品を呼べるようになった。
主な技法
- ミニチュア — 街や建造物を縮尺模型で作り、実際に壊す。縮尺が小さいほど崩壊は速く軽く見えるため、高速度撮影で撮って再生時に遅くし、重量感を補う。
- 着ぐるみ(スーツ) — 俳優が造形物を着て演じる。表情が作れない代わりに、体全体の構えと動きで性格を出す設計になる。
- 合成 — 別々に撮った映像を重ねる。かつては光学的な処理、現在はデジタル処理が中心。
- 操演 — ワイヤーなどで対象を吊って動かす。飛行や浮遊の表現に使われる。
いずれも「実在しないものを、実在する物体として撮る」という点で共通している。CGが実写と区別のつかない水準に達した現在でも、実物を置いて光を当てたときの質感を目的として、ミニチュアが選ばれる場面は残っている。
テレビへの移行と量産の設計
映画で成立した手法がテレビに移ると、条件が根本的に変わる。映画は1本に時間と費用を集中できるが、連続番組は毎週決まった日に納品しなければならない。1966年の『ウルトラQ』『ウルトラマン』を制作した円谷プロダクションが採ったのは、毎回新しく作るものを怪獣一体に絞り、基地のセット、制服、主要なミニチュアは共用するという設計だった。使い回しを前提にすることではじめて週一回のペースが成立する。
東映の路線はさらに玩具と結びついた。1971年の仮面ライダー、1975年からのスーパー戦隊シリーズは、変身する道具や乗り物がそのまま商品になる構造を持つ。番組が毎年主人公と装備を入れ替える形式になっているのは、商品の年次更新とペースを合わせるためでもある。ここでは番組の続き方そのものが商品計画と一体になっている。
CG以降
2000年代以降、実写作品の映像処理はデジタル合成が中心になり、崩壊する街や飛行する物体の多くはCGで作られるようになった。それでも「特撮」という語はジャンル名として残った。技法が入れ替わっても、巨大なものと人間の大きさの差を画面でどう見せるかという問題設定は変わらないためである。
一方で、ミニチュアや造形物、設計図といった制作資料は、作品が終わると保管先がなく処分されることが多かった。庵野秀明らが関わるアニメ特撮アーカイブ機構は、こうした資料の散逸を止めることを目的として設立されている。技法が現役でなくなった時点で初めて、それが記録の対象になったという経緯がある。
余談
- 円谷英二は「特撮の神様」と呼ばれるが、本人が名乗った肩書ではない。
- 着ぐるみに入る俳優は「スーツアクター」と呼ばれる。顔が映らないため長く名前が表に出にくい職域だったが、近年はクレジットや取材で扱われることが増えた。
- ミニチュアの街には、実在の建物をそのまま縮小したものと、壊すことを前提に設計された架空の建物が混在している。壊れ方の見栄えが優先されるためである。