キングダム

概要[編集]

キングダムは、原泰久による日本の青年漫画。2006年から『週刊ヤングジャンプ』で連載されている、紀元前の中国・春秋戦国時代末期を舞台にした歴史大河ロマンである。一介の下僕(戦災孤児)だった少年・信が、天下の大将軍を夢見て戦場を駆け上がっていく立身出世の物語と、後に中国を初めて統一して始皇帝となる秦王・嬴政(えいせい)の中華統一事業を、二本の柱として描く。

「ただの歴史漫画」と侮るなかれ。むせ返るような熱量の戦場、何十万もの兵がぶつかる大会戦、そして「漢(おとこ)」たちの生き様が、ページから飛び出してきそうな迫力で描かれるのが本作の真骨頂らしい。累計発行部数は1億部を突破し、現代の青年漫画を代表する超ヒット作のひとつにまで成長した。アニメ・実写映画・舞台と多方面にメディアミックスされ、「歴史にまったく興味がなかったのにキングダムで沼った」という読者を量産していることでも知られる。

中国の歴史書『史記』をベースにしつつ、史実に大胆なフィクションを織り交ぜているのが特徴。実在の人物・武将がほぼ全員「濃すぎるキャラ」として登場し、史実では数行で終わる出来事に血の通ったドラマが吹き込まれている。

あらすじ[編集]

時は紀元前、中国の春秋戦国時代末期。秦国の片田舎で下僕として暮らす戦災孤児の少年・信と漂(ひょう)は、「いつか天下の大将軍になる」という夢を分かち合いながら剣の修行に明け暮れていた。ある日、漂は宮廷の役人にスカウトされ城へと上がるが、王宮で起きた政変に巻き込まれ、瀕死の重傷を負って信のもとへ帰り着き、地図を託して息絶える。

漂が命がけで導いた先で、信は漂と瓜二つの少年——秦王・嬴政と出会う。実弟の反乱によって王座を追われた政が、王位を奪還し中華統一の大事業へと踏み出す物語と、信が一兵卒から武功を重ねて将軍への階段を駆け上がっていく物語が、ここから並走を始める。戦いのたびに信は仲間を得て、また失い、少しずつ「漢」として成長していく。

主要登場人物[編集]

信(しん) - 本作の主人公。秦の下僕出身の戦災孤児で、天下の大将軍を夢見る熱血漢。剣の腕と尋常でない胆力、そして仲間を惹きつけるカリスマで、飛信隊という自分の部隊を率いるまでに成長していく。

嬴政(えいせい) - のちの始皇帝。冷徹な為政者の顔と、理想に燃える青年の顔を併せ持つ。「中華を一つにまとめ、戦のない世を作る」という壮大な志を掲げる。

河了貂(かりょうてん) - 山の民の末裔で、軍師を志す少女。当初は蓑を被った謎の存在として登場した。

羌瘣(きょうかい) - 暗殺一族「蚩尤」出身の凄腕剣士の少女。飛信隊に加わり、信を支える重要な存在となる。

王騎(おうき) - 秦の六大将軍の生き残りで「秦の怪鳥」と呼ばれた伝説の大将軍。信に大きな影響を与える。

戦場と大会戦の魅力[編集]

本作最大の見どころは、何十万もの兵がぶつかり合う大会戦の圧倒的なスケール感である。一騎打ちのような個の武勇だけでなく、地形を読み、兵を配置し、敵将の心理を出し抜く「軍略」の応酬として戦が描かれるのが特徴だ。読者は将軍目線で盤面を俯瞰し、布陣の意味が一手ずつ明かされていくたびに、まるで将棋やチェスを観戦しているかのような知的興奮を味わえる。

特に「馬陽の戦い」「合従軍編」「鄴(ぎょう)攻め」といった大型エピソードは、それぞれが一本の戦争映画に匹敵する濃度を誇る。武将同士の因縁、兵士一人ひとりのドラマ、そして勝敗を分ける一瞬の判断が緻密に積み上げられ、「数十万の命を背負うとはどういうことか」という重みまで突きつけてくる。単なるバトル漫画では終わらない深みが、長年読者を惹きつけてやまない理由らしい。

中華統一というテーマ[編集]

信の立身出世物語の裏で進行するのが、嬴政による「中華統一」という巨大なテーマである。六国に分かれて戦乱を繰り返す世を、武力で一つにまとめ上げることは、無数の血を流す行為でもある。本作は「戦をなくすために戦う」という政の矛盾と理想を真正面から描き、「力とは何か」「王とは何か」という問いを読者に投げかけ続ける。

政の掲げる理想に対しては、作中でも他国の王や思想家から痛烈な反論がぶつけられる。武力統一の是非をめぐる議論は単純な善悪では割り切れず、それぞれの国・それぞれの将に「守りたいもの」があることが丁寧に描かれる。敵将にすら感情移入してしまうこの群像劇的な構造こそ、歴史大河としての本作の懐の深さだといえる。

アニメ化[編集]

テレビアニメは2012年からNHK BSプレミアムで放送が開始され、以降シリーズを重ねている。第1シリーズは当時としては珍しい3DCGを多用した映像で賛否を呼んだが、シリーズが進むにつれて作画・演出ともに格段に進化し、大会戦の迫力を映像で再現することに成功した。声の出演も実力派が揃い、信や政、王騎といった人気キャラクターに命が吹き込まれた。

NHKという公共放送で放送されたことの意義は大きく、深夜アニメ層とは異なる幅広い世代に作品が届くきっかけとなった。「子どもが観ていたら親もハマった」「歴史の授業より分かりやすい」といった声がSNSで拡散し、原作既読者の再燃と新規読者の流入を同時に生んだ。アニメ放送に合わせて原作の売上が跳ね上がる現象は、シリーズの度に繰り返されている。

実写映画と評価[編集]

2019年には山崎賢人主演で実写映画化され、興行収入57億円を超える大ヒットを記録した。信を山崎賢人、嬴政と弟・成蟜の二役を吉沢亮、王騎を大沢たかおが演じ、特に大沢たかおの怪演じみた王騎は「漫画から飛び出してきた」と絶賛を浴びた。続編も製作され、実写邦画シリーズとして異例の成功を収めている。

漫画原作の実写化は「失敗の代名詞」とされがちな中で、本作の実写は数少ない成功例として何度も引き合いに出される。大規模なロケと殺陣、CGを組み合わせた合戦シーンの完成度が高く、原作ファンからの拒絶反応が比較的小さかったことも特筆される。漫画・アニメ・実写・舞台と、メディアを横断して支持を広げ続ける本作は、令和の歴史エンタメを牽引する存在だといえるだろう。

飛信隊と仲間たち[編集]

信が率いる部隊「飛信隊」は、本作の人気を支えるもう一つの核である。寄せ集めの歩兵から始まった飛信隊は、戦を重ねるごとに精鋭部隊へと成長し、個性豊かなメンバーが信を支える。軍師として頭角を現す河了貂、寡黙な剣士・羌瘣、頼れる副長・渕、そして数多の名もなき兵士たち——彼ら一人ひとりに居場所と物語が与えられているからこそ、戦場で誰かが倒れるたびに読者の胸は締めつけられる。

「仲間と共に駆け上がる」という少年漫画的な熱さと、「戦には必ず犠牲が伴う」という歴史漫画の冷徹さ。この二つが矛盾なく同居しているのが飛信隊というチームの魅力だ。勝利の歓喜と喪失の痛みを繰り返しながら、信は「ただ強いだけの男」から「人を率いる将」へと脱皮していく。その成長曲線こそが、長期連載を貫く背骨になっている。

史実とフィクションの融合[編集]

本作は中国の歴史書『史記』を主な下敷きにしており、登場人物の多くは実在の人物である。信のモデルとなった李信将軍をはじめ、王翦・桓騎・蒙恬といった武将、そして秦王・嬴政(始皇帝)はいずれも史実に名を残す人々だ。一方で、史実にはわずかな記述しか残らない人物に大胆な性格付けと因縁を与え、戦の経過にもフィクションを織り交ぜることで、史料の行間に血の通ったドラマを描き出している。

この「史実7割・創作3割」とも言われる絶妙なバランスが、本作を唯一無二の歴史エンタメにしている。読者は物語を追いながら自然と中国史の流れを覚え、「この後どうなるのか」を史実で予習することすらできる。結末を知っていてもなお先が気になるという、歴史漫画ならではの中毒性を最大限に引き出した作品だといえるだろう。

受賞と記録[編集]

本作は2013年に第17回手塚治虫文化賞のマンガ大賞を受賞し、歴史漫画として高い評価を確立した。累計発行部数は1億部を突破し、青年漫画としては屈指の売上を誇る。アニメ・実写映画・舞台・ゲームなど多岐にわたるメディアミックスが展開され、毎年のように関連作品が話題を呼ぶ。長期連載でありながら勢いが衰えないどころか、巻を追うごとに新たな読者を獲得し続けている稀有な作品である。

炎上とバズ[編集]

  • 「もう何巻まで出てるんだ」問題 - 長期連載ゆえに巻数が膨大になり、「今から読み始めるには勇気がいる」とよくネタにされる。とはいえ「一度読み始めると止まらない」という声が大多数で、結局みんな沼っていくらしい。
  • 実写映画の大ヒット - 2019年公開の実写映画『キングダム』が興行収入57億円を超える大ヒットを記録。続編も次々と作られ、漫画原作実写としては異例の成功例として語り草になった。山崎賢人主演の信、吉沢亮の嬴政らキャスティングがハマったと評判。
  • 「合従軍編」の盛り上がり - 大国・秦に他六国が連合して攻め込む「合従軍編」はシリーズ屈指の盛り上がりを見せ、アニメ放送時にはSNSのトレンドを連日席巻した。
  • 史実ネタバレ論争 - 実在の歴史が下敷きなので「ネタバレは史実を調べれば分かる」という独特の立ち位置。「結末を知っていてもなお面白い」のが歴史漫画の強みとして再評価された。
  • 作画ペースと休載 - 人気絶頂期でも作者の体調や作画都合で休載が入ることがあり、そのたびに読者がやきもきするのも風物詩。

余談[編集]

  • 作者の原泰久は、デビュー前は会社員をしていたという苦労人エピソードを持つ。読み切りを経て本作で大ブレイクした遅咲きの作家らしい。
  • 主人公・信のモデルは、史実に実在した秦の将軍「李信」。史実では数行しか記述がない人物に、これだけの物語を与えた原作者の想像力がすごいと評判。
  • 嬴政はのちの「始皇帝」。万里の長城や兵馬俑で有名なあの始皇帝が、本作では理想に燃える熱い若者として描かれており、「始皇帝の見方が変わった」という読者が続出した。
  • 登場する武将たちの「必殺技」じみた戦法や一騎打ちはフィクション色が強いが、それがエンタメとして抜群に機能している。
  • 「中華」「天下の大将軍」など、作中の独特のワードが読者の間で合言葉のように使われる。
  • NHKでアニメが放送されたことで、お茶の間にも浸透。親子で観ているという家庭も多いらしい。
  • 史実の流れを知りたくて世界史の教科書や『史記』を読み始める読者が増え、「キングダム経由で歴史好きになった」層が一定数いる。
  • 作中の名言は数知れず。「武とは何か」を問う台詞の数々は、ビジネス書のように引用されることもある。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • キングダム公式サイト(集英社)
  • 週刊ヤングジャンプ公式