概要
ファストファッション(英: fast fashion)とは、最新の流行を取り入れた衣料品を低価格で、短いサイクルで大量に生産・販売するブランドやその業態を指す語である。早くて安いファストフードになぞらえた呼び名で、2000年代半ばごろから使われるようになった。
詳細
速いのは製造ではなく決定
従来型のファッションブランドでは、新商品が企画されてから実際に店頭に並ぶまでおよそ2年を要する。ファストファッションではこれが約半年に縮まる。
この差を「生産が速い」と読むと、実態を取り違える。2年かかっていたのは、縫うのに2年かかるからではない。企画、素材の手配、承認、生産の発注、流通への引き渡しと、判断の連鎖が長いためである。つまり時間を食っているのは工程そのものより、工程と工程のあいだで誰かの決定を待っている時間のほうである。
半年に縮めるための方法は、各工程を速くすることではなく、判断の段数を減らすことになる。製造小売(SPA)の形をとるブランドが多いのはこのためで、企画・製造・小売のあいだに別会社を挟まなければ、待ちがそのまま消える。ZARAはもともと製造業だった企業が小売にも進出した例、H&Mは小売業者が製造も行うようになった例で、出発点が逆でありながら同じ形に収束している。目的が「一貫させること」そのものだったことが、この収束によく表れている。
「低価格ブランド」と混同される理由
本来の意味は「流行を素早く供給する」ことだが、実際には「低価格ブランド」とほぼ同義に受け取られることが多い。
そうなるのは、速さが買い手からは見えないからである。客が店で見るのは値段と、行くたびに品揃えが変わっているという事実だけで、その裏で企画から店頭までの期間が半年なのか2年なのかは知りようがない。観測できるものが価格だけであれば、語の意味は価格の側へ寄っていく。
ユニクロは一般にファストファッションに分類されることが多いが、流行品よりも定番商品が主力であり、企画から店頭までに1年以上かかることもあるため、本来の定義には当てはまらないという見方がある。創業者の柳井正自身も「ZARAはファストファッションだが、ユニクロは違う」と述べている。これは言葉の定義の話であると同時に、定番中心という商売の形が短サイクルとは逆方向だという主張でもある。
日本国内での推移
日本では2009年の新語・流行語大賞のトップテンに選ばれ、語として定着した。2015年までの10年間で外資系ファストファッションの国内店舗数は倍増したが、その後は閉店・撤退するブランドが増え、2021年時点の国内合計売上は2015年と比べておよそ半分になっている。
この減速の理由は一つに絞れないが、流行の情報がどこから来るかが変わったことは無視できない。雑誌が月単位で流行を示していた時代には、「誌面に載った服を今すぐ安く」という提案に明確な価値があった。InstagramやTikTokによって流行が日単位に分解されると、半年という周期でも追いつかない。速さで差をつける戦略は、比較の相手が速くなれば自動的に効きが弱まる。
一方で、国内勢のユニクロやしまむらが同じ時期に縮んでいるわけではない点も押さえておく必要がある。定番中心のユニクロも、仕入れ型で品揃えが毎回変わるしまむらも、流行の速度とは別の軸で買われている。
評価をめぐる論点
大量生産・短サイクルという形は、衣料品の廃棄量や生産国の労働環境と結びつけて論じられることが多い。供給の速さが選択肢を増やし、これまで高価だった種類の服を広い層が手に取れるようにしたという評価と、着られるまま捨てられる衣類を増やしたという指摘が、いずれも提示されている。どちらの見方も業界全体を説明しきってはおらず、決着した論点とは言いがたい。
余談
- 「ファスト」という言い方が定着した後、対義語として「スローファッション」という語も使われるようになった。ただし定義が論者によって異なり、共通の指標があるわけではない。
- 同じ業態を指して国によって呼び方の重心が違う。日本では価格の安さが中心に置かれるのに対し、欧州では回転の速さや供給量のほうが論点になりやすい。
- 語が広まった2009年は、日本国内で外資系ブランドの大型店が相次いで開業した時期にあたる。言葉が先にあって現象が来たのではなく、店が並んだあとで名前が付いた順番だった。