概要
視聴率(しちょうりつ)とは、あるテレビ番組を、その地区のテレビ所有世帯または人口のうち何パーセントが見ていたかを示す指標である。番組の人気を表す数字として語られる一方、本来は放送局が広告枠を売るための共通の物差しとして作られたものである。
詳細
日本の視聴率調査は、テレビ放送の広がりとともに始まり、現在はビデオリサーチがほぼ一手に担っている。調査に協力する世帯のテレビに機器を取り付け、電源の入り切りと選ばれているチャンネルを自動的に記録する。誰が見ていたかを測る個人視聴率では、これに加えてピープルメータと呼ばれる仕組みが使われ、家族それぞれに割り当てられたボタンを、見始めたときに押してもらう方式が取られている。
2020年3月30日には調査が大きく刷新され、全国で個人視聴率が測られるようになった。2023年4月時点では全国32地区で調査設計と提供指標が統一され、各地区のデータを束ねた全国視聴率も提供されている。かつては「聴視率」という言い方もされた。
視聴率は「人気」ではなく「取引の単位」である
視聴率をめぐる議論は、しばしば「数字が高い番組がよい番組か」という話になる。しかし、この指標が存在する理由はそこにない。
民放が売っているのは番組そのものではなく、番組に付いてくる視聴者の時間である。広告枠の値段を決めるには、その枠にどれだけの人が接するのかを、売り手と買い手の双方が納得できる形で数える必要がある。視聴率は、その数え方を業界全体で一本に揃えるための装置として機能してきた。
調査が一社にほぼ集中しているのも、精度の問題というより取引の都合が大きい。複数の会社が別々の数字を出すと、どちらの数字を根拠に金額を決めるかで毎回もめることになる。全員が同じ物差しを使っているという合意こそが、この指標の中心的な価値である。数字そのものの正しさより、共通であることのほうが先に来る。
この数字は日本テレビ・テレビ朝日・TBSテレビ・フジテレビ・テレビ東京といった民放各局が広告枠を売る際の共通の基準として使われてきた。広告を扱わない日本放送協会でも、番組がどれだけ届いたかを測る指標として参照される。ドラマ・アニメ・スポーツ中継など、番組の種類ごとに数字の出方が違うことも知られている。
世帯視聴率と個人視聴率
世帯視聴率は、家の中で誰か一人でも見ていればその世帯を「見た」と数える。個人視聴率は、誰が見ていたかまで数える。
この違いは年々重くなっている。世帯視聴率は世帯の人数構成の変化に左右されるからである。単身世帯や二人世帯が増えると、同じ「10%」でも背後にいる人数が変わる。広告主が買いたいのは世帯という箱ではなく、商品を買いうる人であり、指標の重心が個人へ移ったのは自然な流れだった。
コア視聴率
コア視聴率は、放送局が独自に定めた年齢層の個人視聴率を指す。定義は局によって異なり、業界共通の決まりがあるわけではないため、局をまたいだ比較には使えない。
この指標が前に出てきたのは、「大きい数字」と「売れる数字」がずれたためである。高齢層の視聴が中心の番組は、世帯視聴率が高くても、その層を対象としない広告主にとっては買う理由が薄い。逆に数字が小さくても若年層が集まる番組のほうが高く売れることがある。視聴率の順位表と、実際の広告収入の順位が一致しなくなったところで、局は自分が売りたい層だけを切り出した数字を使い始めた。
録画・配信と、物差しが増えたこと
録画して後から見た分を含むタイムシフト視聴率、リアルタイムと録画を合わせた総合視聴率も測られている。さらにTVerなどの配信では再生数・視聴完了率・利用者属性といった別系統の数字が出る。2024年にはTVerとビデオリサーチが合弁会社を設立し、配信の視聴データを広告取引に使える形へ揃える動きが進んだ。
ただしNetflixやHulu、U-NEXT、Disney+のような定額制の配信サービスは、視聴データを外部に出さないことが多い。放送のように業界共通の物差しが存在しないため、番組ごとの比較は放送と同じようには行えない。無料で広告を載せるTVerやABEMAが数字を公表しやすいのは、その数字を広告の売り先に示す必要があるからでもある。
半世紀以上にわたり一本の数字で成立してきた取引が、複数の数字を突き合わせる形へ移りつつある。視聴率の順位が持つ意味が以前より小さくなったという説明と、いまなお放送収入の大半がこの指標で動いている以上、中心は変わっていないという説明が並立しており、どちらが実態に近いかは決着していない。
余談
調査に協力している世帯が誰なのかは明かされない。もし特定できてしまえば、その世帯に働きかける動きが出かねず、数字の信頼が崩れるためとされる。指標の値打ちが「共通の物差しであること」に由来する以上、物差し自体が触られない状態を保つことが仕組みの前提になっている。
「視聴率」という業界内部の取引指標が一般の会話に定着したのは、日本のテレビ文化の特徴の一つでもある。同じ構図は映画の興行収入、雑誌の発行部数、動画の再生数にも見られ、いずれも本来は事業者の側の数字だったものが、作品の評価を語る言葉として使われるようになっている。