卵子凍結

概要[編集]

女性の卵子を採取した後に凍結して保存することを指す。

詳細[編集]

正確には、女性の卵巣を過剰刺激して得られた卵子を冷凍保存することをいう。こうして凍結された卵子は、妊娠可能な時期に解凍し、体外受精によって妊娠を試みることができる。

かつては、抗がん剤治療や放射線治療を控えた患者が、治療後に卵巣機能不全を生じるおそれを懸念して卵子をあらかじめ凍結保存するケースがほとんどであった。しかし近年では、結婚・出産年齢の上昇に伴い、健康な女性が将来の妊娠能力を温存するために卵子凍結を選択する例が増えている。[1]

卵子凍結のプロセスは、まず女性本人が生理開始から2~3日目に卵巣刺激ホルモン注射を開始し、約8~10日間毎日皮下注射して卵巣の過排卵を誘発する。最後の注射後2日目に麻酔をかけ、経膣超音波を見ながら卵子を採取する。

通常、1回の施術で約10個程度の卵子を採取し、20年以上の保存が可能となる。

医学的には、卵子凍結が可能とされる時期は30代中後半までとされる。いくら凍結・解凍技術が向上したとしても、凍結や解凍時に卵子へのダメージを完全に避けることはできないため、できるだけ若く健康なうちに採取するのが望ましい。理論的には排卵が始まった直後に採取するのが最も良いとされる。しかし、卵子採取時にはホルモン系が乱されるため自然排卵に影響を及ぼす可能性があるため、適切なバランスを見極める必要があり、一般的には27~29歳の間が最適時期と考えられている。

施術時の副作用や、卵子解凍時の受精失敗の可能性は依然として存在するため、産婦人科専門医との相談と十分な熟慮を必ず経るべきである。

費用[編集]

  • 1周期(採卵+凍結まで):約30万円~60万円
  • 以降の維持費:年間1万円~8万円程度

東京都の卵子凍結費用の助成[編集]

東京都は加齢等による妊娠機能の低下を懸念する場合に行う卵子凍結に係る費用を助成している。[1]

助成額[編集]

卵子凍結を実施した年度 上限20万円 次年度以降、保管に係る調査に回答した際に、1年ごと 一律2万円 (令和10(2028)年度まで実施)を予定(令和5年度凍結の方→最大30万円、令和6年度凍結の方→最大28万円、令和7年度凍結の方→最大26万円)

対象者[編集]

  • 東京都に住民登録があり、採卵を実施した日に18歳以上40歳未満の女性
  • 不妊治療目的の凍結や他の公的助成制度の対象者は除外
  • 制度開始(令和5年10月)以降、1人1回限り受給可
  • 都主催の説明会参加および協力申請→承認後、1年以内に凍結医療行為を開始
  • 凍結した卵子の売買・譲渡・海外移送禁止などの遵守事項あり

対象医療行為[編集]

  • 採卵準備のための投薬
  • 採卵(OPU)
  • 卵子凍結処理

申請の流れ・期限[編集]

  1. 説明会参加・協力申請(LoGoフォーム)
  2. 承認を受けて凍結医療行為を開始
  3. 医療行為終了(採卵日)後、所定書類を添えて助成申請
  4. 書類審査(約3ヵ月)→承認通知→1ヵ月後に振込

問題点[編集]

  • 使用可能率の低さ

凍結・解凍後に実際に正常な細胞として残存する卵子は平均で5~7%程度にすぎない。さらに、採取した卵子を体外受精プロトコルで受精させても多くが失敗し、受精卵(胚)として成長しても正常に子宮内に着床する確率は極めて低い。

  • 保存期間の制限

最大保存期間は約5年とされ、3~5年を超えると凍結後でも卵子の品質が急激に低下し、長期保存の意義が薄れる。

  • 妊婦の健康リスク

卵巣刺激ホルモン注射は複数回にわたり行われ、女性のホルモンバランスに大きな負担をかける。複数の研究でがん発生率の上昇が報告されており、卵子採取を繰り返すことで卵巣の「急速老化」が進む恐れがある。

  • 費用対効果の問題

高額費用がかかる一方で、低い成功率と限られた保存期間により、身体的・金銭的負担に見合う成果を得るのは困難である。

  • 情報提供の不十分さ

多くの医療機関では、上記の成功率やリスクについて十分な説明が行われず、商業的メリットを強調した情報のみが提供される場合がある。患者自身が正確な知識を持たずに施術を受け、後悔するケースも少なくない。

胎児の健康問題[編集]

卵子凍結後は体外受精(顕微授精)に進むが、「障害児リスクが高まる」という不安は情報が混在しているため不安が多い。 まず、そもそも母親の高齢化で卵子の質が落ち、染色体異常(特にダウン症)のリスクは確かに上がる(30代で約0.1%、40代で約1%)。 ただし、体外受精自体が異常児を生みやすくするという確固たる根拠はなく、むしろ「自然妊娠できない背景を持つ患者さん」という母体側の要因が影響している可能性が高い。 日本やフランスの研究でも、自然妊娠と体外受精(あるいは人工授精)で奇形率に差が出ないか、差があっても体外受精と人工授精間では差がないことが示されている。[2] 発達障害についても同様で、台湾のデータには顕微授精でリスク上昇を示すものもあるが、北欧の大規模調査ではリスク増加は認められておらず、結論はまだ出ていない。


余談[編集]

  • 東京では、卵子凍結施術を受ける女性に補助金を支給することを決定し、少子化対策としての活用が注目されている。
  • アメリカの女性たちは、安価でかつ観光も楽しめるという広告を受け、スペインやチェコなどヨーロッパや中南米へ「卵子凍結ツアー」に出かけていると報じられている。
  1. 女性の妊娠可能期間(卵巣予備能)は30代から低下し始めるため、後になって子どもを望んでも妊娠しにくかったり、胎児の先天異常や遺伝性疾患のリスクが高まったりする可能性がある。そのため、若いうちに卵子を保存しようとする事例が多い。