化物語

概要[編集]

化物語(ばけものがたり)は、西尾維新による小説『〈物語〉シリーズ』の第1作にして、シリーズ全体の代名詞ともなった大ヒット作である。2006年に講談社BOXより刊行され、その後シャフト制作によるテレビアニメ(2009年)が社会現象級の人気を獲得した。タイトルの「化物語」は「ばけものがたり」と読み、「化物」+「物語」のダブルミーニングになっている。なんともこのシリーズらしい言葉遊びである。

主人公・阿良々木暦(あららぎこよみ)が、さまざまな「怪異」に取り憑かれたヒロインたちと出会い、彼女たちを救おうと奔走する青春怪異譚……というと真面目に聞こえるが、実態はひたすら喋り倒す会話劇である。とにかくセリフが多い。地の文より掛け合いの方が長いのではというレベルで、読者・視聴者はこの「言葉のラリー」にハマるか否かで評価がパッキリ分かれるらしい。

アニメ版はシャフトと監督・新房昭之の作風が炸裂し、一瞬だけ挟まる謎の実写カット、画面いっぱいの文字、首をかしげる「シャフ度」など、独特の演出が話題をさらった。OPが各ヒロインごとに用意され、それぞれが名曲として今なお愛されているのも本作の特徴である。

あらすじ[編集]

高校3年生の阿良々木暦は、春休みに吸血鬼に襲われ、命を救われる代わりに人間ではなくなりかけた過去を持つ。怪異と関わる体質になった暦は、ある日、階段から落ちてきたクラスメイト・戦場ヶ原ひたぎを受け止めるが、その体はほとんど重さがなかった。彼女は「蟹(かに)」という怪異に体重を奪われていたのだ。

暦はかつて自分を助けてくれた怪異の専門家・忍野メメにひたぎを引き合わせ、彼女の怪異を解決へ導く。これをきっかけに、迷子の幽霊・八九寺真宵の「蝸牛(まいまい)」、後輩・神原駿河の「猿の手(レイニー・デヴル)」、生意気な後輩・千石撫子の「蛇(くちなわ)」、そして親友・羽川翼の「障り猫(さわりねこ)」と、次々に怪異に取り憑かれた少女たちと向き合っていく。

怪異は「人が抱える心の問題」のメタファーとして描かれ、暦は彼女たちの心の痛みに踏み込みながら、ときに自分の身を削って救おうとする。一話ごとに一人のヒロインにスポットが当たる構成で、それぞれが独立した「○物語」というサブタイトルを持つのも特徴である。

主要登場人物[編集]

  • 阿良々木暦(あららぎ こよみ):本作の主人公。お人好しが過ぎて自分を犠牲にしてでも他人を助けようとする。吸血鬼の力の名残で、多少の傷ならすぐ治る体質。基本的に喋りが達者で、ヒロインたちとの掛け合いが物語の中心。妹2人にいつも振り回されている。
  • 戦場ヶ原ひたぎ(せんじょうがはら ひたぎ):メインヒロイン。「蟹」に体重を奪われていた少女で、文房具を凶器のように扱う毒舌キャラ。ツンの破壊力が凄まじいが、暦に救われてからは一途に想いを寄せる。名言製造機。
  • 羽川翼(はねかわ つばさ):暦のクラスメイトで「学校一の優等生」。「何でも知ってるわけじゃない、知ってることだけ」という台詞が有名。「障り猫」に取り憑かれ、抑圧された本心が表出する。
  • 八九寺真宵(はちくじ まよい):「蝸牛」の怪異に関わる迷子の少女。暦と名前を噛み合う挨拶ネタ(「噛みまみた」)の応酬が名物。
  • 神原駿河(かんばる するが):バスケ部のスター後輩。「猿の手」に願いを叶えてもらった代償を背負う。BL好きを公言する天然キャラ。
  • 千石撫子(せんごく なでこ):暦の幼なじみ的後輩。引っ込み思案で「蛇」の怪異に苦しむ。後のシリーズで大きく化ける。
  • 忍野メメ(おしの メメ):怪異の専門家を名乗るアロハ姿の胡散臭い中年。「人は勝手に助かるだけ」が口癖で、暦たちを導く狂言回し。

作風と演出[編集]

原作小説の最大の特徴は、とにかく膨大な会話劇である。怪異との戦いそのものよりも、登場人物たちの軽妙でひねくれた掛け合いが本筋といっても過言ではない。パロディ、自己言及、メタフィクション的なツッコミが大量に盛り込まれ、西尾維新の言葉遊びとリズム感が全開になっている。好き嫌いは分かれるが、ハマると抜け出せない中毒性を持つ。

アニメ版は制作会社シャフトと総監督・新房昭之の手によって、原作の「文字情報の洪水」を映像で再現するという離れ業をやってのけた。画面いっぱいに表示される漢字一文字、コンマ数秒だけ挟まる謎の実写カット(線路や空、無機質な建物など)、極端な色使いの背景、キャラが首をかしげる「シャフ度」など、実験的な演出のオンパレード。これらは賛否を呼びつつも「シャフト演出」として一つのブランドを確立した。

省略と余白を効かせた構図、舞台演劇のような会話シーンの作りは、低予算を逆手に取ったとも言われるが、結果的に唯一無二の映像体験を生み出した。

アニメと音楽[編集]

テレビアニメ『化物語』は2009年に放送され、その後『偽物語』『猫物語(黒)』を経て、セカンドシーズン、ファイナルシーズンへと続く一大シリーズに発展した。劇場版『傷物語』三部作も制作され、アニメ『〈物語〉シリーズ』はシャフトの看板作品となっている。

本作を語るうえで欠かせないのがヒロインごとに用意されたオープニング曲である。戦場ヶ原ひたぎの「staple stable」、羽川翼の「sugar sweet nightmare」、八九寺真宵の「帰り道」、神原駿河の「ambivalent world」、そして千石撫子の「恋愛サーキュレーション」など、いずれも声優本人が歌うキャラクターソングでありながら完成度が高く、単体のヒット曲として愛されている。

特に「恋愛サーキュレーション」は本編から十年以上経った今でもTikTokやYouTubeで海外ユーザーにカバー・リミックスされ続け、世界的なミームソングと化している。エンディングテーマ「君の知らない物語」(supercell)もアニソンの名曲として高い評価を受ける。

評価と影響[編集]

『化物語』は、ライトノベル・アニメの両面で2000年代後半を代表する作品となった。原作小説は累計発行部数が数百万部を超え、「講談社BOX」というレーベルそのものを牽引する存在になった。アニメは商業的にも大成功を収め、各話のBlu-ray/DVDが軒並み高い売り上げを記録したことで「会話劇でも売れる」「演出次第で低予算が武器になる」という新しい可能性を業界に示した。

本作以降、シャフト=新房演出の影響を受けた作品が数多く登場し、「文字を画面に出す」「実写を一瞬挟む」といった手法はすっかり定番化した。キャラクター造形の面でも、戦場ヶ原ひたぎの「凶器を扱う毒舌ヒロイン」像はその後のツンデレ像をアップデートしたと評される。

一方で、「会話が長すぎて中身が薄い」「演出が独りよがり」といった批判も根強く、評価が真っ二つに割れる作品でもある。とはいえ、その唯一無二の個性ゆえに熱狂的なファンを生み続けており、〈物語〉シリーズは今なお新作が作られる長寿コンテンツとして君臨している。まさに「好きな人はとことん好き」を体現した怪作にして快作なのである。

用語と世界観[編集]

本作の世界では、「怪異(かいい)」と呼ばれる存在が人々の心の隙間に入り込む。怪異はそれぞれ「蟹」「蝸牛」「猿」「蛇」「猫」といった動物や妖怪の形を取り、取り憑かれた人物が抱える悩み・トラウマ・願望と密接に結びついている。つまり怪異退治は、そのまま心の問題と向き合う行為になっているわけだ。

物語の鍵を握るのが、春休みに暦を襲った伝説の吸血鬼「キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」。その成れの果てが、暦の影に潜む金髪幼女「忍野忍(おしの しのぶ)」である。彼女との関係は『傷物語』で詳しく描かれ、シリーズ全体を貫く重要な縦軸となっている。

舞台となる地方都市の描写は意図的に無機質で、現実離れした空気感を醸し出す。学習塾の廃墟、人気のない神社、夜の公園といったロケーションが、怪異が現れる「日常と非日常の境界」として効果的に使われている。登場人物たちの名前がいずれも怪異や数字にちなんだ凝った当て字になっているのも、西尾維新らしいこだわりである。

炎上とバズ[編集]

  • 「シャフ度」の大流行:キャラが首をぐいっと傾ける独特のポーズは「シャフ度」と呼ばれ、シャフト作品の代名詞としてネット上で大バズりした。ファンが自撮りで真似する画像が大量に投稿されたらしい。
  • 歯磨きシーンが話題に:阿良々木暦が妹・火憐の歯を磨く「ねばーる」シーンは、あまりに長く濃密な掛け合いで「実質そういうこと」とネットがざわついた。原作・アニメ双方で語り草になっている。
  • 放送落ちと配信先行:テレビ版は一部の話数が放送に間に合わず、ネット配信が先行する事態に。当時としては珍しく「アニメが落ちる」現象としてニュースにもなった。
  • OP総取り替え商法:ヒロインごとにOPが変わる構成は「曲がいいから円盤を全部買ってしまう」と評され、商業的にも大成功。賛否はあれど見事なマーケティングだったとされる。
  • 難解演出論争:一瞬の実写カットや赤背景に白文字の画面に対し「おしゃれ」「ただの手抜きでは」と賛否が真っ二つ。今なお語られる演出論争の火種になった。

余談[編集]

  • タイトルは「ばけものがたり」と読むが、変換しづらいので多くのファンは「ばけものがたり」と打って苦労しているらしい。
  • 作者・西尾維新の名前「NISIOISIN」は前から読んでも後ろから読んでも同じ回文になっている。徹底した言葉遊び好きである。
  • ヒロイン・戦場ヶ原ひたぎの毒舌は「ツンデレ」を超えて「凶器」と評され、文房具を武器にするシーンはあまりにも有名。
  • 「あなたのことが、好きだったんだよ。」など名台詞が多く、現在もSNSで引用されまくっている。
  • シリーズはセカンドシーズン、ファイナルシーズン、オフ&モンスターシーズンと延々続き、もはや何作目か数えるのが大変なことになっている。
  • キャラデザの渡辺明夫(おかま名義時代も)による独特の作画は、原画担当回ごとに微妙に顔が変わるのもファンの楽しみだとか。
  • 神原駿河の「ロリババア」呼ばわりや、八九寺真宵の「噛みまみた」など、キャラ語録の宝庫としても知られる。
  • OP「恋愛サーキュレーション」(千石撫子)は本編放送から十数年経ってもTikTok等で海外バズを起こし続けている息の長い名曲である。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

  • 化物語 公式サイト(アニプレックス)
  • 西尾維新 公式(講談社)